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 マサムネは自分の耳を疑った。しかし、自分の方を指さすホゲを見て、確信に変わる。


(あいつ、裏切ったな)


 マサムネはすぐさま首輪に触れる。


「ジャキさん、ホゲさんが裏切ったんですけど」

「……みたいだな」


 ピピっと電子が隣で鳴った。見ると、先ほどまでホゲがいた場所に首輪が落ちていた。慌てて蹴り飛ばす。首輪が小さく爆ぜた。ホゲに視線を戻すと、彼の首には首輪が無かった。


(自分で外したのか)


 ホゲの意外な特技に驚きつつ、ジャキに報告する。


「ホゲさんは自分で首輪を外したみたいです」

「……チッ。お前が何とかしろ」

「……わかりました」


 マサムネは渋い顔で答える。


「おい、マサムネェ! そこにいるのか!?」


 とレオンが声を荒げたので、マサムネは黒い覆面を被り、茂みから出た。

 黒ずくめのマサムネを見て、レオンは「はっ」と笑う。


「それで正体を隠しているつもりか!」


 マサムネは答えず、じっとレオンを見返す。


「……相変わらず、気持ちの悪い奴だ。どの面下げて、戻ってきたんだか」

「戻ってきたわけじゃないですよ。あいつは、あなた方の宝を奪おうとしている」とホゲは言う。「あいつは、宇宙ギャングにあなた方の情報を売って、生き残ろうとしているクズです」

「ふん。というか、お前は誰だ?」

「あ、私はホゲと言います。あなた方に危機を伝えたくて――」

「そうか。まぁ、どうでもいいや。それより、俺たちの情報をギャングに売ったのか。汚い奴め。追い出して正解だったな」と言って、レオンは侮蔑をはらんだ笑みを浮かべる。「良いことを教えてやるよ、マサムネ。お前を追い出した日、俺たちはパーティーをしたんだ。陰気臭いお邪魔虫を追い出した記念にな。久しぶりに飲んだ酒は、最高にうまかったよ。お前にも参加して欲しかったな」


 マサムネの眉が覆面の下で微かに動いた。

 一瞬の間があってから、口を開く。


「人を追い出して、パーティーをしたんですか?」

「ああ、そうだ。後で動画を見せてやるよ。最高に盛り上がったぜ」

「……そうですか」


 レオンの嘲笑に、マサムネは大きなため息をもらす。彼らの幼稚な振舞いとそんな彼らへ温情を掛けようとした自分に呆れた。


(……まぁ、でも、逆に良かったかも。これで、やることがはっきりしたし)


 マサムネは力強い眼でレオンを見返す。


「あ? 怒ってんのか?」

「いや、俺も調査団を抜けて、良かったんだと思ったんですよ」

「は、強がりを」

「まぁ、頭の悪いあなたには理解できないでしょうね」

「あ? 俺のことを馬鹿にしてんのか?」

「はい。黒ひげ幹部に一瞬で負けたくせに、強者気取りでいる間抜けを馬鹿と呼ばずに何と言えば、いいんですか?」


 レオンの額に血管が浮かぶ。そして、怒りを露わに、猛スピードで駆けだした。


「あ、ぎゃっ」


 レオンの軌道上にいたホゲは、レオンの突進を避けきれず、跳ね飛ばされる。

 毬のように弾むホゲをしり目に、マサムネは冷静な佇まいで、肉弾戦車を迎える。レオンとぶつかる寸前――軽く身を引いて、突進を避けた。

 空を切るレオンの突進。そのまま森へ突っ込み、木のひしゃげる音が辺りに響いた。

 マサムネはレオンを無視して、宇宙船に向かって駆け出す。


「待て、ごらぁ!」


 怒声とともに、レオンは再び突進する。


(相変わらず、攻撃が単純だな)


 力と勢いで何とかしようとする。それが、レオンの攻撃パターン。マサムネは当たる寸前に跳躍し、レオンの突進を交わした。

 再び空を切るレオンの突進。勢いを殺すことができず、宇宙船を支える脚の一本に激突した。脚が折れ、船体が傾く。さすがのレオンも、一瞬で状況を理解し、顔が青ざめた。


「やってしまいましたねぇ」


 マサムネは船体の下に立って、不敵な笑みを浮かべる。

 レオンは唾を飛ばして、反論した。


「お、お前のせいだろ!」

「俺のせい? 俺に攻撃を当てられないあんたが悪いんだろ」


 マサムネは挑発するように手招いた。レオンは顔を真っ赤にしたが、踏みとどまる。


(この状況で挑発に乗らない冷静さはあるか)


 できれば、レオンにもっと船体を破壊して欲しいところではある。


(どうしたものかな……)


 マサムネは上を見て、あるものに気づく。壊れたままのカメラだ。


「まだ壊れたままなんですね、カメラ」

「あ? あぁ」

「そりゃあ、そうか。直してしまったら、あなたの痴態が記録として残ってしまいますもんね」

「そんなことはない」

「何であのカメラが壊れたか覚えていますか? あなたが黒ひげの幹部にぶっ飛ばされたときに、ぶつかって壊れたんですよ」

「ぶ、ぶっ飛ばされてなんかねぇ。適当なこと、言ってんじゃねぇぞ」

「いや、ぶっ飛ばされて、それで気を失ってたじゃないですか」


 レオンは答えなかった。じっとマサムネを見返す。


「前から思っていたんですけど、レオンさんの自分が黒ひげの幹部を倒したと思う根拠は何ですか? あのとき、気絶してましたよね?」

「……覚醒したんだよ」

「はい?」

「覚醒して、あいつをぶっ飛ばした」


 レオンは真面目な顔で答える。その様が、マサムネには自分に言い聞かせているように見えた。


(……いや、俺がそう思いたいだけかもしれん)


 いろいろと思うところはある。が、これ以上時間を掛けても無駄な気がしたので、マサムネは「そうですか」と言って、不敵に笑う。

「なら、もう一度覚醒してくださいよ」

「何?」


 一瞬、だった。マサムネは10メートルほどあったレオンとの距離を詰めると、レオンの腹部に拳を叩きこんだ。重厚な肉体にマサムネの拳が沈む。さらに、前かがみになったレオンの顎に掌底を打ち込み、意識を奪った。

 膝をついて倒れるレオン。マサムネはレオンの両足を持ち、ハンマー投げのように回転しながら、遠心力でレオンを投げ飛ばした。レオンが宇宙船の脚にぶつかり、脚が折れる。二本の脚を失った船体は土下座するように、船体の一部を地面につけた。

 地面に転がるレオンを見て、マサムネは思う。


(少し大人げなかったか? まぁ、でも、自業自得だろ)


 黒ひげの幹部を追い返した時のことが頭をよぎる――。


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