6話 古着と宿
「お疲れ様でした。こちら報酬の銅貨5枚になります」
例の血判受付嬢に、魔石を5つ渡して報酬である銅貨5枚を受け取った。
これにてクエストクリアだ。
「まずは服を買いましょう」
シラメがそういうと受付嬢が話しかけてきた。
「でしたら私のお古の服なんてどうですか?銅貨2枚でお譲りしますよ。でもマコトさんは男性ですのでそちらは、お店で購入してもらうことになるのですが」
そう言って、カウンター上に服が3枚、ショートパンツが2枚置かれた。
「いいの!?チルちゃんありがとぉ〜」
シラメは受付嬢に抱きついて、頰を頰へ擦り付けていた。
「や、やめてください。シラメさん〜」
平和だ。シラメが普通の女の子に見える。普通にしていたら可愛いのに残念だな。
受付嬢のチルさんに銅貨を2枚渡して、黒色のTシャツが3枚。黒色のショートパンツが2枚を貰った。
現状シラメは緑色の返り血塗れの、ワンピースを着ているので、これは必要経費だろうな。
「それと、宿泊される宿はお決まりですか?」
そう言われると決めてなかったな。野宿でもいいが、いちおうシラメは女の子だから、流石に宿は取る必要があるだろう。
「まだです」
そう答えると、丁度良かったですと言ってチルさんが一枚の地図を渡してきた。
「これは?」
「それはですね。新人冒険者のみを対象に格安でサービスを提供している、ギルド連携の公認宿になっております。Eランクまでしか泊まれないので、空きもありますので、もし決まらなければ、一度尋ねて見てください。1泊1銅貨で泊まれますよ」
チルさんに押し売りのように、その宿を勧められた。1泊1銅貨というのは魅力的な話ではある。
「んじゃ、マコトそこに行くわ。チルちゃん服ありがとねー」
そう言ってシラメは、服とズボンを持ってギルドを先に出て行った。
「マコトさん。怪しまないでください。これは必要なこと......なのです」
シラメがいなくなった途端、チルさんが小声で俺に話しかけてきた。
服といい、宿といい都合が良すぎたため、怪しんでいた事が表情に出ていたかな?
「うちのギルマスがですね。宿が何があるわけでは無いですよ?宿は本当に新人応援用の宿ですので」
「宿は?」
「あ、あー。はぁ。えぇそうですよ。服はスキル付きです。返り血無効のスキルがついてますよ。血だらけで歩き回られたら困るんですよ。ギルマスが頭を抱えているんですよぉ〜」
ああぁとチルさんは頭を抱えて唸った。
つまるところ、シラメが血まみれで歩き回るのが迷惑だったか。
むしろギルマスのシャニィさんの心労を思うと、申し訳ない程だ。返り血無効スキルが付与された服なんて、銅貨2枚で上下合わせて5枚も貰えるはずがない。
「お疲れ様ですとシャニィさんにお伝えください」
「え?ああ、はい。シャニィさんもマコトさんを頼りにしていましたよ」
「そりゃ頑張らないとな」
「マコト〜遅ーい!はやくー」
先ほど出て行ったシラメが、ギルドの入り口から、こちらを呼んでいる。
遅かったので、戻ってきたのだろう。
「ではその宿に行きますね。ありがとうございます」
「ええ。本当に(私より狂った人がいるとさ、私がやってきた事が小さく思えてしまうの)」
最後の方の言葉は、聞かなかった事にしよう。
シャニィさん。あなたの雇っている受付嬢も危険ですね。お互い頑張りましょう。
「遅い!行くわよ!」
「はいはい」
街はいつも通り活気があり、武器屋や防具屋、道具屋などの場所も確認しつつ、宿へ向かった。
宿はギルドから5分ほど歩いたところにあった。
木でできた2階建のロッジだった。
「なかなか良さげじゃない?」
「だな。とりあえず部屋を二つ取ってから今後の方針について考えようか。まだ日が出ているし、もう1クエストやることもできるしな」
「は?何で2部屋も借りるの?」
「付き合ってもいない男と女だぞ?そんな二人が同じ部屋に泊まるわけにはいかないだろ」
「な、あッ。いや、べ、別に、その辺は気にしないし」
その頰を赤らめての反応を見るに、シラメさん。考えてなかったんだな。
「一部屋増えても銅貨2枚だ。別に大丈夫」
「そ、そうね。その方がいいわね」
うんうんとシラメが頷き、二人の意見が一致した。
「申し訳ありません。現在1部屋しか空きがありません。見たところお2人はチームメンバーですよね?1部屋でもよろしいのでは?」
....
......
「「はい」」
2人は顔を見合わせ、イヤイヤ返事をした。
「では最後にこの板にお二人とも手を乗せてください」
俺とシラメは出された板に手を乗せると、緑色に光った。
「確認しました。ではごゆっくりどうぞ」
促されるままに鍵を受け取り、階段へ向かう。
宿無しよりは同室の方が......いやどうだろう。シラメだもんなあ。
部屋は2階の一室だった。
部屋に入ると、ベッドが二つ窓際に一つと、ドア側に一つ置いてあるだけの小部屋だ。
先に入ったシラメが窓側を選んだため、俺はドア側のベッドという事になった。
「まあ部屋は同じになっちゃったけど、何もしないでよね」
シラメが自分の身体を守りながら、そんなことを言う。
「しないっての。そっちこそ何もするなよ。殺傷行為禁止だからな」
そうシラメと同室になる場合、そんなムフフな展開は望んでいない。
俺が望むのはただ一つ。
平和に寝て起きられればそれでいいのだ。
「殺傷行為なんてするわけないじゃん。何言ってんのウケる」
貴方は前科ありですからね?するわけなくないんですよ。
人の腹を背後から手で貫いておいて、するわけないと言われても信じれるわけないだろ。
「とりあえず着替えるから外出てて」
ああそうか。着替える場合は外に出る必要があるのか。やっぱり2部屋必要だったな。
「はいはい。いずれ家でも買うか」
俺がそう言うと、シラメは固まった。
「うん?どうしたシラメ」
「なっ......家ってつまり。結婚?ありえない。ありえないわ」
何かボソボソと呟いているのだが、聞こえない。何だと言うのだ。
「いいから出てて」
俺はシラメに追い出されるように、部屋の外へ押し出された。
階段から上った目の前が俺達の部屋だ。
この階には、俺たちの部屋の他に5部屋ある。
どれも宿泊客が住んでいるようだ。
この宿の部屋が少ないのは、Eランクまでしか受け付けていないからだろう。Fが最低ランクだから、あと二つ上がれば俺達も出て行かなくてはならない。
ここに来た時に手を乗せてと言われて、乗せた板がきっと冒険者としてのランクを計測する物なのだろう。
緑の光がFランクということだろうな。
「いいわよ入って」
部屋からシラメの声がしたので、俺は部屋へ入った。
「どう?」
部屋に入ると、恥ずかしそうにもらった服を着るシラメの姿があった。
ワンピースだった服が、Tシャツと短パンに変わり、ワンピースの時の落ち着いた感じとは違い、ラフな雰囲気になっていた。
「似合ってると思うぞ」
「ふーん。ありがと。お世辞でも嬉しいわよ」
「お世辞じゃないんだけどな」
ラフな感じの服装は好きなんだけど、シラメはそれをお世辞と取ったらしい。
似合っているんだけどな。
ワンピースはシラメの性格には合ってないように思っていたし、シラメみたいに活発な女の子はその方がマッチしている。
「ま、服も着替えたところでクエストよ。次はこれ、スライム5匹の討伐」
そう言って、ゴブリンの時同様クエスト内容の紙とスライムの写真、地図が渡された。
地図は前回と同様なので、あの森の中にいるのだろう。
写真には緑色のドロドロした液体が写っていた。
「気持ち悪いな」
「そうね。スライムっていうからもっと可愛いのを予想していたのだけど、残念。とりあえず今日はこれ倒しに行きましょう」
「了解」
【 スライムを5匹討伐せよ 】
【 クエスト】スライム5匹の討伐
【クリア条件】スライムの魔石5つ納付
【失敗条件】3日以内に未達成
【失敗時罰】銀貨1枚
【報酬】銅貨5枚
【受注条件】冒険者ランクF以上
【スライム参照写真】
「なあ、シラメ。スライムから魔石を取るためのナイフは?」
前回のゴブリン戦では、ナイフの貸し出しがあった。もちろん今回もあるものだと思っていたので、借りていないか聞いてみた。
「無いわね。スライムは溶かすと魔石になるって書いてあるわ」
「溶かすと魔石になる?溶かすってどういう事だ?倒すって事か?」
「わからないわ。でもまあスライムなんて弱そうな名前だったから、受注したの。さ、行くわよ!」
弱そうな名前ってなあ。まあ弱そうだけどさ、倒すだけでは魔石取れないとか、魔法でしか倒せないとか、魔法で溶かす必要があるだとか。
討伐方法に魔法関係の条件があったら、俺たちでは倒せないって事になるんだけど。
シラメは気にしていないんだろうな。
はあ。仕方ない、なるようになれだ。
次話は明日に投稿します。
よろしくお願いします。