終幕デート
遊園地に行った。
結構、ベタだと思う。
お揃いのカチューシャをつけて、同じ味のアイスを食べて、彼女はご満悦だった。
お揃いの指輪、お揃いのブレスレット、お揃いのキーホルダー。
思えば彼女は、いつも形ばかり欲しがっていた。
まるでなにかを探しているみたいに。
なにかを取り繕っているみたいに。
僕はただ、巡ってくる毎日が楽しくて、輝いて見えて、青春ってこういうのを言うんだろうなって、本気で思ってた。
彼女が、僕に、好きだと言った日。
僕は信じられなかった。
人気者で、整った顔立ちをした完璧人間の彼女が、僕のような、お世辞にも格好いいとは言えない人間を好きだなんて思いもしなかった。
付き合いたての頃は戸惑いの方が大きくて、どこかぎこちない態度を取ってしまったりしたけれど、彼女の存在は心地良く、自然と心を癒されて、いつのまにか隣にいることが当たり前になっていた。
手を繋いで、キスをして、休みの日には2人で出かけて。
そんな生活が続き、先月の11日には付き合って1年の記念日を迎えた。
僕は今、幸せの絶頂にいるのだと、毎日思っていた。
……だから、本当はもう、わかってるんだ。
「七瀬」
長い黒髪を揺らして、彼女が振り返る。
少し離れたところに立つ彼女の顔には影が落ちていて、表情はよくわからない。
茜色に染まった空が彼女の背景に映る。
綺麗だと思った。すごく。
まるで作られた世界みたいに。
彼女は自分がこれから何を言われるのか分かっているようだった。
そして、影の隙間に見える顔を、ほんの少し歪めた。
「ほんとは僕のこと、好きじゃないだろ」
世界が、壊れる音がした。
僕はこの手で、この言葉で、幸せな世界を壊してしまった。ずっと気づかないフリを続けていれば、このまま幸せな世界で生き続けることができたのに。
……でも、だって、ずっとわかってたんだ。
七瀬は、ずっと。
僕の奥にいる誰かを見てる。
彼女は何も言わなかった。
静かに目を伏せて、小さく息を一つ吐いて、もう一度顔を上げてどこか虚しく微笑んだ。
泣きそうだと思った。
途端に自分が惨めになった。
泣きたいのはこっちだよ。
僕はずっと、この世界で生きて行くんだと思ってたのに。
七瀬と、2人で。
「ごめんね」
その小さな声がどこか柔らかく聞こえて、僕は、初めて彼女をウザいと思った。