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未完成

とてつもない勢いで上がる好感度は見境なしですか?

作者: 畔路聲

気合いで作り始めたのは良いものの、途中で挫折したので、台詞だけだったり、読みにくいと思います。すみません。それでもかまわない方だけお読みください。

簡潔に言えば、私は死にました。


えぇ、それはもう、残酷に。


そして、気がついたら森で独り、佇んでいました。


トントン拍子で話が進んで悪いけど、私は今からまた、死ぬかもしれない。というか、ほぼ死が確定している。運良く生き延びても、多分一生立って歩けないと思う。そうだ。


笑いたければ笑うが良い、目の前に馬が迫っている。現在進行形で――


黒い制服が翻る。死ぬ間際に着ていたのは制服だ。

制服と聞いて、学生かと思っただろう。残念だが、私は成人済みで、三十路手前になる女だ。


そんな私が学生服を着ている。

黒い無地に白いライン……水兵リーベー僕の舟、外国由来のセーラー服だ。もちろん女学制服。


さらに、簡潔に言おう。


私は、人生に疲れて、何故か自宅でコスプレをしていた。私にその気はないはずだった。


なぜその結論に至ったかと言えば、私が無類の物語好きだったからだ。絵本も好き、漫画だって、小説だって、世の中には好きなものが沢山あった。


だから、たった一度でいいから、主人公になりたかった。


人生の主人公はお前だ。


と、誰かが言っていた。そんな理屈はわかってるけど、それで人生の壁、はたまた障害の先に待っていたのがハッピーエンドだけだと、その人は証明してくれない。


だから、無惨にも強盗が押し入ったのが、独り暮らしの女性アパートで、セーラー服を着た三十路手前の女が強盗に殺されて死んだ。


話が脱線した。


馬も脱線している。


「き、きゃあああああああああああ!!!!」


可愛い声が出ればよかったのだが、汚泥の詰まった悲鳴だった。悲しいかな、酒焼けした声が響いた。


着ている制服は、所謂オタク友達に譲ってもらったもので、それを着るためには、酒を飲んで飲まれて、その勢いでするしかなかった。人生ではじめてのコスプレ、飲まないとやってられなかった。


そんなカオスな部屋に、のこのこ現れたのは友達ではなく強盗男で、殺され、目が覚めると森で、馬に跳ねられて死ぬ……そんな運命なのか。


嗚呼、おやすみなさい。

無かったことにしてください。


私は悟って目を瞑った。


「危ないっ!」

「――おごっ!?」


若い声と共に、身体に衝撃を受けた。さっき、殺される時に感じた人の温もりと衝撃に良く似ている。私はまた誰かにタックルされたのか。

殺された時と違うのは、胸の中に冷たい感覚もなければ、温かくて硬い腕に抱かれていることだった。


硬い、硬すぎる。そして、硬いところは触ると冷たい。金属?


「だ、誰!?」

「こちらの台詞です。レディ、お手を」


多分男、が、のそりと起き上がるとジャラ、やら、ガチャ、やら金属の重低音がした。


「あ…っ」


私は目を疑った。


目の前の柔らかそうな、金髪?クリーム色?の頭が上がった。癖っ毛の髪、空より青い宝石のような澄んだ目。


アルベルト・トライデント


私が今着ている制服の主人公、もといヒロインが入学する魔法学園の門兵騎士様だった。


「レディ」

「あ、すみません……」


な、なんなんだ。どうしてなんだ。


頭の中が大混乱。大乱闘。


そこで、私の中の賢い部分が喋り出す。


これは、今時流行りの転生というやつなのでは?


間違いない。

じゃないとこの人達は、アルやモブ騎士のコスプレをしながら森を馬で走るという豪華な撮影をしている人達、もしくは、その物語が新しくドラマ化される。


という事に……なるわけないだろ!


いや、夢だ。絶対に夢っ!


「レディ?もしかして、道に迷っておいでですか?」

「え、あ、その……」

「私はアルベルト・トライデント、魔法学園の騎士をしております。レディ、もしや転入生ではありませんか?」


夢だ。


「お名前を、レディ」


夢だよ、ね?


「未明、です」

「ホノカ?…失礼、ファミリーネームをお教え頂いてもよろしいですか?」


アルの目の中が鋭くなった。

やばい、夢じゃなくて、本当に、本当に転生してしまっていたら、


アルから……アルベルトからは、逃げられない。


電光石火の三槍騎士、それがアルベルト・トライデントだ。小娘一人の脚力では、彼の瞬間移動には勝てるはずがない。


「……レディ、お話をして頂けますよね?」


冷たい刃がこっちを向いた。


気が遠くなる。

そのまま私は、意識を失ったようだ。


現実逃避に自分は意識を消した。まだ、私は信じないぞ!ここが、あの世界だなんてっ


次に目を覚ませば、豪華な応接室のような所だった。


整理しよう。


まず、私は後藤未明。

そして、この世界は多分、信じたくないが『マジックスクール~五つの花~』だ。


この物語はヒロイン一人を操作して五人の男とコミュニケーションを計り、4つの選択肢から各4つの異なるエンドと1つの卒業エンドを迎える。


学園内は小さいながらもオープンワールドで8等身ぐらいの3Dのキャラクターが闊歩している。学園内とワールドを制限したことによって細かなギミックが使用される、コインを探したり、秘密の部屋を探したり、地下水路に行ける。


題打って、探索系恋愛シミュレーションゲーム。

行動できるのは朝、昼、夜に限られ、時間制限付き、その間に攻略したいキャラクターを探して親睦を深める。その間に、新密度によってイベントが起こる。そんな感じだ。


アルは基本的に門のところにいるので、比較的見つけやすく攻略のしやすいキャラクターの一人だった。


他には、四十代のチャラ渋い先生、名前はトムソン・フェアリーバー。

三年生の生徒会長、セバスチャン・ナイフ。

二年生の一匹狼、ワーズライト・レインドール

同級生の地味男、トト・ローズ

がいる。


先頭から順に、遭遇しやすくなっており、トトに関しては、ほぼヒロインから逃げるような配置になっているのでゲーム内の収集要素のコインを集める事で、彼から話しかけてくるようになる。


難しさはワーズライトが一番だろう。

ワーズライトは夜のパートでアルと親密な姿を見せる。それもそのはず、二人は異父兄弟なのだ。

しかし、ワーズライトは物語の最後バッドエンド、ノーマルエンド、メリバエンドで死を選ぶ。一匹狼の彼はわりとめんどくさい性格をしているのだ。


それはさておき、この状況。


「……」


周りを見渡して鏡を探す。

転生と言えば、ヒロインではなくライバルになることが多い気がする。そう言う物語ばかり友達に進められたのか、わからないが、私の人生では悪役令嬢の物語が多かった。そうなると…非常にまずい。


ヒロインの同級生兼ライバル、ドロシー・ナイフは生徒会長の妹だ。ヒロインがどこかでバッドエンドルートに入ってしまえば死ぬ可能性がある。


というか、それよりも先に、生徒会長に殺されるっ!お前は誰だ!的な!私芝居とかできないからっ!


「鏡……お?」


あった。

ポケットにコンパクトがあり、それを開ける。

そして、胸にあった期待という息を吐いた。


「私だ」


私だった。


「え!?私なの!?」


少し残念だった。ヒロインでもなく、ドロシーでもなく、十歳ぐらい幼くなった私がいた。頬っぺたぷにぷにする……。


「はぁ……私、かぁ……」


百面相をしながら唸っていると扉が開いた。視線を向けると桃色の髪が揺れる。あらっとその人から楽しそうな声がした。


「こんにちは、ホノカ…私は魔法学園の長であるララ・リード・ハウンドです。貴方は東の森で突如現れたと聞きました。

不躾ですが、眠っている貴方を少し調べさせもらいましたが、貴方は何者かに魔法を使われてここにいるようですね、心当たりはありますか?」


そんなこと言われても困る。


「ありますね」

「……」


あれだ。

ララには特殊な目がある。限定的ではあるが嘘を見抜く目だ。姿は小学生の幼女、実際はこの魔法学園の土地神だ。彼女の暴走ルートも勿論ある。


「転移……」

「転移されたのですね、どこから?」

「異世界ですね」

「異世界?……嘘はついていないようですね。」


悩んで、打ち明ける。ララは信用できる。なんたって神様だしね!暴走ルートあるけど!


「では、ここがどういう世界かご存知ですか?」

「魔法の世界、としか……経済とかは良くわかりません。」


たしか、マジックスクール2では王族が出てきてたから、王政ではあるのだろうけど、あと戦争もある。けど受験もあった私は、2が未プレイで、詳しいことはわからない。

たしか、卒業エンド前の話で、ヒロインは三年生になっていた。新キャラは三人いたなぁ。


ララの話が終わる。


どうやらやはり、王政で世界は三つの派閥争いをしているらしい。魔法学園の説明にあった、戦争での戦力を増強するために作られた、で間違いはないらしい。


「なるほど、ではあなたに魔法の心得はございますか?」

「ありません。」


あるわけないだろ。こっちはRPGなんかやったとこないわ!え?片寄ってる?しらない!


「そうですか、ではこちらに何が見えますか?」


そう言って彼女は鳥かごを摘まんだ。


「鳥かごですか?」

「はい、中には何が見えますか?」

「ちいさな、妖精?」


ティンカーベルみたいな……。


「どんな妖精ですか?」

「え?……人型の、可愛い、妖精さん」


妖精さん。


「人型の妖精ですか?」

「はい」

「これはこれは、珍しいですね」


あ、まさかこれって。


「これは心を映し出す魔法の鏡です。」


ララはくるくると鳥かご、否、鏡の板を指先で回した。


「妖精さんですか、ふふっ……妖精さん」


くすくすと笑い出すララに、思わず恥ずかしくなった。


「っ……笑わないでくださいっ」

「ふふ、でも……鳥かごに囚われた妖精ですか、あなたは囚われているのですか?」

「あ、」

「囚われているのですね」


そうだ、この世界に来てしまったから囚われているというなら、この世界に、だ。


「あなたは、自分をこの世界に招いた人を知っていますか?」

「しりません」


「では、占いをしましょう」


ララの懐からタロットカードが現れる。


「では、これからのあなたについて占います。」




【タロットの描写わかるわけがない。】



鈴の音がした。


「ふふふ、堅苦しいのはここまで、少しお茶にしましょう。」


湯気の立つソーサーと空のカップが無重力でこっちにくる。


「異方のお客様に出すお茶が、口に合うか判りませんが……あなたの言う通り、この世界は王政です。その制服の出所はお聞きしませんが、この学園に通いたいとの意思表示でよろしいですか?


それに、学園に通えば色々学べます。ここは来るものを拒まない不屈の城……王族や姫も身を隠す森として使用しています。

貴女は自分の元居た世界に帰りたくはないですか?でしたら余計に、此処に留まってはいかがですか?」

「え、」


てっきり出ていけと言われるのかと思った。

目の前で琥珀色の香り立つ液体が注がれる。この匂い……ダージリンだ。


「どうぞ?」


そう言ってララがカップを持ち上げ片目を瞑って笑う。彼女の小さなその口にカップが宛がわれる。そして、綻んだような笑みで紅茶を見た。


絵になる。推す。


「これは息子が入れてくれたんですよ、紅茶の事になると本当に……残念なのですけど、腕は確かで、自慢の息子です。」


息子が居たのか、初耳。

そっとカップを手に取る。周りを砂糖とミルクが遠慮がちに飛ぶ、それを制して口をつけた。

おいしい……。

それと同時にお腹が鳴った。


「ふふ、」

「す、みません……っ」


恥ずかしい。

そう考えていると扉が少し開いてサンドイッチが運ばれてきた。


「あら?珍しい……ダンテが気を効かせるなんて」

「ダンテ?」

「私の息子です。血は繋がっていないけど、私がもし姿を現せなくなったらその総括を担う坊やですの、私と同じで占いを得意とするのですが、ダージリン……通りで、アルベルトと縁が結ばれるはずですね。」


食べて良いのだろうか?美味しそうなサンドイッチに釘付けの私にララは笑いながらどうぞとまた進めてくれた。


「おいしい……」


からし?かな、たまごサンドにアクセントがある。おいしい、久しぶりにおいしいと感じた。現実では何だかんだで、自炊なんか始めたら寝落ちして出来なかった。誰かの手料理を食べたのも久しぶりだ。


「ダンテも喜ぶわ」

「ありがとうございます、とお伝えください。」

「聞こえてるわよね、ダンテ?」


チリンとまた鈴の音がした。


「もう、シャイなんだからっ」


ソーサーの中身が冷めきった頃、空になった皿立ちがドアの向こうに消えて行く、基本的な魔法の浮遊魔法だ。

それを目で追っているとララが拍手を一つ打った。


「では異世界の乙女よ、私はこの学園の校長として聞かねばいけません」


背筋を伸ばす、まるで面接だ。


「はい」

「貴女は私の加護を受け、この学園でこの世界を学びたいですか?」

「もちろんです」

「もしも、この学園や私たちに害を成す事があれば、わかっていますね?……術式を展開します」


彼女の持つ杖から光る紋が放たれる。まるで、彼女の暴走ルートで見た光景だ。そんな事を考えているとララが話し出した。


「ララ・リード・ハウンドより、ホノカ・ゴトウに制約を――汝、我に従い忠誠を誓うか?」

「はい」

「汝、我持つ学園で勤勉に励むか?」

「はい」

「汝、我の加護を持つ者に無体を強いないか?」

「はい」

「汝、制約を破れば相応の罰を受けるか?」

「はい」


満足そうに彼女は笑みを浮かべた。


「では、手をこちらに……」


ちいさな指が私の手のひらに一本、乗る。


「制約に従い、我は汝に加護を授ける。」


これは入学の時に見るやつだ。

私の手の甲に彼女の杖に刻まれた印が写っている。これがあれば、この学園の出入りが自由になる。門兵はいるが結界も張っているので、これがなければ弾かれるだろう。


「……ありがたくちょうだいします。」


ヒロインがやっていたように、手の甲を見せて頭を垂れる。


「ふむ、馴れているのですかこういうことに、堂々とされていますね」

「えっと、実は……」


信頼して頂いたので、こちらもこの学園の事を話す、学園長の暴走を含めて……。


「なるほど、ではホノカはこれから、ここで起こるかもしれない事柄を知っているのですね」

「大団円で終われば良いのですが、残念ながら場合によっては死人が出ます」


ゴクリとララの喉が鳴った。


「では、そうならないように手を尽くして頂けませんか?」

「私の身を守って頂けるのであれば、あと、私の、その……」

「身分ですか?」

「はい、この世界の人間ではありませんので、お願いしたいです。」

「では、こうしましょう。トム、トムソン!いらっしゃい」


数秒後、ぽんっと赤み掛かった黒髪の無精髭の男が現れた。長い前髪を後ろに杖で留めている男だった。その姿を見て、一瞬で私は悲鳴を上げそうになった。トムソン・フェアリーバー……たしか、物語では炎の魔術師、と唱われていた。


生徒に優しく、時に厳しく、なのにチャラく見える。そんな人だ。今だから思えるけど、五人の中で一番声が良い!セクシー!なのにキュート!!


トムソンは可愛い!おっさんだけど!!


「学園長どうされた?」

「トムは今独身よね?」

「は、はぁ?それがどうしたのですか?」

「トムソンのファミリーネームをこの子にもらえないかしら」


トムソンと私は大きな声で叫ぶ、何を言い出すんだこの土地神はっ!結婚しろってことか!?ねぇ本当助けて!やっぱりこの神可笑しい!


「うるさいわ、二人とも……そう、トムは受けてくれないのね。」

「この子はいったい何ですか学園長」

「そうね、私のお気に入りよ」

「……どうも、」

「困ったわ、トムが引き受けてくれないとなると、困ったわ……私の娘にするしかないわね」

「引き受けさせて頂きます学園長」

「あら、そう?よろしくねトム」


何いってんのーーッ!!


と、とにかく、どうしたら?


「……ホノカです」


何故か私の口は名前を告げていた。違うんだってば!


「トムソン・フェアリーバーだ……とりあえず、お前は俺のいとこの義妹姉さんの娘、という事でどうだ?」


トムソンがそう切り出してくれた。

もしかして私の早とちりだろうか、いや、本当に勘弁してよ!確かに先生の事好きだけど!!貴方バッドエンド心中エンドだもん!!怖い!


それ以外は、本当に、素敵な先生だけど。


「そうですね、それぐらい離れていれば何かと先生の事を知らなくても大丈夫そうですね」

「なぜ俺が教師だとわかった」

「勘です。」


やっぱり攻略対象なだけあって鋭いネ!


「いとこの義妹姉さんの娘が、田舎から魔法を学びに来た……これで行きましょう」


二人で頷き合う、もう少し話も積めるべきだが、とりあえずはこれで良いだろう。明日もあるし。


「ではホノカ・フェアリーバー、事情は聞かないが学園長のお墨付きだが、おかしな事はするなよ?俺の名前を貸してやるんだ、わかってるな?」


今は、聞かない。だろう……多分後々ララが教えるとは思うが、味方は多いに越したことはない。なので、好感度も少しは上げて置かないと信頼もしてくれないだろう。ララはわりとこの世界での神の一端だからか、信用できる。むしろ強い味方。


いや、味方になるって言葉をもらったわけじゃないから私の独りよがりかもしれないけど。


「私そんなに信用ないですか?」

「あのアルベルトが血相変えて連れてきたんだぞ、疑いたくもなる。」

「あー、お礼を言わないとですね」


アルの事、すっかりわすれてた。


「アルベルトはお前を殺そうとしたって聞いたが、良いのか?」

「結果論ですよ、だって死んでないし、学園長と仲良くなれましたから、結果オーライですよ」

「オーライ?」

「オールライトです。全てまるっと大丈夫!」


大丈夫かこいつ、という顔頂きました!


それからしばらく歩くと、トムソン・フェアリーバーという標識を見つけた。そっか、ここの先生達は住み込みなんだった。さすがに教員の居住区へはゲーム上入っていけなかったから新鮮だ。


「ここが俺の私室だ、何か不便があれば来ると良い、まぁ学園内では念話術が使えるからそれも覚えてもらおう。……入学は3ヶ月先だ。一足早いが、寮室をやれと学園長からお達しだ、この後教える」

「先生」

「まだ俺はお前の先生じゃない」

「お願い先生!」

「っ……!」


トムソンは生徒のお願いに弱い所がある。生徒じゃないって自分で言ったのに顔が緩んでる可愛い。


「服を買いに行きたいの」

「ああ、そう言うことか……よし、浮遊魔法を見せてやろう」


来ました。お決まりの台詞です。

トムソンが髪を止めていた棒を抜いた。あの立体映像が更に綺麗になって目の前に…っ


「どうした?」

「至福を噛み締めています」

「わけがわからん」


「ここが学園から近い街だ、学園があるからか、ここら辺は治安が割りと良い方だ。大人が子供達を守ろうって意見が多い……こら、離れるな」

「下着をみたいんです!」

「大きな声でいうな!」

「先生の方が大きいし」


「先生?」

「戻ったか、よし次はどこだ?」

「靴と、動きやすい服と、パジャマと……日用品ですね」

「わかった……着いてこい」

「御意です」


「わぁぁぁぁ!」

「はしゃぐな」

「見てください!あれっあのペンギン!!」

「買わないぞ」

「買ってください!」

「必要ない」

「買ってください!」

「必要ないだろっ」

「買ってください!!」



「お買い上げありがとうございまーす!」

「……少し銀行に寄る」

「御意です」


「お前なぁ、俺の財布を空にする気ではないよな?」

「っ、そんな事は……あるような、ないような?」

「……一年生が楽しみだなぁ」

「ひっ」


「夕焼けだ……」

「何か買い忘れた物はないか?帰るぞ」

「はいっ」

「……」

「先生?」

「まだお前は生徒じゃない」



「杖を買ってやろう」


「ちょ、」



紅い宝石が填まった20cmぐらいの杖だ。

トムソンはそれを私の顔の隣に翳しながら頭を捻っている。


「もう少し朱色の物はないか?」

「それ以上ですと、少し値段が張ります」

「良い、それを持ってきてくれ」


「学園長によるとお前の魔力は普通の人の少し上らしい」


話ながら


「一節教えてやろう、一緒に復唱しろ」


「「明かりを灯せ、ライト」なぜ知っている」

「えへへ、だって、学園長のお気に入りですから……でも、至福を噛み締めています……ありがとう先生」


「その杖はくれてやろう」

「ありがとうございますっ」




「あ!」

「あっ」

「アルベルト、こちらは」

「いや、大丈夫ですよ先生……ララ様から聞きました、レディすみませんでした。まさかフェアリーバーの姓とは知らずに無礼を、御許し頂けますか?」

「い、いえ、私も……すみません」

「レディが謝ることではありません、そちらの制服と言うことはやはり転入生ですか?」

「いや、3ヶ月後入学する新入生だ。ホノカ、ご挨拶を」

「はい、ホノカ・フェアリーバーですっよろしくお願い致しますっ」


新人並の元気が出た。


「今一度紹介させてください、レディ……私はアルベルト・トライデント、この学園の門番兵です。以後お見知り置きを」

「よろしくお願いしますアル、ベルトさん」

「ふふ、アルでよろしいですよ?」

「いえっもう少し仲良くなってから信頼していただけたら、またお誘いください」


「おや、聡明な人ですね」

「アル」

「マチルダ」

「交代の時間だ、飯まだだろう」


マチルダ、ファミリーネームは明かされていないが、確かモブだった。出るとこ出て、締まるとこ締まっている、褐色美女だ。


「そう、ですね……先生、お食事はされましたか?」

「まだだ、久しぶりにどうだ?」

「ご一緒させていただきます。よろしいですかレディ?」

「はい」


アルベルトはここの卒業生だ。御年二十八歳、中身の私と同い年だ。


「はぐうっ」

「もっと丁寧に食べれないのかっ」

「今だけはっ今だけはどうかっ憧れの学食っ夢にまで見たオムレット!おいひいっ」

「喋りながら食べるな!学食は6時から21時まで空いている。その代わり9時から11時半までと14時半から16時はやっていないからな」

「御意です!」


「あははっ楽しい子ですね先生」

「兄貴」

「あ、ワーズライト一緒に食べましょう」

「……誰?この女」

「トムソン先生の血縁の方です。紹介します。私の異父兄弟のワーズライト・レインドールです。……ワーズライト挨拶」

「ワーズライトだ」

「ホノカ・フェアリーバーです、はじめまして先輩、よろしくお願い致します」

「先輩?」

「ホノカ嬢は次の学年からの新人生です。ララ様からの推薦なので既にこの地にいらっしゃったそうですよ」

「へぇ……面白いやつ」


頂きました!面白い奴!!


「ホノカ……口元にケチャップがついてるぞ」

「っ!もっと早く言ってください先生!」


兄弟で話始めたので先生がこちらを向く、


「で、明日から暇になると思うが、学園長が一室手配してくれたそうだ。魔法、使ってみたいだろ?」

「学園長!ありがとうございますっ」

「本人に言え」


「後で部屋を教えてやるが、その前に俺の部屋に……いや、明日俺の部屋に来い。間違って寮で魔法の試し打ちされたらたまったもんじゃない、時間は……そうだな、6時だ」

「早いですね、でも御意です」



「ふふ、なんだか師匠と弟子みたいですね」

「いずれそうなるさ」

「……そうですか、レディは人を引き寄せる魅力をお持ちのようだ」


「……?」


だ?


あれ、おかしい……アル、ベルトの口調が、少しだけ崩れた?


「レディ、そんなに見つめられると照れます」

「あ、すみませんっ」


アルベルトは、敬語キャラで、それが崩れるのはヒロインと……っ


「げほげほっ」

「おい、水で噎せるなよ……」

「す、すみませっげほ、」


な、なぜ好感度が上がっている?そんな、なんで、


「レディよろしければハンカチをどうぞ」

「ありがとう、ございます……」


よく考えたら、杖のプレゼントだって、好感度40%のイベントだ。アルベルトの好感度40%のイベントはすこしの皮肉……まずいっ


「先生、すみません……気分が、優れなくて……」

「あー、アルベルトすまんが食器の片付けを頼まれてくれないか、こいつを部屋まで案内する。」

「お気に為さらず先生、片付けておきます」

「どこか悪いのかそいつ」

「大丈夫だ、と……言っていたが、大丈夫か?」

「はい、少しだけ休んだら大丈夫ですから……っ」


やばい、ワーズライトまでこっちに興味をっ


「お、元気で二人とも……また、お会いした時に」

「いいから、部屋まで案内する。すまんな!アルベルト」


動揺してしまっている。

頭がぐるぐるする。


好感度が80%以上の攻略対象者が二名いると、ある段階で、この物語は必然的に何者かに殺されて幕を閉じる。何者か、は好感度80%のどちらか、だ。

これをバッドエンドという。


100%でハッピーエンド(恋愛エンド)、80%でノーマルエンド(友情エンド)、それ以外は卒業エンドだ。


80%二人でバッドエンド(死亡もしくは行方不明エンド)、イベント発生後、数ターン設けられていて、どちらか一人の好感度100%にしたらメリーバットエンド(監禁もしくは後追いエンド)。


わけがわからないよ!


「落ち着いたか?」

「すみません、」

「今日はとりあえず寝ろ、移動魔法で荷物は送ってあるから、荷解きもまた明日だ。いいな?」

「はい……」



「添い寝するか?」

「いらないです」

「そうか」


やばい、やばいやばい、


あり得ない速度で好感度上がっていくんですけど!!




……ついに、3ヶ月経った。


やっと、やっとだ。


悪役に、なってやろうじゃないの。


「……死にたくない、」


包丁が胸を突き刺すあの感覚を思い出す。


「死にたくないっ」


痛い、熱い、


「キャロライン・アンドロフ」


私の為に、傷ついて……っ


「ホノカ」

「学園長」

「話を聞こう」


「なるほど……しかし、それは容認できないわ」

「でも、」

「そのキャロラインと言う子がキーパーソンなのでしょう、」





ここまでです。

もしかしたら、また書くかもしれないが、書かないかもしれない。よく分からないのは百も承知。お目汚し失礼しました。

ありがとうございました。

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