45話 死神の森
「あら!どうしよう。お父さんお弁当忘れて行ったみたいなの」
母さんはそう言って、机の上に木箱を置いた。
この木箱の中には食べ物が詰められており、父さんが遠征に行く時などは母さんが手料理を詰めていた。
「持って行こうか?」
カノの提案に母さんは笑顔で答えた。
「お願いするわ!」
「ま、そーいうまで言い続けるつもりだったでしょうけど」
「そんな事ないわよ。お願いはするかもしれないけど」
二人の会話を聞いていたベルが食卓を去ろうとした。
「待ちなさい」
カノに服を掴まれ、離脱できなくなってしまう。
「学校が」
「休めばいいでしょ!父さんが野垂れ死ぬよりマシでしょ」
「忘れていったやつが悪いだろ。まあいいけど。弁当届けるだけだろ?んで父さんは何処に遠征行ったんだっけ?日帰りで行ける場所って、そう多くないだろ?」
ベルは言い合いをしても無駄だとわかっているので、すぐに折れて話を進める。
「死神の森よ」
「死神の森ってさ、あの狂人の街と王都の間にある峡谷の近くの森だよな?」
「そうよ」
死神の森とはムンタウンという狂人の街と呼ばれる場所と王都の間にある。
峡谷のこちら側にある森だ。
非常に危険な生物がいたりする。
「行くのかぁ。嫌だなあ」
「騎士団の誰かに出会えればその人に渡せばいいから、別に森に入らなくてもいいと思う」
「はあ。まあ行きますか。姉さんは来る?」
「もちろん。ベルだけに任せられないしね」
「私も行く」
ベルとカノが話を進めていると、一番下の妹のメリンが手を挙げた。
「メリンも来るの?」
「うん!退屈だもん学校」
こうしてベル、カノ、メリンの3人はお弁当を届けることになった。
ーーーーーー
「入ってるじゃねーか森に」
「仕方ないでしょ。誰もいなかったんだから」
「姉ちゃんも兄ちゃんも静かにして。敵がいつ襲って来るかわからないんだよ?」
メリンに戒められ、静かに森を見渡すベルとカノ。
耳を澄ませど人の声ひとつしなかった。
死神の森は王都の南区から直進に2時間ほど歩いた場所にある。
王都は北区、西区、東区、南区で分かれておりそれぞれに担当の騎士団がある。
南区の騎士団に所属するのが、カノ達の父親なのだ。
「姉さん。武器だけ出して」
「そうね。というか森に喰われるなんて思わなかったわね」
「森に近寄るといつの間にか森に入っているというのは本当だったようだね。騎士団の人が来るのを待つしかないね」
カノは空間に手を突っ込み中から、剣を3本と防具を取り出した。
剣も防具も学校で使う練習用のものだが、ないよりはマシだった。
空間からアイテムを取り出すというのは、アイテムボックスというアイテムによって可能となっている。
カノはそれを所持しており、空間内に複数のアイテムを入れている。
ベルやメリンはそれを持っていないため、カノに渡して持ち歩いてもらっているのだ。
森を武器を持ちながら歩いていると、メリンが「あっ」と声をあげた。
「ブフォ!」
「フブォン!」
その声に反応し、近くにいたオークがこちらを確認する。
そこにいたのは人間が3人。
オークからすれば格好の餌であった。
「ごめんなさい!声出しちゃった」
「ああもう!メリンの馬鹿!」
カノはそういうとメリンの前に立った。
カノは騎士のジョブなので、魔法使いのメリンの前に出るのは当たり前だ。
「オークって強いんだっけ?」
「うーんどうだろ。生息地によるかな。とりあえず戦うよ」
「うん!」
ベルの下まで下がって来たメリンと少し言葉を交わして、ベルはカノのいる方へ走って行った。
「ブフォ!」
オークが手に持つ槍でカノを一突きにせんと突っ込むが、カノはそれを上手く剣身に当て、受け流した。
「ベル!」
「おう!」
受け流された事により体勢を崩したオークに、後方から近づいていたベルが仕留めにかかる。
そうはさせまいと、もう一体のオークが全速力で体勢を崩したオークを助けに走る。
「メリン!」
「はい!」
カノの合図にメリンが魔法を発動させる。
「サンダーブレス》」
メリンの手から放たれた雷の咆哮が、オークを完全に麻痺させた。
「サンダーブレイカー!」
続く、魔法は麻痺をして動けなくなったオークを完全に仕留める一撃だ。
青白い色の閃光がオーク目掛けて走り、オークを貫いて消える。
その途端オークは膝を地につき、そのままに倒れた。
「クロスエッジ」
ベルの前にいたオークはもう一体のオークの事に注意を引かれ、流されて態勢が崩れている状態で、注意散漫はもはや死にたいとしか思えないなとベルは思いつつ、スキルを発動させた。
オークの身体に二つの斬撃痕を残し、そのオークも地に倒れた。
「ふう。余裕だったわね」
「まあね。というかよゆッ静かに」
ベルはそう言ってカノとメリンの頭を下げさせた。
(どうしたの?)
(殺気を感じた)
(は?そんなのしなかったわよ)
(俺達に対してじゃないからな。なんというか森を覆う殺気だ)
(は?何それ。そんなのがあって感じないはずないじゃない)
何故かカノは感じないようで、ベルは少し不安になった。
もしかしたらこれは俺に当てられた殺気なのではないかと。
ベルを襲っているのはヌメヌメとした感じの、肌にまとわりつくような死だ。
首にナイフを当てられ続けているような感覚になる程に、強烈な殺気を浴びていた。
(兄ちゃん。これヤバイ早く出ないと危険だよ)
(メリンも感じるのか?)
その問いにメリンは首を縦に振る。
その行動にベルは少し安堵してしまう。
自分だけが狙われていたわけじゃないとわかって。
そしてベルはその考えを持ってしまった事を、直ぐに後悔した。
俺は何を考えていた?俺の代わりにメリンをって......考えていなかったか?
その時ベルの心にとある誓いが生まれた。
「私にはわからないわ。でもとりあえず撤退しま.......」しょ。
しょという声は空に消えていったかの様に感じた。
姉が見たそれは、まさに絶望そのものだったからだ。




