出会い
「死にたいな……」
カーテンが風でなびく病室の中、ベッドに座る少女がつぶやいた。
何を考えてそんな言葉を言ったのか、寂しげでどこか諦めた表情だった。
ふと、少女がベッドから立ち上がりスリッパを履いて病室を出る。
静かな廊下でスリッパの音だけが響いた。
階段を上ると少し、少女の息が乱れていた。
少女が向かう先は病院の屋上。
少女はいつも、そこで陽に当たっていた。
少女は今日も陽に当たるため、屋上へと向かう。
屋上のドアを開けて、柵の近くにあるベンチに座り街を見渡した。
「はぁ……」
ため息をつく少女。
「ため息つくと幸せが逃げるぜ?」
不意に後ろから聞こえた男の声に少女は振り返る。
「スマン、驚いたか?」
謝ってきた男は黒いスーツで社会人のようだった。
スーツのボタンを止めず、中の黒っぽいセーターが見えた。
少女はその男を見ると、見惚れたように目が離せなくなった。
男はそのまま柵に近づいて手をつく。
少女はそれを目で追った。
「ちょいと失礼」
そう言って男はスーツの内ポケットからタバコを取り出した。
ライターでタバコに火を点け、一息つく。
「ふぅ……」
その声で少女は我に返った。
「それで……、悩みとかあるのか?」
男は街を見下ろしながら、心配げに少女に問いかける。
「別に……」
知りもしない男にそんな言葉をかけられた少女は素っ気なく返した。
「つれないな〜、大人は信用できないか?」
男にそう言われ、少女は反射的に言葉を返す。
「別にそういうんじゃないし」
男はその言葉を聞くと目を瞬かせる。
「そうか、なら良かった」
優しそうな声で男は言った。
タバコの煙を吐くと、空へと舞い上がり雲のように流れて消えた。
少女は男が吐いた煙を眺めた。
男は吸い終わったタバコを携帯灰皿に入れて、少女が座っているベンチに座った。
「寒いなぁ」
暖を取るように、手をすり合わせて男がつぶやく。
「十一月だから」
男がつぶやいた言葉に、淡々と返す少女。
「そうだな……。もう十一月か」
「……」
少女は何も言わない。
そんな気まずい空気を埋めるように、男は自分のことを話した。
「俺さ、記憶が曖昧なんだよな。いつの間にか知らないところにいたり、小さい頃の記憶も曖昧で」
「そう……なんだ」
見ず知らずの男の話なんて聞かなくてもいいのに、少女は真剣に聞いていた。
「今日はそれで病院に来たんだ」
「それで……、結果は……?」
「まだわかんない」
少女が聞くと男はそう言った。
「そっか……」
「よし!寒いし病院に戻るか!」
その答えに少女は言葉が出ない。
そんな中、男は立ち上がり少女に手を差し出した。
「ありがと……」
少女は手を取って立ち上がり、小さな声で感謝を告げた。
屋上にある自動販売機で男は缶のココアを買い、少女に手渡す。
「俺のおごりだ」
「え、あ……。」
「じゃあな」
男が去り際に言ったその言葉に、少女は虚しく感じた。
風のように階段を降りていく男の姿。
『少ししか話さなかった、だけど』
そんなことを思う少女は去っていく男の後ろ姿を見る。
手を伸べようとして、やめた。




