竜と爽
陽と目を見て話していた。
ふと、風でなびくカーテンが目の端に入る。
「ねえ、生きてて楽しい?」
不意にそんなことを聞く陽。
「え?」
急な問いに真奈は戸惑った。
陽を見てみると様子がおかしい事に気づいた。
「ねえ、どうなの?」
口調が違う、声質が変わっていた。
そんな声で、とても良い笑顔で真奈に聞いてくる。
陽の目を見ると、何もかもに興味を無くしたような目があった。
戸惑いながらも真奈は正直に答える。
「わかりません。楽しいときもありますし、楽しくないときもあります」
「そうなんだ?ふーん」
あっけらかんとした態度で話す陽。
違和感を感じた真奈は、勇気を出して聞いてみる。
「あの……。あなたは、誰ですか?」
「ぼく?ぼくは竜、よろしくね!」
「あ、えと。はい」
『これ』は竜というらしい。
まるで別人のように、性格や口調が違うことに気づいた。
常に笑顔で話す竜。
目には何も映らない。
「ねえねえ。それ、食べていい?」
指をさす先には、陽がくれた差し入れ。
その袋から飛び出ていたりんごをさしていた。
「えと、はい」
袋から飛び出していたりんごを取り、竜に渡す。
「ありがと!」
両手でりんごを食べる。
もしゃもしゃ、と咀嚼音が病室に響く。
りんごの匂いと、病室の無機質な匂い。
混ざり合うことのない匂いが混ざり合った。
美味しそうな顔で食べる竜。
りんごをまるまる一つ食べて、残ったのはりんごの芯のみ。
「おいしかった!ありがと!」
そう言う竜に真奈は何故か、微笑ましく感じた。
不意にすんすん、と匂いを嗅ぐ竜。
しきりに周りをキョロキョロとした。
「どうしたんですか?」
「ねえ、ここって病院?」
「はい、そうですけど」
そう答えると苦いものを食べたような、そんな顔をする。
「うげ、ぼくにはちょっと難しいかな……」
ボソッとつぶやく竜。
目を瞑ってうつむいた。
「え、あの」
うつむく竜に声をかけようとする。
その瞬間、竜は頭を上げ喋りだす。
「すみません。説明しましょう」
また、雰囲気が変わっていた。
丁寧な口調で言った『それ』は何もかもを見通すような目で言う。
「また……、変わった……?」
そう呟くと『それ』が喋る。
「わかる?僕は爽だよ、よろしくね」
「えと……はい」
返事をする真奈。
さっきとは違う、落ち着いた笑顔でこちらを見ている。
「真奈さん、あなたが初めてだよ」
「え……?」
落ち着いた笑顔で、真剣な声で、真奈に話しかけた。
「ここまで『陽』と深く接してくれたのは」
「なに、が……?」
その声が耳の奥まで響く。
「あなたには少し話そうか。僕たちの、断片を……」




