34話 クチの脅威
「ああもう!間に合わな」
シラメは転けてしまった女性を助けようと、走るも間に合いそうになかった。
「死になさい!」
クチは女性に手をかけようと引く、そしてその手を勢い良く突き出す。
ガンッ!
「なっ!」
鈍い鉄と鉄がぶつかるような音が響き、クチがよろめいていた。
「これはどういうこった?殺人なんてお前さん。頭どうしちまったんだいって、こりゃ口が裂けちまってやがる」
「おいおいこりゃ下手に関わらない方が良かったんじゃねーの」
「仕方ねーだろ。見かけちまったんだからよ」
「うちのリーダーが真っ先に飛び出したんだから、仲間の俺らが行かねー訳には行かねーよ」
金髪モヒカンのトロンゴ率いる、チームカスタネットがそこにいた。
「トサカ!?助かったわ」
「うん?シラメじゃねーか!こりゃあいったいどういう状況だ?」
シラメはトロンゴに魔族が攻めてきた事を説明した。
「マジかよ。ヤベェぞトロンゴ。俺らは魔族に喧嘩を売っちまったみたいだ」
「痛いわね。ああああもう!許さない!お前達皆殺しにするわ!」
クチは雄叫びを上げ、一度低く体勢を落とした後跳躍した。
「俺が受け止める!テメェら逃げんじゃねーぞ!」
「「「おう!」」」
トロンゴが自身の体格と同じくらいの大きな盾を、持ち前に出る。
残りの3人が敵を囲むように少しずつ横に展開。
「死ねぇ!」
クチが魔法使いらしきローブを着た男に攻撃しようとするも、そこに割って入ったトロンゴに止められる。
「うっざい!」
「だろ?おい!ヴェーゴン」
「了解!」
トロンゴがクチの打撃を完璧にシャットして、仲間の1人の名を呼ぶ。
ヴェーゴンと呼ばれたのは軽装備の男性で、手にレイピアと呼ばれる細剣を握っていた。
「セヤァッ」
レイピアによる3連撃がクチを襲う。
クチはトロンゴに弾かれた事により、避けることができず直撃する。
「レーグ任せる!」
「おう!」
ヴェーゴンに名を呼ばれた、もう1人の細身の男性が応える。
細身の男性が持つのは弓だ。
矢をつがえ、弓を引く。
放たれた矢はクチの頭を打った。
「最後!マッザ!」
「任せろや!」
レーグに呼ばれたのはトロンゴの背後で、クチの攻撃から守られたローブを着た男。
男は手を前に突き出し、何か呟くと男の手から雷が出現し、クチを撃ち焦がした。
「ひゅー!」「最高だぜ!」「やってくれるじゃねーか!」
街の人達もそれを見ていて、歓声を上げる。
シラメも凄いと素直に感心していた。
「これが連携」
シラメの口からそう漏れていた。
「やったぜ!」
「おう!とりあえずこの事をギルドへ報告だ」
「だな」
トロンゴはチームメイトと共に、ギルドへ向かおうとした。
その時だった。
レイピアを持って戦っていた男、ヴェーゴンが倒れた。
「ヌハッ」
「「「なんだ!?」」」
3人は突然の出来事に反応すらできておらず、何が起きたのかわかっていない様子だった。
「おいテメェら!けいか......ゴブハッ」
切り替えようと仲間へ声をかけた、トロンゴの口から血が溢れる。
「ふふふ」
クチの笑い声が聞こえる中、レーグとマッザは必死に相手を探すも見つけられていなかった。
そりゃそうだとシラメは思う。
クチは目にも留まらぬ速度で動き、対象を手で刺し貫きその場を離れている。
ヒット&アウェイ。一撃離脱の戦術だ。
単純な戦術だが、クチのようにスピード特化の敵が使えばその恐ろしさは数段階上がる。
そして何よりもクチという魔族の恐るべき所は他にある。
あれだけの連携を受けたのにピンピンしているところ。
クチは自らヒールを使って回復していた。
彼女は前衛に混じりながら、味方を回復させたり敵を攻撃したりしては逃げる事を繰り返す。
機動力重視の回復役なのだろう。
これは本来の戦い方ではないだろうけど、それでも危険である事に変わりはない。
「死になさい!」
「来やがれ!」
クチの声が聞こえて、ローブの男マッザは直感に任せて、腕を突き出すも真逆を向いていた。
クチは背後から全力疾走で駆けている。
「仕方ないか。硬化、加速」
シラメは2種類のスキルを使い、足を踏み出した。
いつもより若干速くなったものの、クチ程速いわけではない。
だから、ローブの男が血を噴出させ倒れ、クチが最後の1人、弓を持つ男が倒される前に間に合えばいい。
「これで最後!」
「させないわ、よ!」
「なっ」
シラメは加速したままクチにぶつかった。
シラメとクチはそれぞれ地面を転がり、近くの建物にぶつかる。
シラメはすぐに立ち上がり弓を持つ男を見る。
「早く仲間を回復して!」
「え?」
「聞きなさい!私が時間稼いで上げるって言ってんの!」
「あ、ああ!おう!頼んだ!」
弓を持つ男は何度もシラメに言われて、やっと理解したらしくすぐに仲間を回復させるべく動き始める。
「勘が当たってよかった」
「どうして弓のあいつが回復役だと思ったんだ?嬢ちゃん」
「あ?」
シラメの後ろに立っていたのは、フィーア・ドラゴンズの1人。
「アジサイじゃん」
「アージな!」
「そうそうアージ。あんた何しに来たん?」
「質問に答えて欲しいが、助けに来たぜ。どうする?一方的に助けるか、共闘か」
「一方的に助けてもらいたいけど、できるの?」
「俺はS級だぜ?任せと......あれは」
アージがそう言って見ているのは、クチが倒れていた場所だ。
クチが立ち上がると空間に手を突っ込み、そこから武器を取り出していた。
自身の身体程もあるサイズのハサミだ。
大バサミを手に持ち、目が赤く光る。
その瞬間今までよりも悍ましい気配が増した。
「ダセェ。あのハサっ!?」
アージは何かを言おうとしたが、すぐにやめ跳躍した。
足元に魔法陣が出現したところを見ると、魔法で飛んだのだろう。
建物の屋根よりも高く飛び、何かを避けたのだ。
一瞬で距離を詰めた、クチの攻撃だ。
「あははははははははは」
狂ったようにクチが笑う。
それをアージは屋根の上に着地して、聞いていた。
アージは手に炎を纏うと、屋根から飛び降りた。
飛び降りたアージにハサミを向けるクチと、ハサミを向けているクチに手を向け爆破を狙うアージが交錯した。
「死ね魔族が!」
「人間風情が!」
「炎爆両翼撃」
アージはクチの左手を掴み爆破させた。
それと同時に上空に腕が飛ぶ。
クチの右手を爆破させるべく伸ばしていた方のアージの腕だ。
「くっ!」
「ハイヒール」
アージは片腕を飛ばされながらも綺麗に着地していた。
しかしクチはその焦げた腕を一瞬で、癒すと着地したばかりのアージに向かいハサミを向ける。
「シラメ!」
「ああもう!だから言ったじゃん!」
アージに名を呼ばれ、シラメは直ぐに反応する。手を硬化させクチの前に立つも、シラメに勝つイメージが無かった。
「回復はできんの?」
「ハイポーションを飲むからちょっと時間稼げるか?」
「どれくらい?」
「5秒」
「仕方ない。私の5秒は高いわよ」
シラメは手をさらに鋭利に変形させ、目が青く光った。




