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ソファベッド  作者: 中島 世期 seki
1章 猫にマタタビ:僕の憂鬱
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36話 初めての名前

 夏梅は、自分と天十郎がつないだ手を、二人の間に降ろしてから天十郎の後ろに隠すと、ぴったりと夏梅と天十郎はくっつく。まるで天十郎の意志で引き寄せているように他人の目に映る。


 ああ、これ高校生の時に僕と夏梅でよくやっていたな…。


 僕と夏梅なら、夏梅は少し顔をあげて、僕におねだりのキスをするところだが、天十郎の背が高いのでつま先立ちしても、天十郎の唇には届かない。僕だけにする、あのおねだりのキスを拒否できるストレートの雄は、この世には存在しないだろうと、思わずほくそ笑んだ。



【目の前の出来事に】


 美来が黙っているはずがない。つかつかと夏梅に近づくと「人のものを欲しがったらダメよ」夏梅の耳元でささやいた。


 夏梅は、そのささやきに驚いたような顔して「えっ?あなたって誰かの物なの?」天十郎を見上げじっと見つめた。天十郎は夏梅の質問が意外であるかのように「なんだって?」聞き返した。


 夏梅は天十郎に「あなたは誰かの物なの?誰のものになりたいの?」質問を、そのままぶらさずに聞いた。


 天十郎は夏梅の頬に手を置き、見つめながら

「俺か?俺はファンのものだよ。でも本心は夏梅だけのものでいたい…」

 ささやくように優しく言った。夏梅はゆっくりニッコリと笑い

「天十郎」と、ささやいた。


 初めて夏梅が天十郎の名前を呼んだ。僕のすべてが逆流した。


 夏梅はすべてを無視しつつ「私は甘える事しか出来なくて~」と、だる甘の声を出して

「いつもファンの方には驚かされています。沢山の方に支えていただけるなんてこの人は幸せ者なのですね」


 おい!どっから声を出しているのか?腹立たしい。僕は勘に触った。


 しかし、さすが夏梅だ。元カノをあっと言う間に、ただの一ファンと言う位置づけにしてしまった。先ほどまで、所有権の主張をして、優位に立っていたはずの元カノが、茫然としている。考える暇を与えず、夏梅はジャブを出し続けている。



【その、小芝居に俳優魂を刺激されたのか】


 天十郎は何も言わず、自然体で頬においた手で夏梅の頭を撫で、そのまま手を背中に回し、夏梅を抱きかかえ自分の腰を夏梅の腰に押しつける。


 夏梅はその手を少しよけるように腰をムズムズしながら、周りの人が見ているから『ダメよ』的な仕草をする。


 夏梅の言葉と仕草に反応した雄のように、ゆっくり天十郎はサングラスを外し、ただ一筋に夏梅の瞳を見つめた。二人とも、この場で、すぐにでもSEXしそうな勢いだ。


 渾身の演技だ。演技だよな…?こいつ、本当に演技か?


 僕と蒲は二人で顔を見合わせた。さすがに、元カノの美来もこれには口を出せない。話題の中心を違うところに持って行かれたあげく、明らかに他の女に夢中になっている男を見せつけられたのだ。さらに、夏梅はマタタビ女全開のまま天十郎に「モネ~」と、唇と上半身を天十郎に突き出した。


 ブカブカの天十郎のセーターの上からでも、豊かな胸の線が綺麗に出た。周囲の男たちがそれを見逃すはずがない。ため息や騒めきが聞こえる。


「ご一緒してください」夏梅が美来に言い、歩き出した。


 天十郎は、夏梅しか目に入らないように強く見つめ、モネの展示の方角へ移動を始めた。美来がいくら何を天十郎に話しかけても、天十郎は夏梅に夢中。夏梅は多くの男の渦を引き連れて歩き、その頂点に天十郎がいるという構図を作り出した。天十郎が美来に一言も話さずに、美来の負け戦になった。

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