櫻に咲き誇れ、ラストミュージック
晴れ晴れとした桜咲く中、卒業式は蔦がなく終わった。三年間通い続けたこの校舎とも遂にお別れ。
悲しい筈なのに、どこか喜んでいる自分がいる。確かに思い入れのある校舎だから、悲しむのも当然かもね。
でも、私はそれ以上に喜んでいる。理由は簡単。忌わしい思い出の地でもあるもの。友情の崩壊が起きたのも、ここだったから。
私は二人の友達とバンドをしていた。小学校からの友達で、皆音楽が好きだったから、バンドを結成して活動していた。文化祭でも披露して、私達はこの学校は愚かこの街でもちょっとした話題になった。
でも、有名になるにつれて意見が合わなくなってきてしまった。私はそのままが良かった。無理にもっと活動はしたくなかった。そもそも私は気分転換で入ったというのもあるけど。
でも、二人は違った。それぞれ、将来的な全国デビューと街に密着した形を望んでいた。そんな三人が話し合ったところで、上手く落とし所が見えて来るわけがない。
そんな感じで、私達は解散してしまった。皆続けたかったけれど、互いに罵りあった後でやることも出来なかった。魔の悪いことに、三年生は互いに別々のクラスになったから、互いに話すことも無くなった。文字通り、友情が崩壊した。
そのままこの日を迎えてしまった。
私は校内にある大きな桜の前に来た。三年前、私達はここで出会って、バンド結成に繋がった場所。でも、バンドを解散してからは、ここに来ることも無くなっていた。
忌わしい思い出の場所ではあるけれど、それでも私は最期に一度だけ見に行こうと思ってここに来た。桜は眩しいくらいに咲き誇っている。私達もこんな感じで輝けたのかは、分からない。
そして、終わりだなと思いながら振り返ると、
二人がいた。
お互いに驚いた顔をしている。まさか、このタイミングで会うとは思っていなかった。二人も同じ気持ちだろう。
お互いに何も言い出せないまま、ただ時が無言で過ぎていく。私も何を言えばいいのか分からなかった。
「…あんた達も来たんだ」
沈黙を破ったのは、全国デビューを目指したいと語っていたかつての親友だった。
「…当たり前でしょう。最期くらい来たくなるわよ」
地域に密着した形を望んでいた、十年以上の友達が返す。
一年振りに、私達はこの桜の下に集結した。だから、
「ねぇ、もう一回だけ、バンドしない?」
思わず言ってしまった。もうやりたくないと思いながら。なんでだろう。
二人とも驚いていた。まさか私からそんな発案が出てくるとほ思っていなかっただろうし。私自身、自分からそんなことを言うとは思っていなかった。
沈黙が再び三人の間を支配する。もうどうしようも無さそうに見えた、その時。
「また…やりたいわね、私も」
「最期くらいやって終わりにしたい」
二人がほぼ同時にそう言った。それぞれ楽器を持っていたのは、全員内心ではこの場面を望んでいたからだろうと思う。
三人とも定位置につく。久しぶりだから、三人とも何処か動きがぎこちなかった。
そして、
演奏が始まる。
久しぶりの三人のバンドは、どうしても合わない部分があったけど、それでも良かった。今の私達に必要なのは、上手く演奏することじゃなくて、三人で演奏することだった。
周りの卒業生達が集まってきて、拍手を送ってくれる。最期の最期にこのバンドを見ることが出来て、それで涙を流している子すらいた。当時はそれだけこの学校で大人気だったということを再認識した。
私は精一杯謳った。一年のブランクを感じさせないように全力で謳い続けた。謳ったのは、私達が作詞作曲した「サクラ」と言う歌だった。特に示し合わせなくても、この歌だろうとは思っていた。これ以外を選択する訳がない。
謳い終わった後、周りからは歓声が響き渡った。私は思わず涙を流してしまっていた。また、戻ってくることが出来たことが嬉しくて。後ろを見ると、二人とも同じように涙を流していた。必死で隠そうとしているけど、バレバレだった。
「ありがとう」
私はそれだけしか言えなかった。もっと何か言いたいことがあるのに、ここでは言えない気がしていた。でも、
「また、やりましょう」
「………そうだな」
…どうやら私が言うまでも無かったみたい。私達はまたあの頃に戻れた気がした。私達は周りの目も気にせず抱き合った。お互い涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら。舞い散る桜が、再会を祝福しているように見えた。
数年後、私達はメジャーデビューを果たすのだけれど、それはまた別のお話。