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俺たちの青春は非日常である  作者: ゴリラ・ゴリラ・ゴリラ
第1章  錯覚世界
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「本当なのか? 氷童?」


 真壁先輩は、俺(氷童)を見て訊いてくる。


「はい……」


 氷童は、小さく答えた。皆は、その返答に驚く。俺たち二人が本当に入れ替わっている事にようやく気付いてくれたらしい。いつもは見えていない部分が自分自身、見えてくるのだろうか。


「これが最初の科せられた問題というわけですね。なるほど、なるほど……」


 不破は、うんうんと頷きながらなぜか納得する。どこに納得しているのだろうか。そして、これが最初とするならば、今後もこれと同等の現象が起こるというのか。頭が痛くなるぜ。


「そうなると、二人がいつ戻るのかが問題となるな」


「そ、そうですね。わ、私も考えが……」


 二年生二人組が、次々に言う。そして、この中で一番好奇心を抱いているのが奴だ。言わなくても分かるだろう。


 綾瀬日菜だ。


 他の奴とは違う感情を持っていた。絶対に面白がっている。絶対だ。


「それで、それで! 今の心境はいかに!」


 やっぱりきた。


 目を輝かせながらマイクの代わりに自分のお箸を向けてくる。よく、この状況で明るく入れるよな。関心してしまうぜ、全く。だが、一人くらいこういう奴がいてもいいだろう。ある人が言っていた事だ。一人くらい変わった人間がいると、チームの団結力が勝る、と−−


「どうして入れ替わったの⁉︎ 今は、自分の体に違和感は?」


 これは始まったら止められないタイプだな。俺は心が折れて、綾瀬に話した。一言一句、間違えずに。


「−−と、いうわけだ」


 俺が言い終えると、綾瀬の目の輝きは失われていなかった。


「なるほど、これは逆を考えると面白い実験になりそうね。ある意味、色々と試せそうだし」


 彼女の頭の中で何を試されているのか、想像もしたくもないが、考えはつく。色々とやばい想像をしている事に。


「それで、伊織達はどうしたいんだ?」


 真壁先輩は、俺を呼び捨てで訊いてくる。ま、それはそれでいいんだがどうすると言われても、どうしようもないのが今である。


「どうするも何もこのまま生きていくのもアレですしね……」


 俺は答える。


「それじゃあ、伊織と姫ちゃんでキスして見せてよ」


「はぁ?」


 綾瀬の言っている事が理解できなかった。こいつ、今何言ったんだ? と、いう顔をして氷童は綾瀬を冷たい目で見る。


「そうよ、唇と唇を重ね合わせるの」


 綾瀬は人差し指と人差し指を重ね合わせてそう言った。


「唇を合わせるって、なんでだよ。理由の説明を求める。即刻に言え」


 俺は綾瀬に言った。


「それはねぇー、それは面白そうだからよ」


「それが最後の言葉でいいんだな?」


 俺は氷童の顔で綾瀬を睨みつける。これが効いたのか、綾瀬は「ひっ」と、小さな声を上げ、ちょっと後ろに退く。この女の姿でいると、人が離れる意味がわかるような気がする。


「でも、何かに接触した事で二人の体が元に戻るんじゃないの? 私、そういうのは、漫画や小説で何度も見てきたから分かるの。ああ、これはキスか頭と頭をぶつけ合うしかない。最近読んだものだと、魔法を使った物語だったような。そんなのどうだっていいわ。早く、試しにやってみるべきよ!」


 綾瀬は、すぐに開き直って再び言い出す。


「綾瀬さん、それはいい案かもしれないかもしれないけど、それはやる方にとっては苦肉の策よ」


 俺の顔で睨みつける氷童は、俺はそんな怖い顔をしないと思った。


 だが、苦肉の策というが、綾瀬の指摘している所は、ある意味間違っていない。俺もそんな物語を見た事があるからだ。


 しかし、それはおとぎ話にしか過ぎないと思っていたのだ。この世界は所謂おとぎの国だ。


「それじゃあ、この話は一度ここでお開きにしましょうか? 時間を見てください」


 不和が手を合わせ、注目を集めると、時計の方を指差した。


 後十数分で、掃除の時間がやってくる。


「それもそうだな。みんなも早く教室に戻らないと、荷物の移動とかあるだろ?」


 真壁先輩が言った。


 それぞれが昼食を終えると、一度、この部屋を後にする。真壁先輩と志穂さんは、三階から中校舎の二階に繋がる渡り廊下を歩いて帰る。


 俺と氷童、不和、綾瀬は、二階から繋がる渡り廊下を歩く。それぞれが別れた後、教室に戻ると、丁度いいタイミングで掃除の時間となった。


 音楽が鳴り始め、急いで荷物持ち、机の上に椅子を重ね、前へ運ぶ。


 一番前の席の為、運ぶのは楽だが、机の渋滞から抜け出すのは一苦労である。障害物を避けながらその渋滞を抜け出すと、氷童が俺の肩を叩いてくる。


「どうした?」


「少しいいかしら?」


 氷童は、制服の裾を握って、掃除に行く前に俺を呼び出す。


 俺と彼女の持ち場は、近い場所にあり、少し掃除をサボったところで先生の目につかないため、怒られる心配は無い。荷物を廊下に設置されている棚の上に置き、そのまま持ち場へと急いで走っていく。いつもだったらスムーズに動けるはずの体が重く感じ、少し息切れする。


「ど、どうしたんだ?」


 俺は手を膝について、氷童と話をする。


「情けないわね。少し走ったくらいで息切れなんて……」


 氷童は、俺を見下す。


 なんで俺が……。これはお前の体のせいだろ……。


 体をゆっくり起こして、首を一周回す。髪がフワッ、と宙に舞い、いい香りがする。変な感じだ。これがクルッと女子が回った時に匂ってくる女子の香りなのだろうか。一体、どんな高価なシャンプーを使っているんだ? 気になる。


「それでなんの話なんだ?」


 俺が話を切り替えると、氷童は頰を赤らめながら俺から視線を逸らす。可愛い。はっ、不味い、不味い。危うく、変な道へと進むところだった。


「そ、その……キス…してみない?」


 今なんて? 俺の聞き間違い? おいおい、どうした? 熱でもあるのか? あるんだろ!


 俺は心の中で叫んだ。


「お前、どうしたんだ? いきなりそんなこと言われてもな!」


 俺はつい叫んでしまう。


「勘違いしないで、さっき綾瀬さんも言っていたでしょ? 要はああいうことよ。誰も見ていないならいいんじゃ無い? どうせ、自分が自分にするんだし……」


 ああ、なるほど。


 と、納得する俺だが、そんな訳が無い。中身が入れ替わっているから自分が自分にキスをする。そんな事ができるはずがないだろ。俺の頭脳はいつもよりフル回転し、オーバーヒートを起こす寸前まで来ていた。


「お前はそれでいいのか?」


「そうね。次の日、夢であってくれるなら夢のなかぐらい構わないわ」


 どうやら氷童の理論性は夢の中になっているらしい。


 ここは現実じゃない。夢だ、夢。そう言っているのだ。


 どうしたらそうなるんだよ。俺だってそうならそうなって欲しいくらいだわ。もう懲り懲りだ。こういう日常も体が疲れる。

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