8話 大きな番犬
「まあ、そうかな?」
「そんなの、実際に使わなくても、化粧品を使っています。と言えばいいだけだろ」
「そうだけど、それだと虚偽だろ」
「真面目だな。化粧品を使っているのに、冬場に肌がカサカサなんて、おかしいだろ?逆に肌がすべすべなら問題ないだろ。広告主は天十郎の信用を、購入している利害関係だ。逆に私の信用を落とさない製品にしてくれと、要求できるのでないのか?」
「そうなのか?」
蒲の話に、なんとなく納得したような、表情をし始めた。
【事務所は、なんて言っている?】
「茂呂社長の指示に従えと言うな。茂呂社長から電話があると恐ろしい。しばらくは帰る事が出来ないし、SEXのお相手までさせられてはべらされて、べったりくっ付いて気持ち悪い。でも、スポンサーだから仕方ない」
「おかしくないか?その事務所」
「まあな、契約が、あるからな」
蒲達が夢中で話す中、夏梅は天十郎を抱きしめるのに飽きたのか、早々に湯船から出た。夏梅は二人の会話を無視しているのか、興味がないのか、脱衣場に入りバスタオルでからだを拭き始めた。
夏梅と入れ違いに、蒲が下着を脱ぎバスタブに入る。お湯が大きな音を立てて流れるのを見て
「やっぱり、男の人は大きいな。二人で入ると、お湯がなくなっちゃう」
とお湯の心配をしている。夏梅の言葉に天十郎が反応した。
「今、お湯の節約の話か??俺たちの話を聞いていたか?お前の頭の中は何も入ってないのか?ばかなの?」
「馬鹿じゃないもん。蒲、天十郎が増えるなら生活費を増やしてよ」
夏梅が言った。
「夏梅!」
僕は絶句した。夏梅は何を思ったか、天十郎の同居を認めたのである。
「おいおい」
僕は夏梅と蒲に向かって声をかけたが、蒲はそれを無視して、夏梅に
「おい、からだが冷えるから、早くあがれ、俺たち後から出るから」
夏梅は「はーい」と元気よく答えた。
「ねえ、お前さ、俺たちを見ていても平気なの?不思議な奴だな」
蒲が天十郎にねっちこく絡みつくのをよけながら、天十郎は不思議そうに夏梅に問いかけて来た。
【夏梅は、脱衣場で鏡を見ながら】
「はあ?そうだな…。大きな番犬を2匹飼っているようなもんだ。一匹は気を付けないと咬まれるけど、もう一匹は…?どうかしら?キャンキャンうるさいかも、どちらにしても、君達は私とは全く別の生き物だから、絡みたいとは思わないよ。ね」
と鏡の中の自分に小さな声で話しかけた。夏梅の返事が聞こえない、天十郎はさらに言葉を重ねる。
「おい、恥ずかしいとかさ、羞恥心はないのか?」
夏梅は、横目でバスタブの方をチラッと覗き見ると
「お前らには、ない!」
と大きな声で怒鳴った。
そうか…。夏梅は、蒲も天十郎もまったく別の生き物として、見ているのか…。番犬ね…。なるほど。だから二人がべたべたとしていても平気なのか…。
蒲はにやにやしながら
「天十郎、人に見られるのは嫌いか?おれ好きだぜ」
と天十郎に迫る
「おい、蒲、お前さ」
と言いながら、やはり夏梅が気になるようだ。
「まあ、そのうちこの刺激がたまらなくなるぞ」
「おい、蒲」
「しかし、天十郎もやっと夏梅に興味が沸いたな」
「うん、おれ、女に心臓が破裂しそうになるほど反応したのは、初めてだしな」
「だろ、あいつ、お風呂で血行が良くなって、さらにマッサージをかねて垢すりすると、フェロモンがはっきりする」
「いつからだ?」