Ⅳ
しばらく、俺は自分の持ってきた本でも読みながら時間まで待ってみる。
一ノ瀬さんも不破もそれぞれ、自分のやりたい事をして時間を潰していた。なんだかんだで、この部活は意外と出席できる時は出席しているのである。
すると、どこかの外国の歌手の歌が流れ出す。下校時間の合図だ。この音楽が鳴ると、一日がようやく終わったと実感が湧く。
俺たちは下校の準備をして、部室を綺麗に整理し終えると、俺たちは部室の扉を閉じた。
そして、一日何事も起こらず過ぎて行った。
× × ×
翌日−−
「よ、昨日は来なかったな。時間ギリギリまで何をやっていたんだ?」
朝、俺が投稿してきた頃には氷童が自分の席に座っていた。
もう、朝霞外の準備を済ませており、いつ来ても準備万端と言っているようなものだ。
「そうね。終わった後は少し用事があったから帰ったわ」
帰ったらしい。せめて、一言くらいは連絡を入れてくれてもいいだろう。それだったら俺だって、返事くらいはしてやるものさ。
「別にいいでしょ。時には一人になりたい時だってあるのよ」
ちょっとその気持ちは解る気がした。
「毎度、毎度、こんな訳の分からない事につき回され、気分転換も必要なのよ」
それも解る。俺も早く終わって欲しいと願っている。
「しかしな、それでも連絡してくれても良かったんじゃないのか? 顔でも出すとか、俺たちにとっては、一応心配している事だからな」
と、俺は後ろを振り向いたまま氷童に話し続けると物凄い目つきで睨まれた。いや、睨まれたというより彼女の目つきがいつも以上に酷かったと言えよう。だって、目の下にくまが出来ている。
「うるさいわね。これでも気をつけているつもりよ」
声が低い。
「分かったよ。この話はやめだ。それよりもお前の目をどうにかしろよ。今日はいつも以上に酷くなっているぞ」
俺が自分の目で位置を指差しながら氷童に訊く。
「顔を洗うか、化粧でもしてこいよ。くまを消すくらいの化粧は、学校側にバレないぞ。お前くらいの優秀な生徒は特にな……」
「ああ、これね。寝不足よ、寝不足。昨日は寝付けなかったのよ」
目元を触り、氷童がそう言った。
「昨日、私の部屋に黒い物体が飛び回っていたのよ。ゴキブリかと思ったけど、それよりもサイズが大きい何か。あれは……そう、コウモリだったわ。ずっと私の部屋を飛び回ったせいで出て行こうともせずに深夜まで格闘が続いたの。気づいてみれば朝の5時ごろまで起きていたわ。最悪よ、本当に……」
確かに家にコウモリがいると怖いよな。ゴキブリの方がマシな気がする。いろんな意味で。
「そういえば、台風シーズンになると増えるんだよな。後は秋や冬の時期に」
「夕方と夜の狭間はウジャウジャと家の前の堤防を飛び回っているわ」
と、俺の話に頷く。
「そもそも家の中にコウモリがいる事自体おかしくない? どこから入ってきたのかしら? 家のどこかに穴でも空いていたのかしら? あーだ、こーだと考えると疲れるわ」
こんなに弱々しくなっている氷童を見るのは何度目だろうか。あの暑さでバテていた以来だ。再び今日が始まろうとする。次から次へとクラスメイトたちがぞろぞろと教室に入ってきた。
授業が始まり、一日中氷童は日差しと温かい風の攻撃を受け、眠りかぶりながらギリギリの気力を保ち、授業を受けた。余程の事だったのだろう。それでも眠らない精神はすごいと思った。俺なら1秒も経たず、夢の中へとレッツゴーしていただろう。
そして、四限目の体育の授業が終わった頃、どこの誰だか知らないが俺の机の中に妙な茶封筒が入っていた。ラブレターかと思いきや、絶対にそうに違いないと期待していた俺は、着替えた後、すぐにその色気のないラブレターを開けた。
今どきこの世に、ラブレターを書く奴なんていないだろう。ほとんどの奴らは、メールやSNSで簡単に告白しているらしい。昔の告白の方が俺は好きなんだけどな。
手紙の内容を確認する。
『A.H。PM5:30。Kill .』
と、書かれてあったのだ。
はい、ちゅうもーく。ここで問題です。これは一体誰が書いたのでしょうか? 答えは、ノーです。と、言いたいところだが、なぜ、こんなものが俺宛になるのでしょうか。俺は訊きたい。分からない。これは冗談なのか? いいや、冗談と整理するならば簡単ではあるのだが、今までが今までなのだ。しかし、今回の内容は今までとは少し違う。目を凝らしてよく見ろと言っている。最後の言葉に『kill』という言葉が書かれてある。日本語の意味では『殺す』。これは誰かを殺害すると言っている。