84話 僕の存在
「しかし…だな。アダルトの対象として興味をそそるように、刺激して利益を上げている業界があるから、難しいかもしれないよな」
「天十郎のいうように確かに難しい。でも、そのアダルト業界があったから、ウェブの進化が早かった事も事実だと、立花編集長が言っていた。夏梅や玉美みたいな人間が存在するからと、一概に否定も批判もできない。常にアダルトは最先端を突き進んでいる。欲に群がり利益を上げる社会だから欲望の調整が難しいのかもしれないな」
「表裏一体。その欲の影には、いつも犠牲者がいると言う事か?」
「彼女たちの守り方に、正しい道はないかもしれない。幸せを求めず、バランスの取れたところで、地獄にいない事は、結構いいことなのかもしれない」
「幸せでなくても、地獄に落ちない、ほどほどの方がいいと言う事か」叶一が悟ったように言った。
【僕の話に天十郎は顔をあげ】
「しかし塁は、よくしゃべるな。夏梅がおしゃべりじゃないと言っていたのに」天十郎はあきれたように僕に言った。それを受けて、叶一が
「塁はこの家の中で、一番よくしゃべるよ」
「なにをそんなに、話すことがある?」
「子供四人、いや一人だけ除いて、子供達は話を聞いて欲しい時や質問は、全部、塁が担当しているから、塁だって忙しいよ。特にニコラッチは、常に塁と話をしている。ニコラッチが独り言の多い子だって思っていただろう?違うよ。話し相手は塁だから」
ニコラッチは、僕の情報源の一つでもある。僕を頼ってくれる可愛い子供達だ。気持ちがゆるむ。
天十郎は叶一に
「おお、そうだったのか。それで、一人のぞいてって、誰だ?玉実か?」
「まったくもう、天ママは本当に観察力がないよね。禾一だよ」
「禾一は、塁がわからないのか?」
「違うよ、知っているよ。禾一は、蒲パパと子供達以外には、塁が見えない事に一番先に気が付いた。賢い奴だからうまく立ち回っている」とため息をついた。
まるで、物分かりの悪い子供に、丁寧に説明する親のようだ。もともと、天十郎と叶一は、よく似ていて対立する。最近は、天十郎も大人になって来て、叶一に少し負けてあげるようになって来た。
「蒲はそのことを知っているのか?」
「蒲パパ?知らないんじゃ、ないの?塁は知っている?」
「さあ、僕も、蒲と、その話をした事はないな。体を失った僕を、独占していると思っているかもしれない。でも、見ていれば、わかるのではないか?」
「いや、蒲パパは、俺たちに興味はないからさ、気が付いていないかも」
「なるほど…」説得力のある叶一の言葉に、天十郎は感心した。
【で、お前、からだを捨ててつらくないか?】
僕はその言葉に終わりの見えない長い日々の重たさが悔しくて唇をかむと
「つらいに決まっているだろ、消えてなくなる事だけを、望んでいるよ」
「からだを捨てなくて良かったら、今はどうなっていたかな?俺は夏梅やお前と会っていたかな?今の生活をしていたかな?」
「天十郎、死んだ子の歳を数えてどうする?」
「死んだ子の歳?」
「ああ、いくら思いが強くても、まったくないものを考えても、何もならない、考える事によって、かえって気持ちが揺すぶられるだけだろ?だったら考えずに、無になったところで、気持ちも思いも止めておかないと」
【だよな。これから、どうなるのかな?】
「さあ、わからない、僕にもわからないよ。ただ夏梅とお前の仲を言える立場にはない。出来れば、夏梅は僕だけを好きでいて欲しいけど、そうもいかないだろ。お前は、夏梅の事をなんとも思わないの?」
「よくわからないな。人類を分けると夏梅と他の人だな」
「なにが違うの?」叶一が聞いた。




