9話 現代社会のミステリーだ
「おお、中学卒業するくらいからかな?急に女性らしくなったと思ったら、巨乳になってものすごいフェロモンを出すようになった」
「ふーん、昔からの知り合いなの…」
「ストレートだったら子孫を残すための遺伝的、本能的な雄を刺激されるな。しかし、そもそも、あいつは、自分が強烈なフェロモンを発信しているなんて知らないし、なぜ、周りの男が自分を触ろうとするのか、付け回されるのか、まったく理解してない。というよりあいつの頭じゃ理解する方が難しい」
「ストーカーとかあるのか?」
ふふ、と蒲が笑った。
「俺たちみたいな一部の例外を除いて、高校生の時はトラブルが多かったかも。SEXしか頭にない衝動的な年ごろに加え、教師を含めて本人も知らないうちに、多くの雄のスイッチを入れてしまったから、大変だったよな」蒲は僕を見た。
【そして天十郎に話し続けた】
「あいつは、男が好きな俺を、襲われない知り合いという位置づけで、いるみたいだ」
「体臭を消す香料系のものを、からだにつけなくても、安全パイと言う事か?」
「まあ、そんなところだろ、どんなに頑張っても、体にとっては異物だからな。使い方によっては、からだに必要な菌や脂分、フェロモンをそぎ落し、余計な物をからだに残すから、肌が荒れる、悪臭が強くなる、異性は興味を示さない。そして、異性にもてたい奴は、宣伝文句に踊らされて、さらに使う。現代社会のミステリーだ」
「まあ、正直、その悪循環は知っているが、俺たちも仕事だからな…」
天十郎のトーンは落ちている。蒲は話しながら、夏梅の去った脱衣場の方を見た。
「すべての女性が、香料系を使わなくなったら、夏梅はきっと孤立しないだろうけど。そうはいかないだろうな」
「つまり、夏梅の場合はフェロモンが強いのに、他の女性みたいに化粧をしないから、トラブるのか?」
【それは敏感だからなのか?】
「いや、普段に使わないからだろ。夏梅は香水が臭くて、我慢できない事が多いな」
「そうか、嗅覚は慣れる器官だから、使い続けると臭いが強くても、本人はわからなくなる。普段から、慣れていないから、多少の臭いも強く感じるのだな」
「なるほどな。それにしても、夏梅の肌はさらっとすべすべなのに、吸い付くようだ。蒲もなんとも気持ちがいいし、香水の臭いじゃないけど、すごくいい匂いがする」
「そうだろ、オレも夏梅方式を取り入れてから、みんな触りたがる。ついてくるぞ」
「本人はどう思っているの?」
「何を?」
「その、人と違う事。つまりフェロモンが強い事は知らないから…。なんというか…」
「そうね。どうだろうな、今度、本人に聞いてみれば?多分、すべての女性は夏梅と同じだと思っているから、人と違うという発想は無いような気がする」
「聞くだけ無駄なの?」
「そうじゃないけど、あくまで俺の心象だ」
「ふーん」
話ながら、甘える天十郎を、とっても可愛いというような仕草で、蒲はにやにやしている。こいつ何を考えているのか?まさか、同居させようとは思っていないだろうな?