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俺たちの青春は非日常である  作者: ゴリラ・ゴリラ・ゴリラ
第2章  二人の過去
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 氷童はここ最近、調子がおかしいというか、この気温の温度差で体調が悪いらしく、特に暑い日はこうして遅めに学校に来るか、早めに学校に来るかで別れている。


「なあ、氷童。現代の日本は四季が無くなってきているのを知っているか?」


「知ってるわよ」


「ほう、理由は?」


「地球温暖化のせいよ。夏と冬に縮められているのよ」


「ああ、本当に知っていたのね」


 チャイムが鳴ると氷童は授業の準備をし、俺は大きな欠伸をしながら眠そうに前を向いた。




 一日中気温は暑く、教室内の最高気温は二十七、八度まで上昇していた。この気温は六月下旬から七月上旬並みの暑さであり、さすが南国にと呼ばれているほどである。クーラーは、六月下旬頃にならないと稼働しないし、扇風機は高校に設置されていない。最後の砦は一つしかないのだ。俺は、チャイムが鳴ると、全ての荷物を抱え込んで、すぐに南校舎の部室へと向かった。


 すると、どうだろうか。部屋の中は涼しい。クーラーが効いている。天国のようだ。俺の前に誰かが来ていたようだ。中を覗くと、一人の男子生徒が俺より先に部室に来ていた。


 俺は、中に入ると不破真也の向かい側に腰を下ろして座った。


「お前、来るのが早いな。他の奴らはまだ来ていないんだな」


 この場には、本当に二人しかいない。氷童は担当教師のところに行っているし他の人たちは知らん。どっかで元気にやっているだろう。


「そうですね。綾瀬さんはおそらくどこかで遊んでいるにしても他の二人は真面目に勉強でもしているのでしょう。ここに来る前に渡り廊下で多くの二年生を見かけましたから」


 不破は、他の奴らと違ってなんとなく独特の雰囲気を放つ男だ。全てを見透かしているような気がして何かと自分からブレーキを掛けてしまう。


「それにここに男二人でいても仕方ないでしょう。自販機に飲み物でも買いに行きませんか?」


「ま、それもそうだな。時間もあることだし、飲み物でも買ってくるか……」


 俺と不破は、南校舎一階の外の壁に設置されている自販機に移動した。俺は微糖のコーヒー、不破は紅茶ミルクティーを選び、俺たちは屋上へと向かった。


 太陽も西へと進み、下を見下ろすと部活動生が米粒のように見える。


「あなたはこれをどう思いますか?」


「何も変わらない平和な世界って答えた方がいいか?」


「そうですね。平和な世界。それが普通の答えなのでしょう」


 ま、それが普通の人間の答えなのだ。間違っていない。その答えこそが真であって、偽でもある。


「もし、この世に神様がいるとしたらお前はどうする?」


 それはあのパソコンから繋がる者への質問かもしれない。


「神様はいない。いや、いるかもしれない」


「それは答えになっていませんよ」


 不破がミルクティーを半分まで飲み干す。


「神様はその昔、いると言われていました。今はどうでしょう。神がいることすら今の人間は考えていません。人は、時代とともに変わっていく生き物なんですよ」


 俺はそれを聞いて、景色を眺め続けた。人は努力しなければ分からない。でも、神はそれを一吹きで蹴散らしてしまうのだろう。


「日本には仏教、アメリカにはキリスト教と、様々な国で違う宗教、神様が崇められている。それは自分たちが信じた神、それこそが本当の神様なのかもしれません。しかし、我々は神様を見たことがない。だが、神様という人物を知っている。それは昔から代々伝わってきた話、歴史であって、それは本当なのでしょうか。僕は神様の存在が本当なのか、この目で確かめない限り、分からないでしょう」


 確かに神様に出会う確率は超絶レアキャラ以上の低い確率だ。


 俺が苦笑いするのを見ていたのか、


「ま、そんな事はともかくこれからのことについて話しましょう。今まで、起こった事は記憶、人の消滅、意識の交換、そして、人の成長です」


「そうだな。しかもそれが俺たちの周りで起きている」


「そうですね。なぜ、世界線が変わってしまったのか。この先、いつまで続くのか。我々は探究者であり続けなければなりません」


 『探究者』か。


「探求者は何かを手に入れるために探し続ける人であり、真実を求める人。僕たちは、深くて浅いところに潜り込んでしまったようですが……」


「それでも俺たちは探し続けなければならない」


 不破は最後の一滴まで飲み干し、キャップで蓋を閉じる。


「そうですね。どこかで見ているであろう神様は楽しんでいる事でしょう。僕たちがどのような考えで、どんな答えを導き出すのかを……。それは数学と同じような事ですね。法則があったとしても、解き方、考え方、答えの導き出しは人それぞれあります。何千、何万通りの枝分かれした道の一つを選ばなければならない。それは簡単なことではない。僕は、頭が痛くなりますよ」


 それを聞いた俺は、頭の中で計算しようとするが、暗算が得意でもなく、すぐに挫折してしまう。これって、ほとんど詰みなのでは?


「さて、どうしますか?」


 不破は俺を見て問う。


「ここでリタイアという選択肢もありますよ」


 さてどうしたものか。俺だけリタイアとしておけば、こんなことに巻き込まれずに他の奴らと何も知らずにあのような何もない日常が送れるのだろうか。しかし、それと引き換えに彼らと同じように記憶をなくした人間として生きていく。それはちょっと抵抗があるのかもしれない。


「さて、どうして、僕たち六人が集められたのか。その共通点はいまだに分かっていませんが、高校を卒業するまで十分に時間はあります。少しずつ考えていくことにしましょう。もし、分からなければ、その時はリタイアもいいかもしれません」


 二人で話す屋上には、昼間とは違う夕方から夜にかけて吹く風が少し冷たかった。


 俺たち二人は、部室へと戻る。校舎内に職員室から聞こえてくる声が、耳障りのようにうるさくて、耳が痛かった。


 残りのコーヒーがいつの間にか体温のせいで温くなっていた。


 水滴が手から地面に二、三滴落ちた。




 部室に戻ると誰かがいた。一ノ瀬さんだ。


「おかえり」


 一ノ瀬さんは、眼鏡をかけてイメチェンをしていた。やばい、すごく似合っている。何? 何かに目覚めてしまいそう。


「眼鏡、掛けるんですね」


 俺はそれに気づいて、一ノ瀬さんに訊いてみた。赤色の眼鏡は彼女の可愛らしさを引き上げ、俺は少し頰を赤める。


 くそ、さっきまでの話が何処かへ行ってしまいそうだ。さてさてどうしたものやら、俺の思考は低下していく。


「あ、これは本を読む時や勉強をする時には掛けるだけであって、普段は裸眼なんですよ」


「あ、そうだったんですか。いやー、似合ってますよ」


「ありがとうございます……」


 少しもじもじするところも可愛かったりするこの先輩は、恐らく俺の癒しであるのだろう。この日々が続く限りは、生きていけそうだ。


 やはり、他の三人は姿を見せない。


 氷童はまだ、職員室にいるのだろう。勉強熱心なやつだ。


 だとするならば、一番ここで不審点があるのはあの二人だ。


 綾瀬はともかく、真壁先輩は今日は来ないつもりなのだろうか。

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