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約束




 陽が多重人格と明かした日。

 なんの因果か、その日から真奈と陽は交流を深めていった。


 夕方前の昼下り。

 二人はいつもその時間に屋上のベンチで話していた。


 陽が今日あったこと、もしもこうだったらどうするか。

 そんなどうでもいい話を二人は話す。

 真奈もそんな話を聞いて、少し楽しそうだった。


 そんなある日。

 夕陽が落ちていく屋上で、陽は真奈に悩みを打ち明けた。


「最近、俺の記憶がおかしいんだ。この前、言っただろ?いつの間にか知らないとこにいたりって」


 陽が医者に多重人格だと言われた日だ。


「ええ。聞きましたね」


「前のときはだいたい休日にそうなってたんだ。けど、最近は仕事中。いや、休憩中に知らないとこにいたりするんだ」


「それは…、大変ですね」


 仕事中じゃなくとも、記憶がなくなるというのは精神的に辛いだろう。


「ああ。このままじゃ仕事もままならない状況だ。どうにかしたいんだが……」


 はあ……、とため息をつく陽。

 どうやら陽の多重人格が悪化、重症化しているようだ。


「幸せが逃げますよ?」


 陽の口癖、ため息をすると幸せが逃げる。

 その口癖を真奈が言った。


「ん?ああ……」


 何かできることはないか、真奈は考えた。

 そして……、考えついた内容を陽に話す。


「あの……、ご迷惑にならなければいいんですが。私の病室に今度の休日、遊びに来てくれませんか?」


「は?ど、どういうことだ?……え?」


 真奈にそう言われ、戸惑いが口に出る。


「あ!えと……。深い意味はないんです。ただ、休みの日に多いんですよね。それって」


 それ。それは記憶がなくなる瞬間。


「あ、ああ」


 戸惑いながらも相槌を打つ陽。


「だから、って言うのもなんですけど。一日だけ、私の病室に遊びに来て話しませんか?」


「……」


「愚痴も聞きますし、何より記憶がなくなるときに私がいればって思って……。だめ、ですか?」


 陽の方を向いて真剣な顔で言う。


「え、あ……。駄目、って言うわけじゃないけど……。いいのか?」


 確かめるように陽は聞く。


「はい!もちろんです。いつもここで話してくれて、ほんとに助かってるんです」


「そ、そうか……。うん、わかった。休みの日に今度、遊びに行くよ」


「はい!是非来てください!」


 そんな約束をした二人。

 陽は家に帰り、真奈は病室に帰る。



\\\\\



「約束……かぁ……」


 無意識に口に出す陽。

 約束なんていつぶりだろう。


 約束……。家族との、約束……。


 母親とした約束……。

 父親の仕事に行く姿……。

 ぼんやりと頭に浮かぶ。


「いっ!」


 頭が痛い。ズキズキと頭に響く。

 手で頭を抑え、我慢する。


「なん、だったんだ……?」


 痛みが収まり、口に出す。

 さっきまで考えてたことを思い出そうとしても、何を考えていたか分からない。


「ま、いっか!」




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