37話 覚醒する魔族
「何だこれ」
アージは着物の魔族に近づくのをやめ、ピュート達のいる場所まで下がった。
着物の魔族から紫色のオーラが溢れ出ており、明らかにまずい状況である事は俺でもわかった。
「マコトは逃げた方がいいかもしれない」
「シラメは逃げるのか?」
「そんなわけないじゃん」
......。
「うん。それなら俺も逃げられないねー」
「え?どうしてよ。マコト弱いんだから逃げた方がいいって」
この子は何を言っているんだ?
一定以上の距離を離れると、魂の誓いの呪いにかかるんだぞ。
忘れてんのか?
「魂の誓いの呪い忘れたのか?」
「あ。あー。よし!切り替えていくわよ!さ、マコトあいつから注意を引いて囮になって!」
「アホか!そんな事したら死ぬわ!」
「えー。いつもやってるじゃん」
いつもってのは、オークの時のやつとかゴブリンやコボルトと戦った時にやらされているアレのことだろうか。
俺はため息をつきながらシラメに言った。
「そいつらとこいつとでは次元が違うだろ」
「1まーい。2まーい」
突然着物の魔族が独り言を呟き始める。
1枚2枚と数える度に、どこからか皿が出現し宙に浮く。
「3まーい。4まーい。5まーい」
ドンドンと数が数えられていく。
俺とシラメは確信する。
10枚目を数えさせたらならないと。
「マコト!」
「ああもうわかった!」
俺とシラメは着物の魔族めがけて走る。
「させないぞ!」
「チッ」
シラメはその不意打ちの攻撃にしっかりと反応し、手を硬化させ振り抜いた。
突然飛びかかって来たのは、先程フィーアの4人が倒したと思っていたテケだ。
「マコト!任せた」
「は?ちょ待て!」
シラメはそう言ってテケと戦い始めた。
あーもう!フィーアの奴らは何してんだ!つーか他の冒険者は!
俺は横目にフィーアの4人を見るが固まっていた。敵が何かをしようとしている時に攻撃は危険だと判断したのか。
他の冒険者に至っては魔族に怯えるもの。面白がっているもの。様々だが全員に言えることは関わりたくはないだった。
「6まーい。7まーい。8まーい」
ああもうこうなったらヤケクソだ。
俺は着物の魔族のもとまで、走り勇気を出して着物の魔族の口を手で塞いだ。
「うむぅうううううううう」
着物の魔族はそう言って俺の手を掴む。
バキンッ!
「へ?」
気持ちの良い破砕音と共に俺は魔族の口から手を離す。
いや離さざるを得なかった。
「ヌギァアアアアアアアア」
俺は地面をゴロゴロと動き回り、その激痛に耐えた。
この女、俺の腕をへし折りやがった。
つーかよくよく考えたら敵のもとまで行って、口を塞ぐってなんだ!殴るとか蹴るとか色々やりようはあったはず。
「9まーい。じゅ......え。一枚足りない」
そして最後の一枚が無いと言ったこの台詞を、俺は最も近くで聞いていた。
その台詞の後、俺の目に写ったのは人の体から悍ましい化け物の体に変化する着物の魔族の姿だった。
二本のツノが頭に生え、目は赤く輝き、体はは禍々しい装飾が付いた黒色の鎧、籠手、すね当てを装備してその容姿は魔族のイメージに合うものだった。まあその手に持つ皿だけはどうしても違和感があるのだが。
「あら、まだ生きていたの?しぶといのね。死んで貰える?」
着物の魔族は、そういうと俺にめがけて皿を振り下ろした。
腕の回復もできていないこの状況でそれを避けることは不可能だった。
「アキレウスの盾よ、マコトを守れ!」
突然ルーファスの声がしたかと思ったら、目の前に大きな丸い盾が出現していた。
そして振り下ろされた皿は盾により弾かれ、尚且つ着物の魔族がその反動で蹌踉めいた。
俺はその隙にシラメが俺を回収して、冒険者達が集まっている場所まで撤退した。
「無事でなによりじゃ!すまんの遅れてしもうた」
俺の目にルーファスは救世主の神に見えた。




