竜としての一日
とある旧火山の最奥もはや冷えて固まった元マグマだまりに、俺はいる。俺は竜だ。
名前は母さんがラグナと呼んでいたからラグナだ。
ここで何をしていると言われれば何をするでもなく。ただ日が明るいうちはボーっと過ごしている。他にすることと言えば昔火口だったところから空へ飛んだり、体を壁にこすりつけたりしている。結構暇なのだ。
小さい頃は母さんや友竜が相手していたから日がすぐに落ちてしまっていたが、今は一人ここで過ごしている。偶に吠えたりする。
何もない日だけの話ではあるが
今日は違うみたいだ。
壁の一部が裂け目になっている箇所、偶に蝙蝠やらが出てくる穴から音がする。
ガシャンガシャンザッザッザッ
堅い物が擦り合わさる音、何かがこちらに歩いてくる音、声も聞こえる。この感じ、彼らしかいない。
「今日この日がお前の命日となる。覚悟しろ!!黒閃竜ラグナ!!」
やたらキラキラした鎧に、鎧に負けず劣らずキラキラしている大きな剣を片手で軽々と持つ人間、勇者だ。母さんが教えてくれた。あれは勇者だと。
武器を構え突撃する勇者達に対して俺は息を大きく吸い込み炎を吐く。勇者の剣は痛いので近づかれる前に攻撃すれば一瞬なのだ。偶に防御することもあるがそれでもずっと火を噴けば死ぬのだ。
後は今までと同じで炎が収まればよく焼けた死体と少し煤焦げた鎧や剣が現れる。
沢山の率いてくる勇者達、俺が物心ついた時から何度も現れる唯一の相手。
最初は俺の心臓を使って姫の命を救うだの、悪しき存在だから封印するだの理由を付けて襲ってきていたのだが、殺すたびに鎧や剣が増え最近は財宝だの、聖剣だの、俺以外を狙うようになった。偶に仇を討ちに来たと言ってくる勇者もいたが、それも殺して食べた。
けれど結局ほとんどは俺を殺そうとしてくるから殺すはめになってしまう。
しばらく眺めているたが動き出す気配もないので次の作業に移る。食べるのだ。
手足を使っては力加減を間違えて肉がちぎれてしまうので舌を使って頑張って肉を鎧の中から取り出す。本来俺は食事は必要ないのだが生き物が生き物を殺すのは食べるためあのだと俺は森で見た。
ならば俺は殺してた人間を食べるべきなのだろう。放置すると臭くなるし、それだったら食べる方がいい。臭くなるよりはいい。
時間をかけて勇者達から丁寧に鎧と剣と杖を取り、裸の勇者達を口に入れ飲み込む。勇者がき始めた頃は顔と名前を憶えていたのだが最近は顔とどんな鎧を着てたか程度に留めている。
勇者達を食べた後、少ししてから次の作業を行う。勇者の鎧や剣を片付ける。
とはいってもそれほど時間のかかる作業ではない。尻尾でバシッとはたいて他の鎧が置いてる場所に吹き飛ばすだけだ。爪や口で運んでいた時もあったが今の大きさでは少しやりにくい。試行錯誤の上、尻尾でぶっ飛ばすのが簡単という判断にいたった。偶に鎧が壊れるが他に一杯あるし別にどうでもいい。剣は壊れないけど。
そして一通りの作業を終えた俺はしばらくねぐらをウロウロしたり、壁にある穴から外を覗いたりするが対して変化もなく。外に勇者達が群れている場所がある程度だ。
そうしている内に暗くなり寝る時間が来たので眠る。小さい頃は寝るのが億劫だったが、今ではこの時間が待ち遠しい。起きていてもやることがないからだ。
いつも寝転がる所に体を横たわらせ頭を垂れ瞼を閉じる
こうして今日も一日が終わる。
その毎日が終わったのは掃除をしていた日だ。