1.
「空、蒼い」
見上げると空は蒼かった
口の中の噛み切れない肉はまだ少し味がある
「時間、ないんだ」
ふと遅刻しそうなことを思い出す
走れば走るほど、口の中がごちゃごちゃになっていく
息ができない、肉のせいで
新学期早々、遅刻しそうなこの少年
神宮空人
高校1年生
遅刻気味なの、気づいてないの?
そう聞きたくなるくらいマイペースな少女
水野蒼依
高校1年生
のちのこの2人は出会うことになる
えー
あー
いぇーい
いろいろな声が飛び交う
夏休みもあけて
まだ暑いのに、学校再開
「あっつ」
空人は青のネクタイを緩めた
その横で
「あつい…」
青いリボンを緩める、蒼依
2人は同じクラス
空人も蒼依も
恋人がいる
中学生に
1つ下の子
空人は授業中もまだ夏休み中の彼女とメール
蒼依は休み時間にまだ夏休み中の彼氏と電話
なんか似てる2人を周りでは密かに『夫婦』と呼んでいた
8月23日朝
「おはよ」暗い、空人
3分後「おはよう」テンション最低、蒼依
2人とも理由は、恋人と別れたからだとか
「偶然じゃん、この2人」
大きな声で騒ぎだした男女
真山友里と佐上敦
この2人は校内でも有名なラブラブカップル
「うるせぇよ、おまえら」空人が機嫌悪く言う
「そうよ、うるさい」すぐに、蒼依
「はぁ…」
蒼依の大きなため息
「…」
魂が抜けたような空人の顔
2人はこの日、人形のようだった