11話 マタタビ女ってなに?
「つまり、どうしても欲しいものが、捕まえられそうで、捕まえられない。与えてくれそうで、与えてくれない。目のまえにいるのに、いない」
「わからん」
「たとえば、自分の好きなご飯を目の前に置かれて、食べたい欲求で押さえられないのに、一口も食べられない。そんなときは、どう思う?」
「イライラするだろうな、諦めがつかないだろうし、他の奴が寄ってきたら、取られまいと闘争本能むき出しになるだろうし、強引な手に出るかもしれない」
「まあ。そういう事だ」
僕は、二人の会話を聞いていたが、ふと、夏梅を見ると微かな寝息を立てている。夢中になって夏梅の話をしている二人の視線が、夏梅に行かないように、ソファベッドの室内側のレースのカーテンを引いて、遮った。
【どういう意味だ、なんでトラブルになる】
「マタタビ女だからだよ」
「猫にマタタビ?のマタタビか?それって、フェロモンの事か??」
「マタタビは特定の生き物に、ある成分が反応するだろ。それと同じで夏梅は男の興奮剤となる。人類が滅びないために神様が与えた任務を持って生まれた。と言うなんか宗教みたいだが、自然界でバランスを保つために、生まれて来るのさ」
「つまり、あいつみたいな雌が、フェロモンをまき散らさなくなったら、出生率が下がる?と言う事か?なんかもっともらしい説だな」
「だから、夏梅は天十郎の敵じゃなくて、夏梅がいるから僕達がこうやって、愛しているという感情を享受できる。だけど、夏梅には愛が決して手に入らない」
「どうして?」
「性別が男ならわかるだろ。夏梅には反応するけど、感情は抱かない」
「うん、たしかに」
「マタタビは好きで欲しいけど、マタタビに感情を与える事はない。つまり欲だけの関係しか成り立たない」
「欲だけを求められる、あいつの気持ちはどんなだろうな。割り切れなかったら、過酷だな」
「夏梅は男女間や僕らにあるような感情は、今までもこれからも体験は出来ない。フェロモンを出し続けている限り、人類を元気にすることは出来るが、本人は死ぬまで相手から、与えられる愛されるという感情を知らずに死んでいく。だから、親の愛情しか、わからないのさ。それ以外の愛情を、これからも知ることはない。知っているのは、家族愛だけ」
「どういうこと?」
「直球でいうなら、あいつは子供が欲しいのだ」
「子供が欲しい?」
「そう、子供がいる家族愛。それを満たすために俺は、そばにいる」
「他の男に、やらせろよ」
「男専門の俺でも大変な時がある。夏梅を襲いそうになる時はあるさ、お前が、そばにいれば解消できるけど、そんな状態で任せられる男がいるか?」
「知らないよ」
「僕にとっては、夏梅は、子供で、妹で、姉で、妻で母。すべてになりうる存在だ。だけど愛人だけにはなれない。貴重だろ?」
【僕は蒲に、そんな感情が無い事をしっている】
まして女性に対する興味はゼロに等しい。今までの言葉はすべて、僕からの受け売りだ。薄笑いを浮かべて、天十郎に話している。なにを企んでいるのか?僕は腹立たしく、蒲を目で非難した。
「それってさ、決して、男女の関係になれないと、いうこと?」
「さあ、どうかな?神様も人類を滅ぼさないために、こんなものを作るなんて残酷だよな」
「もの?」
「ああ、あの体形、あの性格、すべて整っているくせに、親しみやすい顔立ちだ。美人じゃないから、誰もが手の届く存在と勘違いする。そばに近寄っても、大丈夫なような気にさせて、あのフェロモンだ。夏梅にしてみれば最悪だろ。よけても、よけても男がよだれをたらして近寄って来る状態だ。しかし、現実的にそれをよける方法はない」
「つらいな」
「お前も風呂で見ただろう?」
「風呂では恥ずかしくって、夏梅の裸を直視することが出来なかった」
「そうか?子供サイズの小さな頭に、極めつけの童顔とバストトップ98 アンダー65 ウエスト54 ヒップ85 ブラジャーサイズはH65もしくはG75、完璧な八頭身、バストを除けば七号サイズだけど、胸周りに合わせると十三号サイズだな」