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 マサムネは、戦闘機型の宇宙船に乗って、スモパ調査団がいると思われる『ジャングゥ』を目指した。宇宙船の座席は一列になっていて、先頭の操縦席には額に2本の角があるジャキが座り、マサムネはその後ろに座った。そして、とくにやることもないので、窓の外に広がる宇宙空間を眺めながら、スモパ調査団のことを考えていた。


(……これでいいのか?)


 彼らのことは好きではない。多少の憎悪はあるものの、不幸を願うほど憎んでいるわけではない。だから、彼らを襲うことに、多少の罪悪感を覚え始めた。


(とはいえ、俺も生活が掛かっているからな……。穏便にやるか)


 そんなことを考えていると、後ろから声を掛けられる。


「お、おい。マサムネ」


 マサムネは目を向ける。後ろにホゲが座っていた。


「何ですか?」

「本当にやるのか?」

「そうですね。ここまで来て、止めるわけにもいかないので」

「そ、そうか……」

「というか、どうしてホゲさんも来たんですか?」

「そりゃあ、俺も手伝いたいからよぉ。こう見えて、やるときはやつだぜ、俺は。昔は怪盗と呼ばれていたこともある」


 ホゲは引きつった笑みを浮かべる。


「……なるほど。なら、そんなに心配しなくても大丈夫ですよ。彼らのセキュリティはガバガバなので」


 ホゲの目的はわからないが、とりあえず、自分の邪魔だけはしないで欲しいと思う。


「おい」とジャキ。「ジャングゥについたぜ」

(早いな)


 航行時間はおよそ30分。ワープ技術が発展した現代では、惑星間の移動にそれほど時間が掛からない。

 マサムネは窓の外に視線を移す。目の前に青い惑星があった。ジャングゥである。ジャングゥは比較的新しい惑星で、海と大陸が存在し、大陸の大部分は緑で覆われていた。高度な知能を有した生物が存在しないため、宇宙政府の管理下にあるのだが、常時監視などをしているわけではないので、いろいろな宇宙人が、身を隠すために利用している。


「で、どうやってここから調査団を探すんだ? まさか、しらみつぶしに探すわけじゃないよな?」


 マサムネはメモを取り出して、ジャキに渡す。


「この条件で、追跡信号を送ってもらっていいですか? 近代的な建築物がないこの惑星で、この信号を受信できる場所は限られています。なので、この信号を受信した場所から、彼らを見つけることができると思います」

「りょーかい」


 ジャキは、ジャングゥに向かって信号を飛ばす。数分の間があってから、ジャングゥの地図に、赤い点が10個ほど現れた。


「反応があったのは、ここの地点みたいだな。で、どこにいるんだ?」


 マサムネは、これまでの傾向をもとに、彼らがいる場所を推測する。そして、北にある1点を指した。


「……ここですかね」

「よし、行ってみるか」


 宇宙船は加速し、大気圏に突入した。そして、ステルス機能なども活用しながら、目的地まで移動し、5km ほど離れた森の中に着陸する。


「これ以上、この機体で接近するのは難しい。だから、歩いて行け」

「……わかりました」


 スモパ調査団の探知スキルを考慮すると、もう少し近づいてもバレない気はしたが、ジャキからの命令なので、渋々従う。

 船から降りると、ジャキが自分の首を指さして言った。


「そいつのことを忘れるな」


 マサムネは首に装着された細いシルバーの首輪に触れる。それは、GPSと通信機能を有した小型爆弾だった。逃げ出そうとしたら殺す、とジャキは目で語る。


「わかってます」


 マサムネは頷き、歩き出した。

 少し歩いてから、ホゲが口を開く。


「な、なぁ、マサムネ。本当にやるのか? その、とんでもなく強い奴がいるんだろ?」


 マサムネはため息を吐きそうになる。ホゲは人の話を聞いていたのだろうか。ここまで来て、調査団狩りを止めるわけにはいかない。レオンを恐れているようだが、それほど警戒すべき相手ではないことは、地獄組の前でも伝えている。だから、ついてくるなら、黙ってついてきて欲しいところだ。


(……ここでイライラしてもしゃーないだろ)


 マサムネは、自分にそう言い聞かせて、努めて冷静に答える。


「はい。やります。あと、鉄腕のことはそんなに警戒しなくて大丈夫ですよ」

「……どうして?」

「噂ほど強くないんで」

「でも、そ、それって、お前の感想だよな?」


 マサムネは振り返って、ホゲを一瞥する。ホゲはマサムネの言葉を信じていないように見えた。その様を見て、舌打ちしそうになる。


(俺のことを信用できないなら、最初からついてくるなよ)


 苛立ちを覚えたが、隠すように視線を前に戻す。


「まぁ、そうですけど。でも、マジでそんなに強くないですよ?」

「ふぅん」

「それに、その人とは、できるだけ戦わないようにするつもりです」

「というと?」

「忍びこんで、盗むことにしました。無駄な戦闘は俺も避けたいんで」

「無駄な戦闘を避ける。た、確かに、それは良い案ではあるな。でも、セキュリティも厳重なのでは? 『スペースダイヤモンド』を保有しているのだろう?」

「外から見れば、そうかもしれません。ただ、内情を知っている俺からすると、彼らのセキュリティは穴が多いです」

「本当か?」

「本当です」

「そ、そうか。ちなみに作戦とかは決まっているのか?」

「はい。それなら――」


 マサムネは、歩きながら作戦を説明する。

 そして、説明が終わるタイミングで目的地に着いた。

茂みに身を隠しながら進むと、目の前に巨大な円盤が現れた。スモパ調査団の宇宙船である。4本の脚を広げ、ボディが緑色になっていた。光学迷彩による擬態だ。一週間ぶりの機体をマサムネは懐かしく思う。


「あ、あれが、スモパ調査団の船なのか?」


 声を潜めるホゲに、マサムネは頷く。


「そうです」

「あ、あれが、その鉄腕のなんちゃらというやつか?」


 ホゲの指さす先に、赤髪の男がいた。レオンである。レオンは宇宙船の真下にいて、胡坐をかいた状態で、にらみを利かせていた。


「はい」

「つ、強そうだな」

「見た目だけですよ」


 マサムネはレオンから船体に視線を移し、双眼鏡で詳しくチェックする。見た目上は、とくに変わっていないので、作戦通りにいけば、楽々侵入できそうだ。


「よ、よし。なら、俺があいつの気を引こう。その間に、マサムネは船に潜入してくれ」


 マサムネは眉をひそめる。計画にない行動だった。


「いや、その必要はないんですが」

「だ、大丈夫。俺に任せろ」


 そう言って、ホゲは茂みを飛び出した。


「あ、ちょっと」

 ホゲの勝手な行動にマサムネは舌打ちする。


(人の話を全然聞かねぇじゃん)


 今すぐにでも茂みに引き込みたいところだったが、レオンが気づいたので、諦める。


(しゃーない。あの人が気を取られている間に、潜入するか)


 マサムネが移動しようとして、レオンの声が聞こえた。


「止まれぇい!」


 空気が震え、遠くの方で、鳥が飛び立つ音が聞こえた。

 マサムネはいったん止まる。


(相変わらず、声がでかいな)


 レオンに歩み寄っていたホゲも立ち止まり、卑屈な笑みを浮かべた。そして、ごまをするように手を揉む。


「誰だ、てめぇ」


 レオンは立ち上がって、ホゲをにらみつける。威圧的な態度に冷や汗をかきながら、ホゲは答える。


「あ、あのスモパ調査団の『鉄腕』さんですよね?」

「あ? まぁ、そうだが、それがどうした」

「じ、実はあなたにお伝えしたいことがありまして」

「何だ?」

「マサムネという男をご存じですか?」

「マサムネ? ……ああ、知らないこともない。そいつがどうした?」

「は、はい。実はそのマサムネが――あなた方のお宝を奪おうとしているんです」


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