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俺たちの青春は非日常である  作者: ゴリラ・ゴリラ・ゴリラ
第2章  二人の過去
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「これで左手はまともに使えないわね。さて、不利になった綾瀬さん、どうする?」


 ほとんど有利の状態となった浦部は涼しげに俺たちの前に立っている。


 綾瀬はゆっくりと立ち上がり、制服の左袖を引き裂いて怪我している左手を応急処置して止血する。血は布に染み付き、制服の色が黒く浮き上がっている。


「よし、応急処置はこれぐらいにして……。どうするかな? 左手の攻撃はコンマ数秒くらい遅れるし、でも、右手だけでの攻撃では動きが読まれる可能性がある。これはこれで厄介というよりもいいかもしれない」


 綾瀬はいつものお気楽な様子と違って、目が真剣だった。今の自分での身長を考えると、俊敏に動きやすくはなっているが、その代わり、攻撃力がガクンと落ちている。綾瀬は歯を食い縛る。


「さて、これでおしまいよ」


 浦部が、綾瀬に向かって襲いかかってくる。


 キンッ、とナイフとナイフがぶつかり合う金属音。


「うわっ」


 と、俺は目を凝らしてその戦いを見届ける。


「その小さな体で私に勝つつもり? 防戦一方じゃない」


 そして、少しずつ綾瀬の体に傷が増えていく。


「綾瀬!」


「大丈夫よ。あと少しだから」


 綾瀬は左手で胸を抑える。


「それじゃあ、お遊びもここまでにしましょうか。私もすぐに顔を出さないといけないから」


 浦部は無数のクナイを出した。いや、それだけで終わるはずがない。すぐに第二、第三の攻撃を仕掛けてくるはずだ。


「さようなら」


 浦部がクナイ投げようとすると、


「それは残念。私の方が少し早かったみたいね」


 ピュン、ピュン、ピュンと小さな音が鳴り響いた。


「え? 今、何が……」


 浦部は目を大きくして、ゆっくりとお腹の部分を抑える。


「そうよ。決着はひとつじゃない。私がこれを持っていると考えなかったの?」


「嘘よね……」


 自分の手を見つめると、真っ赤な液体が流れている。


「がはっ……」


 口から吐血が出る。


 さっきの小さな音は銃が発砲された音だ。よく見ると、綾瀬の左手にはサイレンサー付きの銃があった。それを浦部に向かって発砲したのだ。


「油断したわ……」


 浦部はゆっくりと地面に倒れる。同胞は大量の血が流れ出している。


「とっておきは最後の最後まで取っておくのが、戦いの基本よ」


 綾瀬は自分のナイフを懐にしまい、銃を右手に持ち帰る。


「今の私ではあなたに勝つ可能性は0に等しい。でも、銃ともなるとそれは別の話、引き金を引けば威力は変わらずにあなたを貫く」


「……そして、ゼロ距離に近い場所にいた私はかわすことが出来ないと呼んでいたのね」


「ご名答!」


 綾瀬はニッ、と笑った。


 浦部は仰向けになり、天井を見上げた。


「そっか、私が負けったって事ね。ここであなたを殺せると思っていたのに、これじゃあ私の苦労も報われないわ」


 俺はゆっくりと立ち上がって綾瀬の後ろに立つと、倒れている浦部を見た。


「さて、ようやく死ぬ事ができるわ。長かった。ようやく死ぬ事ができる。でも、最後くらいあなたを殺して死にたかったわ。だって、あなたはこの世界の人間じゃないもの。住む世界の違う人間がどう化学変化を起こすのか楽しみにしているわ」


 浦部の声が小さくなっていく。寿命が近づいているのだ。


「それじゃあ……」


 と、浦部は目を閉じて、動かなくなった。


 呼吸もしていない。完全に心臓が止まっているのだ。死んだ。人が自分の目の前で殺されるのを初めて見た。


 ガタンッ!


 綾瀬は急に倒れた。


「だ、大丈夫か?」


 俺は綾瀬の体を支える。流石に子供の体は軽い。


「大丈夫よ。ただ、気が抜けただけ。すぐに体力は戻るわ」


 俺に抱えられた綾瀬は、フッと笑った。


「そうか。しかし、なんで浦部を殺した? 殺すまでしなくてもいいだろ?」


「ダメよ。彼女は致命傷を確実に当てないと、すぐに殺しにかかってくる」


 教室には、太陽の光が差し込んできた。


「お前は一体何者なんだ?」


「そうね。どこから話をすればいいかしら?」

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