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ソファベッド  作者: 中島 世期 seki
1章 猫にマタタビ:僕の憂鬱
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16話 黒川氏夫婦

「蒲、今もこれからも、こいつが大切なら画策しないで、正直に腹を割って話した方がいいわよ」

「なにを?」抱き着かれたままの天十郎はのんびりと答えた。

「蒲のほんとうの気持ち!」


「知った風な口を利くな!」

 蒲が語調を強め怒鳴った。天十郎が驚き少し体が跳ねた。


 同時に僕が怒鳴った。

「誰になにを言っている!」

 蒲は気が付いたようにこっちを見て、ふっと息を漏らすと下を向いて「悪かったよ」と言ったが、僕は不愉快な蒲の態度に腹を立て睨みつけた。


 その様子に、天十郎が蒲の腕をとって自分の胸に誘導して事態は終息した。しかし、蒲がこのままで済むわけはなく注意が必要だ。夏梅はいつもの事なので、知らぬ顔をしていた。



【翌日】


 釣りの誘いと称して、だてメガネの黒川氏夫婦が経営する美容室のスタッフ、積只吉江を連れてやって来た。どうやら、夏梅が言いつけたらしい。


「蒲はどこに行った?」

 夏梅は黙ったまま二階を指さした。黒川氏は玄関ホールで、夏梅に目で挨拶し爽やかに二階に駆け上がった。妻の日美子さんはキョロキョロして、新たな同居人に興味津々のようだ。


 夏梅は両親が交通事故で急に他界する前から、黒川氏夫婦になついている。そして夏梅のよき理解者だ。夏梅という人を本当の意味で理解できる人は数少ない。僕も十六歳も離れている先輩達を頼って来た。


「まあまあ、夏梅ちゃん元気していた?」

 リビングに入るなり奥さんの日美子さんが夏梅を抱きしめた。いつも少しオーバーだが、両親が亡くなって、今はお母さんのように抱きしめてもらえる、ただ一人の人だ。女性で、お母さん以外に夏梅を理解できる人は、今のところ彼女だけだと思う。彼女が来ると僕も少し安心する。


 それよりも、一緒に来たスタッフの吉江が気になる。おおよその女性は夏梅を敵とみなす。それなのに、さも、親しげに、にこやかに従順そうにふるまっている。気に入らない。さらに、時々見せる、突きさすような視線の先に夏梅がいるのだ。不愉快だ。


 黒川氏が二階から蒲と天十郎を連れてきた。リビングに天十郎が入って来ると、日美子さんと吉江は俳優である天十郎に、すべて持って行かれたように茫然とし、うわずっている。会話が成立しないほどである。なるほど、これが芸能界というものの反応なのか…。ただひたすら感心してしまう。


 夏梅が天十郎と暮らしている事を口外しないように、黒川氏が吉江に念を押している。吉江はどうやら、蒲に気があるようだ。チラチラと蒲を見て面白い。蒲も視線を送っている。目が合うと吉江がうつむく。初めてあった人にパッションを感じて、自分が良く思われたいとすまし顔したり繕ったり、一見、他人から見れば滑稽なパターン化した行動も、からだがあればこそである。こんな風景を見ていると考え深い。

 

 船釣りの誘いは天十郎の引越でバタバタしていたので、いい気分転換になる。僕は賛成だ。

 

 夏梅は美容室の顔が映らないパーツモデル・ヘアモデルや着付けモデルを引き受けているが、天十郎と会った黒川氏夫婦は、夏梅と一緒にモデルをやらないかとさっきから熱心に誘っている。天十郎は困った顔をしていたが、うまく断れずにいた。


 特に女性群はテンションが高い。


 蒲は事務所を通さないといけないと強引な女性群をけん制したが、一種の興奮状態は止められないようだ。

 俳優というただの職業なのに、こんなにもテンションが上がる物なのか?今日、初めて会ったのに、旧知の親友のように振舞い、まるで特権を得たように強引になる。


 なぜ、愚かすぎる行為をするのか?僕はだんだん、うんざりしてきた。天十郎も夏梅と似通った環境なのかもしれないと思うと親近感がわく。


 そんな状況に夏梅が動いた。

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