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俺たちの青春は非日常である  作者: ゴリラ・ゴリラ・ゴリラ
第2章  二人の過去
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 さっきまでここでスマホをいじっていた綾瀬と勉強をしていた真壁先輩が、可愛らしい姿に変身したのだ。


「まさか、こんな姿になるとは……」


 戸惑う俺は、二人の姿を改めて見返すが、その幼さに今の面影がある。


「先輩、今、何が置きているか、分かりますか?」


「ああ? 何がって……」


 先輩は、自分の身体中を触り、最後に頬を抓ると、


「な、なんじゃこりゃあああああああああ!」


 真壁先輩は、大声で叫び出す。どうやら、記憶までは過去に戻されていないようだ。入れ替えの次は、体の成長と来たものだ。いやはや、これはどういう理由かしらないが、再び迷宮入りの事件に放り込まれた気分になる。


「うそっ! 私も若返ってるじゃない! 伊織! あんた、さっき何を見たのか説明しなさい!」


 綾瀬は、俺のことを呼び捨てにしてくる。まあ、説明する気でいたんだが、それよりも先にこっちの方が起こってしまったんだよ。と、俺は反論したいのだが、それは言い訳になるような気がしてやめた。


「どうやら中身は、高校生のままだそうですね。これでは体は子供、頭脳は大人ですよ」


「いや、どう見ても一人は子供のままだろ」


 なんだよ、その言葉のフレーズ。どこかで聞いた事のある名台詞だな、おい。


 俺は、不破に心の中でツッコミを入れる一方、この後、二人をどうするのか。それを考えていた。


「うーん。それにしてもまさか、俺の体が小さくなるとは……。おまけに視力も回復しているし、このまま学校に来るのは、問題があるよな」


 真壁先輩は、いつにもなく冷静に分析して、ぶかぶかになった制服を出来るだけめくり上げ、自分の身長に合うように調節する。


「げっ、ずっとこのままでいるわけじゃないわよね。これじゃあ、何もかも制限されるじゃない! どうするのよ、この状況……」


「ちょっと、いいか?」


 俺は小さく手を挙げた。


「何か、あるようですね」


「ああ、さっき俺が見た内容についてだ。今回の内容は、簡単に言えばタイムトラベルらしい」


「タイムトラベル……。時間旅行ってわけね」


 氷童が、俺の言葉を理解する。


「そうだ、奴は過去の物語は、未来よりも面白いと言っていた。それに最後、アルファベット4文字で、MJAHと書かれてあった。これは二人の名字と名前の最初にくる頭文字。つまり、奴は元々、二人を狙っていた。それ以外ありえない。それにいつ戻るかも記載されていなかった。つまりは何かが起こらない限り、二人は元に戻る事すら出来ないだろう」


 俺はそう思った。この前の人格入れ替わりのように今回も二人に何かしらのアクションがない限り、元には戻らないだろう。試すなら、キスは無理として、牛乳を飲む。いや、それは全く意味がない。過去と言っても、二人にとって話したくない過去の一つや二つ、あるに違いない。


「それじゃあ、俺たちはずっとこのままの姿でいることになるのか……。どうやら、学校にはいられない姿のようだな」


 真壁先輩は、ため息をつく。それもそうだ。こんな姿で学校にいたら逆にまずい事になる。子供が高校生だと、主張しても絶対に信じてはくれないだろう。俺たちの身に起きている事を知っている人間以外は−−


「それは大丈夫なのかもしれませんよ」


 不破が口を開いた。


「どうしてなのですか?」


 一ノ瀬さんは、少し涙目になりながら訊いてくる。自分の身に起きているわけでもないのに、この人は優しすぎるだろ。その姿、可愛すぎます。


「考えてみてください。この世界は僕達以外、全ての人間は記憶を簡単に書き換えられます。それにここは言い方を変えれば、SFや現代ファンタジー。これくらい、周りにとっては普通の事だと認識されると思いますよ」


「それはこの姿で教室にいても大丈夫って事なのか?」


「僕の仮説では大丈夫だと思います。あくまでも仮説ですが……」


「なるほど。俺がこの姿でいても周りは気にしないのかもしれないって事なのか。それは試してみる価値はありそうだな」


 真壁先輩は、不破の仮説に乗っかった。


 確かに不破の仮説は間違っていない。間違っていないのだが、これはどうみてもアウトだろ。


「不破、それはいいとして、問題は過去だ。いくら二人がタイムスリップしたところで元に戻るための何かしらのことが起こるはずだ。もしかすると、二人は言いたくない過去でも持っているのかもしれない。今回は、それも視野に入れといたほうがいいぞ」


「そうですね。しかし、それが全てでもないでしょう。例えば、ここに一つの料理があるとします。そこに一つのスパイスを入れるとしましょう。さて、その料理はどうなりますか?」


 不破が俺に対して問題を出してくる。


「さあ……」


 俺は分からずにそう答える。答えなど知っちゃこっちゃない。


「答えは僕にもわかりません。一つ、イレギュラーな食材が入ったら、さらなる神秘の味覚を得るかもしれませんし、逆に地獄を見るのかもしれません。さて、分からないものに手を出すというのは野暮ですよ。ここは何かが起こるまで手を出さないほうがいい。時には毒の罠が張ってあるかもしれませんしね」


 不破はそういうと、小声で笑みを浮かべた。


 この優男の底が知れない。何を考えているのか、俺ですら分からないのだ。


「だとしたら、今回も自然に任せたほうがいいっていうのか?」


「そういうことになるでしょう。一応、彼らには見張りという役割で誰かがいる方が安全とも言えますね」


「だったら最初からそう言えよ」


「いやー」


「笑ってごまかすな」


 不破は、頭を掻いて笑った。


「ま、明日にならないと分からないことだし、今回も一度考え直して、明日考えましょう」


 俺も帰らせてもらおうかと思い、荷物をまとめ、他の全員も納得し、それぞれ帰宅するために駐輪場に向かった。真壁先輩はともかく、綾瀬の身長では、自転車に乗ることすらできなかった。すると、俺の後ろにまたがり、家まで送っていくことになった。なったのかよ。




     × × ×




 二人が小学低学年の姿になってから一週間が経とうとしていた。この一週間で四日ほど雨の日が続き、晴れた日にはジリジリと照りつく太陽で、俺の背中に浮き出る汗は、制服のワイシャツに染み付いていた。腕を捲り上げても汗は出てくる。夏が近づいてきている証拠だ。窓を開けても外から入ってくる風は、生暖かい。


 教室で死んだような魚の眼をしていた俺は、朝から死にかけていた。すると、後ろの席に氷童が今頃登校してきた。


 そして、俺の後ろの席に座る。


 この前まで前の席にいた彼女が、席替えで俺は一つ前の席、氷童はこの前までいた俺の席に座っている。


「暑い、疲れた……」


「朝っぱらから、ご苦労様、上着脱げばいいだろ?」


「そうするつもりよ」

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