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ソファベッド  作者: 中島 世期 seki
1章 猫にマタタビ:僕の憂鬱
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78話 篋底(きょうてい)の秘め事

「僕は、いつも夏梅を見ているから当然だろ。天十郎、お前に怖がられても問題ないよ」僕は夏梅に寄り掛かった。



【夏梅の顔を覗き込むと】


 ものすごく緊張した顔で、蒲をにらみつけている。すると、蒲が

「夏梅、なに、睨んでいる。余計なことをしゃべるな」苛立ちながら、夏梅を強く叩いた。夏梅が飛んだ。


「おい!」天十郎が、蒲を叱咤し胸ぐらをつかんだ。初めて、天十郎が夏梅の味方について蒲と対峙し小競り合いになった。その天十郎の行動で、蒲の目は異様に狂った光を放っている。蒲と天十郎が声をあげ、もめている中で夏梅が叫んだ。


「私は知っている。あの日、蒲が塁にしたこと」夏梅の大きな声に、もめていた天十郎と蒲の動きが止まった。

「私、知っているの、あの日だけじゃない。蒲も好きだったくせに?

 私が知らないとでも思っていた?塁は知っていたよ。蒲の気持ちも」


 蒲が僕の方を上目使いで見た。蒲は叫んだ。

「お前になにがわかる。お前は自分が、欲しいものもわからないくせに」

「私が知らないとでも思ったの?」

 動きの止まった二人に向かって、低い声で話し始めた。天十郎も、蒲も氷ついたように夏梅を見ている。そんな二人に構わずに夏梅は話続ける。


「結婚式に持って行くために、お母さんのドレッサーの椅子に乗って、長押にかかっていた両親の写真を、取ろうとしていた私に、『お前なんかいらない、男を吸い取る女なんかいらない』と言って蒲が椅子を蹴った。私は前のめりに頭から窓ガラスに突っ込んだと思った。声が聞こえた。憶えているよ。塁が、『やめろ!一緒に落ちるつもりか!』って塁が、『夏梅のせいじゃない』って何度も言っていた。そして光が落ちる闇に、塁のからだが光の中に浮いたのを見たよ。光が溢れていたはずなのに、塁のからだが消えたとたんに、光の届かない暗い穴倉の奥の方で、重たい本が落ちるような、冷たく、無機質な平たい絶望的な音が響いた。気がついたら廊下で、私は倒れていて、蒲は塁とずっと言い争っていた」



【僕も思い出していた】


 二人に遅れて二階に上がった時、蒲が僕の顔を見ながら、夏梅の足元の化粧台の椅子を蹴った。僕が慌てて駆け寄り、夏梅の手を引っ張るのが精いっぱいだった。勢いよく手を引っ張ったせいで、僕がバランスを崩し、蒲を巻き込みながら窓ガラスを突き破った。


 僕は蒲の首にひっかかるような形で窓の外に、ぶらさがってしまった。僕の覚えている限り、見上げている自分の腕が、ガラスの破片でぱっくり開き、白い骨が見えていた。一瞬の間があって、血が流れた。蒲の顔が僕の血で見えなくなっていく。


 夏梅が窓ガラスに、同じように足を突っ込んで、怪我をした時も、白い骨が見え、とてもきれいな傷口だった。あの時と同じだ。だが、静脈を切ったせいか、僕の腕から面白いように血が流れていた。べたべたとした感触が流れ落ち、気持ち悪かった。なんで腕の内側が切れた?夏梅をかばったから自分がかばえなかったか…な。と思った。


 僕は蒲の首から片手を離した、いや、すでに切れた方の腕には力は入らなかった。

「こいつの事ばかり、いらない。こんな奴いらない」叫んで、蒲が僕にのしかかって来た。


 僕が「やめろ!一緒に落ちるつもりか!放せ。夏梅のせいじゃないだろ」と言うと、

「だいたいお前が選ばないから、俺が選ばせてやる。何度でもやってやる。お前は、なぜ俺を選ばない。選ばないお前が悪い。こんな奴と入籍した塁が悪い」蒲が叫んだ。

「こんなことして、その代償をお前は払えるのか?」

「ふざけただけだろ」

「冗談じゃない、どれだけの事をしているかわからないのか?」

「代償を払えばいいのか?いくらでも払ってやるさ、ただのおふざけだ。欲しいのか代償が?代償を払ってやるさ」

「そうか、じゃあそうしてもらおう。蒲よ、お前の物にはならないが、お前が僕の物になれ」そう、僕が蒲に怒鳴った。


 そういったとたんに、僕は落ちなかったが、からだだけが落ちて行ったのだ。そうさ、僕らは取引をした。問題だったのは、誰が誰を好きかという事ではなく、こいつが悪ふざけを許されると思っている事だ。夏梅は、見ていたのか?いや見る事が出来るはずはない。階段近くまで飛ばされて死角だったはずだ。


 それから、救急隊に担架に乗せられて、玄関から出ているので僕のからだが、落ちているところは見ていないはずだ。

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