3話 狂人誕生
ギルド
「冒険者ギルドとやらに行って、冒険者登録をするだったな」
街に入りまずはどこに行くかを決めなければならない。冒険者登録がどうたらって神様が言っていた気がするし、最初にこの街へ行けって言われた理由も、ギルドがあるからとかその辺だったはずだ。
「嫌よ。服が汚れてる。服を買いましょう」
シラメが即否定で返して、服を買いたいといいだした。
「バカなのか。お前」
ドロドロのワンピースなのはすまないとしか言えないが、そもそもさ。
「何がバカよ!バカはマコトじゃない。こんなドロドロで動き回ったら逆に変な目で見られるわ」
まあ正論だな。なんで服を洗わないんだって思われるだろう。しかしな。最も重要な点を忘れているだろシラメ。
「俺たちには金がない」
...
......
「あ。......ァアアアアアアアァアアアアアアア」
シラメが絶叫した。
「だから冒険者登録をして、金を稼ぐしかない。OK?」
「服を汚したのは貴方よ。交換しなさいよ。そのスーツと私のワンピ」
「何を言ってるんだ」
男がワンピースなんて着たら余計に目立つわ!アホなのか!
「うーんまあそうね、ならまずは冒険者登録をしましょうか。ふふふ」
シラメはそういうと、街の中を進んで行く。俺はその後ろからついていき、シラメとは距離を取った。
あんなドロドロのワンピースの女と関係者だとは思われたくはない。
いつかは、呪いを解除する予定だから、それまでの辛抱だ。
できるかはわからないが。
街は中々に活気があり、人々が働いたり、買い物をしたりと賑わっていた。
「ねえマコト。アレが冒険者ギルドかな」
シラメが指をさす先には看板にデカデカと、【 ムンタウン冒険者ギルド 】と書かれていた。
ムンタウンというのはこの街の事だろうな。んでここがその冒険者ギルドな訳か。
「入ろか」
俺がそう言って、シラメの前に出た瞬間だった。
「隙を見せたわね小童!スキル発動!硬化」
「ぬえ?」
突然の事で変な声が出た。次に来るのは背中の激痛。こいつなんのつもりだ。
「ヒール」
俺は手を自分の腹に当てて、回復魔法を発動させた。するとすぐに痛みは引いた。俺は後ろを振り返りシラメを睨んだ。
「何しやがる」
「油断大敵よ。よかったわね。オシャレな服になって」
オシャレな服?
うん?背中がスースーするぞ。
オシャレな服?そしてスースーする背中?
「まさかお前!」
俺は背中を触った。そしてその手触りは肌の感触だった。
この女、自分だけドロドロのワンピースが嫌だったから、俺のスーツを切り裂きやがった。ヒールは傷や怪我の回復はできても衣類までは戻らない。
「アホかお前!スーツって高いんだぞ!何してくれてんだ!それにな、ワンピースに似た服は着ている人はこの街にもチラホラいたが、スーツを着ている人はいなかっただろ!もしかしたら高く売れたかもしれないんだぞ!考えて行動しろアホ女!」
「アホ女で結構よ!マジありえないから!こんな服で女の子を歩かせるなんて!さあ同じ立場ね〜、早く服が欲しいでしょ?なら早くお金稼ぐわよ!」
そう言ってシラメは冒険者ギルドに入って行ったのだが、俺はというと恥ずかしくて入りたくないのだ。
だって背中がオープンセールしてるんですよ?開放感で溢れてますよ。
しかしそんな事も言っていられない訳で。我慢して早く新しい服を買うしかない。それにこの世界に馴染んだ服は欲しかったしな。スーツじゃ街に入ってからも見られていたし、目立つからな。
繰り返しいうが、街の雰囲気は活気があっていい街だ。所々にいる鎧を着ていたり、ローブを着ていたりする人が冒険者だろうか。
戦士と魔法使いってところか。
しかしその全てが先のシラメの攻撃で静まり返ったのだ。
悪目立ちしてるなこれ。
「ちょっと何してんの?早く来なさいよ」
シラメはギルドの扉を開け、立ち尽くす俺の手を引っ張り無理やりギルドの中に入った。
ギルドに入ると、ギルドの中は中央奥にカウンターがあり、その隣に紙が大量に貼られている掲示板がある。
ギルドにはフードコートの様なスペースもあり、ビールらしき物が入ったジョッキグラスを持った、見た目が怖い人達が笑いながら食事をしていた。
俺はそちらをあまり見ないようにしながら、シラメに引っ張られるままにすすんだ。
「自分で歩きなさいよ!服は仕方ないじゃん!」
「お前がやったんだけどな」
「最初にやったのはそっちだけどね」
俺達の言い合いの声に反応して、フードコートの見た目が怖い人達がこちらを見た。
「す、すみませ〜ん。連れがちょっとうるさくて」
「アア。気にすんなよ坊主。クハハハハ新人カァ!見た目から察するに少しはできるようだな」
金髪モヒカンの男が俺とシラメの服装を見てそう言った。
見た目から察するに少しはできるようだな?まさか俺達の泥だらけともボロボロの服を見て、戦った後だと思われているのだろうな。
まあボロボロの服を着た男と、ドロドロの服を着た女のチームだもんな。勘違いしてしまうかもしれない。
「あ、あのー登録があるので、失礼しますね」
刺激しないように俺はその場を去ろうとした。
「なにそれトサカ?」
うん何言ってんのシラメさん。
「あ、なんでもないですよぉ〜で、では行きますね」
こ、こぇえ!!!怖ずぎる!無理無理。怖い。こういう人達ってなんで声かけてくるの?地球でもそうだよ。ノリでとかで声かけないでほしいよ。
それとシラメは頭どうかしてるよ。
「おいつれねぇな。自己紹介がまだだったな。俺はチーム【カスタネット】のリーダーをやってる、トロンゴだ。同じ冒険者になるんだ今後ともよろしくな」
カスタネット?タンタンタンって音がなる、アレの事......じゃあないよな。
「カスタネット?なにそれウケる」
シラメがひとりで笑い始めた。
本当に失礼だよ。
「うん?カスタネットが引っかかるか?カッコいいワードにしたくて考えた結果だ」
あ、はい。左様で。ただその物を知ってる俺からしたらすごくダサいですとは言えないので、俺は笑ってごまかした。
「俺はマコトっていいます。よろしく」
「おう!よろしくなマコト。んでそっちは?」
「カスタネットがカッコいいって......ウケるわ。うん、あ、私?私はシラメよろしくトサカ君」
「トロンゴだ。覚えろシラメさんとやら」
「考えとくわトサカ」
ははは。もう笑ってごまかすしかないよ。
「おっとすまんな。他の奴ら酔っ払い過ぎて、自己紹介なんてマトモにできねーからまた今度、挨拶させるわ」
「は、はい」
俺は一礼してシラメを連れて、カウンターへ向かった。見た目は怖いが、シラメの対応に怒ってなかったし。意外と良い人なのか?でも金髪モヒカンだからなあ。
俺とシラメが受付に行くと、1人の受付嬢が対応してくれた。
「新人さんですか?」
受付嬢に聞かれたシラメが「そうです」と答えると、受付嬢は俺にギルド登録書をなるものを渡してきた。
「そちらに必要事項を記入の上、お出しください」
羽根ペンを渡され、俺とシラメはその書類の記入欄を埋めていった。
必要事項と言っても、名前や年齢、学歴や仕事歴、出身や取得ジョブなどを書くみたいだ。
名前はマコトだけでいいんだよな。隣で書いている、シラメの紙を参考に埋めていった。
年齢は20歳。ちなみにシラメはチラリと覗くと25歳と書かれていた。歳上だった。
学歴ってなんだ?魔法学校的なものがあるのか?
まあこっちの世界での学歴は無いし無しって書くしか無いよね。
シラメの紙にも、もちろん無しと書かれていた。
こんな事なら神様から話を聞いておくんだったな。2人で合わせないと変なところでボロが出そうだ。
出身ね。どうしようかシラメは......森だと。
ここにきて最初の場所が森だから森......森なのか。
いやいや色々とマズくないか。怪しいなんてもんじゃないぞ。
結局考えた末俺も森と書いて提出した。受付嬢も少し怪しげな目で見ていたが、案外そこに関して触れられることはなかった。
この世界には多いのかな?身元不明の冒険者。そりゃ2人くらい身元不明が増えたところでって感じか。
「では最後に血判をお願いします」
「うん?」
「はい?」
受付嬢の発言に俺とシラメは2人して、首を傾げた。
血判って何?あの親指を切って押すアレの事?まさかそんな血の契約みたいなことじゃないよね?
「立派の聞き間違いかな」
「そうなんじゃない?立派になってくださいってことなんじゃない?」
俺とシラメは2人で密談をして、聞き間違いという事にした。
「頑張って、優秀な冒険者になります」
「私も同じくです」
俺とシラメは笑顔で去ろうとしたのだが、腕を引いて止められた。
「いえいえ、決意表明なんていりませんよ。血判をお願いします」
そんなものいりませんよ?と手を振りながら笑顔で血判って言いやがった。
「無理だな」
「無理ね」
自殺しようとした奴が言うことかと思いはしたが、ここで喧嘩する意味はない。意見が同じなのだから。
「では私がやりますね」
「は?」
「へ?」
受付嬢が笑顔で針を取り出した。そしてシラメの腕を握り、指に無理矢理針を......
「ギュアァアアアアアアアァアア」
突き刺しやがった。
そして受付嬢は素早く、シラメの指を紙に押し付けると、シラメを解放した。
シラメは腹の底から捻り出したような声を上げ、床を転がり回っていた。
「ヒールヒール!マコト!ヒールよ!ヒール!痛い痛い痛い痛い痛い痛い」
血がダラダラと出ている。うん。やりすぎたよね。受付嬢さん。
これくらいの人じゃないとギルドの受付嬢が務まらないのなら、冒険者って野蛮な連中のやる仕事なんじゃないのか?
「ヒール」
俺はシラメの身体に触れて、傷口を直した。
ヒールは別に傷口に触れなくてもいい辺り、良心的だ。血だらけの指になんか触りたくないからな。
「ありがとう。あの女いつか復讐してやる」
シラメが受付嬢を睨んでいる間も、受付嬢は笑顔で針を俺の方へ向けていた。
「自分でやりますよ」
俺はそう言って、受付嬢から針を受け取ると、受付嬢から「任せていただいても構いませんよ?」と言われたが笑顔で断った。
「ははは坊主!ビビってんじゃねーよ!」
「やってもらえよぉ!」
「恒例行事だゼェ!」
「仲間の女の子だけやらせるなんて日和ってんのか?」
ギルドにいた冒険者連中が、シラメの騒ぎを聞き、皆注目してきていた。
恒例行事だって。ふざけたものを恒例にしてんじゃねぇぞ。
俺の回復がなかったら危険だっただろ。
ビビってんじゃねーよってか?ビビるわ。
「そうよやってもらいなさいよ。マコト」
シラメからもそう言われた。
単にこいつは自分だけが痛い思いをしたのが嫌なだけだろう。性格が腐っているなと思い俺は、針で自分の指を刺そうとしたその時だった。
「グボェ」
口から血が噴き出した。
...
......
............
..................
目線を下に移すと、俺の腹から手が出ていた。
「なんじゃこりゃぁ!」
「な、な、な」
目の前で、俺の腹から噴き出した返り血で、真っ赤に染まる受付嬢の姿があった。
受付嬢も何があったのか理解するまでに時間が必要のようで、呆然としていた。
先程まで騒いでいた、ギルドの中が静まり返り、狂気の表情で俺達を見ていたあの受付嬢までもひいていた。
その手がシラメの手であると気づいたのは、それが引き抜かれたあと、シラメの腕が真っ赤に染まっていたからだ。
この女、狂気の沙汰なんてもんじゃねぇ。狂ってやがる。。。
「よかったわね。血判できたわよ。ほらヒールしなさいヒール」
シラメが俺の腹を、先程の硬化スキルで強化した腕で貫きやがったのだ。
手首から先が刃物のように尖っている。アレで腹を貫いたのか。
「ひ、ヒール」
薄れ行く意識の中、おれは傷口に手を当て、魔法を唱えたが、傷口は治らず血がダラダラと溢れ出ていた。
やっぱりこんな怪我をした時はヒールも傷口を触ってしまう。
だが......。
ありえなくない?治らないよ。死ぬんじゃね?
「お前、倫理観......ないのか...よ。」
最後にそれだけ言い残して、俺の目の前は真っ暗になった。
その直ぐあと、ギルド内が大混乱となり回復の魔法を使える者達が集まって、おれの傷を癒してくれたという。
その日から、冒険者達の中でシラメはこう呼ばれるようになった。
【 狂人 】と。
本日は19時にも投稿します。
よろしくお願いします。