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 この国一の悪女が死んだ。



 悪女はひどく傲慢で、我が儘で、残虐だった。


「わたし、この国が大好きなの」


 それが悪女の口癖だった。

 そう口にする彼女の顔は醜く歪んでいて、言葉通りの意味ではないことは、一目瞭然だった。

 彼女はこの国全てが、さも自分のもののように扱った。


「わたし、この国が大好きなの」


 それはつまり、この国の全てのものが、彼女の思うままに動かせる玩具のようだという意味だ。

 少なからず、ほぼ全ての国民がそう思っていた。



 この国の王女という身分を笠に着て、彼女は悪虐非道の限りを尽くした。

 民の税を自身の贅沢の為だけに使い、

 地方の村を焼き払い、

 禁止されて久しい人身売買に手を染め、

 自身の妹を虐げ塔に幽閉し、

 妹の婚約者に内定していた宰相の令孫を強引に婚約者として、

 戦争を引き起こし、

 宰相を毒殺して、

 ついには自身の実の父さえも殺めた。


 賢王と名高い王は人望が厚く、民からの信頼も厚かった。

 もう何年も病床に臥していたが、それでも彼はこの国の希望だった。

 王の死に人々は悲しみに暮れ、ついに悪女は裁かれ、断頭台に登った。





「何故、こんなことをしたんだ」


 広場の真ん中に、遠くからも見えるようにと舞台が設られ、その上に置かれた断頭台に、悪女が括り付けられる。

 そんな彼女を舞台の下から真っ直ぐに見つめ、男が言った。

 男はこの国の英雄だ。

 先の隣国との戦争で先頭に立って戦い、この国に勝利を導いた英雄。

 そんな彼が、悪女を憎々しげに睨んだ。


「何故? だって、それがわたしの存在理由だからよ」


 そう言って悪女は笑った。

 いつも悪辣な表情を浮かべている悪女らしくない、心からの笑みだった。

 人々は彼女に罵声を浴びせた。


 我々はお前の奴隷じゃない!

 悪行が存在理由だというなら、さっさと死ね!

 今すぐ首を落とせ!

 死ね!

 死ね!!


 悪女が捕まると同時に塔から解放された妹は、そんな悪女を見て目を伏せて涙を流した。

 悪女の婚約者だった侯爵の孫は、悪女の妹を側で支えながら、悪女を睨みつけていた。


 誰もが悪女を呪った。

 誰もが悪女の死を望んでいた。



 民衆の怒号に紛れて、英雄の男が舞台に駆け上ろうとする。

 そして悪女が、何か男に告げた。



 その瞬間、刃が彼女の首の上に落とされた。



 人々が歓声に沸く。

 悪がこの世から消えたことを、誰もが喜んだ。



 彼女の首は朽ち果てるまで広場に掲げられ、その跡地に記念碑が建てられた。

 悪女の首が落ちた日は、この国が悪から解き放たれた記念として国の祝日となった。



 それは、

 悪女の妹が玉座に就き、夫となった侯爵の孫との間に王子が生まれてから、何世代も先まで続いた。



 人々はいつまでも悪女の名前を忘れなかった。


 彼女の名前は、アイリーン・ミステアシュテント。



 この国の歴史上、最もその名が語り継がれた人物である。





よろしくお願いします。

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