竜わからなくて調べる
ある日、いつも鎧や剣を置いてある場所を移動させようとした時にソレを見つけた。
正確には出てきたと言った方がいいのか、尻尾で吹っ飛ばした後に一本だけ取り残されていた。
他の剣に比べてボロボロで鞘に収まったままの剣が地面に突き刺さっている。
……誰の剣だ?俺は剣の形からこの剣を使っていた勇者の姿を思い出す。
確か長い青髪で他の勇者と比べるとすらりとした格好をした勇者だったような。
うーむ、最近殺したはずなのにあまり思い出せない。もっとこちらに近づけたら分かるかもしれない。そう思い俺は尻尾を剣に巻き付けて引き抜こうとした。
抜けない。
え、待って抜けない?あの勇者が片手で軽々と振り回すような剣を俺が抜けない?
俺の腕より小さな剣を持ち上げることが出来ない?
改めて剣をじっと見る。他のキラキラした勇者の剣に比べて貧相に見える。他の剣と比べて少し小さい。なのに、他の剣より重い。
……いや、待て。他の剣が重いか俺はわからないぞ。剣を一本一本持ったことないし基本尻尾ではたくくらいでしか触ってないから、重さなんて気にしたことが無かった。
ちょっと調べてみよう。
全部じゃないけど他の剣の中にも重かった剣があった。違いはわからない。あの剣に比べればキラキラしているのはわかるが、何であんなに重いのか皆目見当もつかない。あんな重い剣で叩かれていたら俺死ぬんじゃないかな?
何で?考えるがわからない。そもそも考えをするだけの情報が俺にはない。母さんたちといた頃から、ずっと勇者を殺す事しかしてこなかった。勇者が使う剣の使い方を知ってはいるが何故持ち上げられないかがわからない。何でこんな重い剣を勇者は片手で軽々と振り回せていたのか。わからない。
何も分からない。
瞬間怖くなった。俺が使えないような武器を軽々と使っていた勇者に、俺が今まで何も知らないで分からない存在と戦っていたことに。
わからない……なら、どうする?
知りたい。理解したい。
そう調べるこの剣がどんなものか、どうして勇者はこんな重い剣を軽々振り回していたのか。そして勇者達とは何なのか。俺は知った方が良いだろう。
まずは剣だ。幸い時間は有り余るほどある。頑張って調べて行こう。
始めてから7回目の日が昇るほど調べた続けた結果、よくわからないことが分かった。
つついてみたが他の剣と同じで壊れる様子はない。魔力を流してみたらカタカタと震えてよく分からない図形や模様が浮かび上がってきた。驚いて離したら収まったが何だったんだろうか?一応覚えておこう。
こんな感じで全く分からん。
勇者達は一体どうやってこんな物を作ったんだろう。全然わからん。
ただ、わかったこともあった。どうやらこの剣は勇者が手で持っていた所を触って持ち上げようとすると重くなることが分かった。全力で持ち上げれば持ち上げられないこともないが、尻尾が重さでプルプルしてまともに使うことが出来なかった。つまり切る部分を触れば普通に動かすことが出来た。前に調べた時は持ちやすい場所を持ったから重かったり軽かったりしたみたいだ。これが分かったから手で持つところを触らずに掴むことで俺は剣が動かせるようになった。
あとは俺の感覚での話だがこの剣、魔力の流れからすると何か他の剣とは違う力を持っているみたいだ。
多分、何か力を封じたりするための剣なのだろう。もっと時間を掛ければ大まかにだが俺でも使えるようになるのだろうか?
しかし、勇者は凄いな。こんな重い剣を片手で軽々と使えるなんて。しかも
俺はチラリと剣の山を見る。
あんなに一杯凄い剣があるなんて、勇者達が生きている場所はもっと凄いところなんだろか。見たい知りたい。出来るなら行きたい。でもこの姿じゃ難しい。一回遠くに行こうとした時は凄い数の勇者達に色んな方向から攻撃されたことがあった。
その時は怒って全滅させたが、勇者達を知りたいのに殺してしまうのは駄目だ。全部食べるのも大変だったし、食べてる最中に別の勇者が来てさらに食べなくてはいけなくなった。この姿だと攻撃されてしまう。何か方法はないものか
いや、ここにあるのは勇者達が身に着けていた物、俺が持てないほどの凄い剣を作れるのだからもっと凄い物があっても不思議ではない。時間はある、探してみよう。
さらに30回日が昇った。勇者が来たので殺した。本当は話をしたかったが俺は勇者の言葉を話せない。理解は出来ているし言葉も思い浮かべることができるが、俺は竜なので言葉を発することができない。
なるべく殺さないようにして逃げてくれいないかと手加減して攻撃してみたが逃げる様子はなく、むしろやる気が出てきているように感じた。殺したくは無かったがそれで俺が殺されては元も子もない。仕方なく俺は勇者を殺して食べた。剣は後で調べる。今はボロボロ剣を調べる方が先だ。
さらに60回日が昇った。何とか使い方は分かった。
とはいえコレ使いにくいな、こんな物を勇者は簡単に扱っていたのか凄いな
改めて凄い奴らと戦ってたんだな俺。
とりあえずこのボロボロの剣は力を奪ったり封じたりする為の剣みたいだ。力を奪われた対象は小さくなり、封印された対象は形を変えて封印される。力を奪って弱くしてから封印する。とても頭がいいと思う。
つまりこの剣をうまく使えば俺は体を小さくして人間に姿を変えることも出来るようになると言う事だ。凄い俺が欲しいと思っていた物を持っている。これなら俺も勇者になることが出来る。早速と言いたいところだが姿が変わった後に勇者が来ると不味い。
次の勇者を殺した後にやることにしよう。