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二度目




 それは偶然か必然か。

 少女と男はまた、屋上で出会う。


 少し寒い青空の下で、白い吐息が出る。

 ベンチに座る男と少女。


 少女は気まずそうで言葉が出ないようだった。


「あの……えと」


「また会ったな」


 少女の言葉に被せるよう、男が言う。


「えと……はい。また会いましたね」


 少しだけ素っ気なく話す少女。


「これもなにかの縁だ。名前を聞いてもいいか?」


「……」


 気まずい、男はそう思ったのか先に自己紹介をした。


「俺は酒井 陽!よろしくな」


 少し間が空き、少女の口が動く。


「私は真奈……、中村 真奈……です」


 ゆっくりと口を動かす真奈。


「真奈、か。いい名前だな」


 そう言われて真奈は少し頬を赤らめた。


「えと……。陽さんは……今日、なにを……?」


「あ、いや……」


 真奈がそう聞くと、言いづらそうに口を閉ざす陽。


「別に……言いたくないなら……」


「いや。えっと、な。俺……多重人格なんだって」


 口を閉ざす陽に真奈は擁護するように言った。

 しかし、陽はそれを拒否するように話していく。


「多重……人格……?」


「そう、多重人格」


「それって……?」


 真奈がピンとこないような顔をしていると、陽が言った。


「この前、幼い頃の記憶や急に知らないところにいることがあるって言っただろ?それは人格が表に出てる時なんだとよ」


「それは……その」


 真奈は何かを言おうとして、言葉が詰まる。


「小さい頃に強いトラウマやストレスを受けると防衛本能が人格と記憶を分けるんだとよ。詳しくは知らんけどな」


「あ……。辛いこと……?」


「ああ。医者は辛いことがあったんだろうって。記憶が曖昧なのもそのせいだってな」


「そう……なんだ」


 真奈は考える。この人の過去にどんなことがあったんだろう、と。


「多重人格を治すには、そのトラウマを克服するしかないらしい。でもそれは精神的に辛いと思う、って」


「トラウマ……覚えてない……?」


「そりゃあな。その辛いことを隠すために多重人格になったんだから」


「そっか……」


「トラウマを克服、かぁ。そんなのどうやって……」


 ベンチにだらーんとしながら陽が言った。

 そんな中、真奈がベンチから立ち上がる。

 話してくれた陽に誠意を示すように、真剣な顔をして真奈が言った。


「あの……。私……もうすぐ死ぬんです」


「ん……?はあ!?」


 真奈が言った内容に陽は一瞬思考が止まったようだった。

 びっくりしたように声を出す陽。


「詳しくはわからないですけど……。なんかの病気で寿命が縮んでしまって」


「えぇ……。それは……大丈夫なのか……?」


 陽は戸惑いながら聞くと、真奈は答えた。


「もう……大丈夫です……。……諦めたから」


「それは……」


 真奈の苦しいような表情と答えに、陽は何も言えなかった。


「痛くもない、苦しくもない。ただ……生きる時間が減っただけ。いつもそう思ってます」


「……」


 陽は口を閉ざしてしまう。


「いつも……、この屋上に来てるんです。なんでだと思いますか?」


「それは……、陽に当たるためじゃないのか?」


 真奈からの質問に、陽は答えた。


「それもあります。でも、いつも思うんです。ここから飛び降りれたら、どんだけ楽かなって……」


「……」


 少しずつ感情が出て、早口になっていく真奈を陽はそっと眺めるだけ。


「でも……、そんなことしたら迷惑がかかっちゃう。親にも、この病院の人にも。だから私はそんなことできません」


「……」


 大きくなっていく声。

 切実な想いを吐き出していく。


「でも……でも!高校にはいけないし、友達もいなくなって!自分になんの価値がないように感じて……」


「……」


 俯いて、心の奥にあった想いを話す。

 陽はそんな感情的な真奈をそっと眺める。


「私は!なんのために生まれて!何のために生きるの!?わからない!どうして!どうして私だけ……!」


 苦しそうな顔をして、涙を出す真奈。

 陽はベンチから立ち上がり、真奈をそっと抱きしめた。

 背中をなで、頭をなでる。


「大丈夫……。大丈夫だよ、俺がいるから……」


 苦し紛れの慰め。

 だけど、優しい声で、優しい言葉で。優しく背中を、頭をなでる。

 陽は何分間そうしていたのだろう。


「えと……。すみません、取り乱してしまって」


 真奈は我に返り、そう言った。

 すると、陽は抱きしめるのをやめた。


「もう、大丈夫?」


「えと……、ありがとうございます。もう、大丈夫です」


 表情が戻り、声も落ち着いていた。


「なら良かった……」


「では……。そろそろ病室に帰らないといけないので……」


 そう言った真奈は足早に屋上を出た。

 その後ろ姿を陽は名残惜しそうに見つめる。


「あ……」


 声が出てしまう陽。

 それから、屋上のドアの近くにある自販機で陽は缶コーヒーを買った。




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