28話 魔王軍幽霊支部
「ええと、誰?というか何者」
俺の問は上半身のみの女の子にしたのだが、こちらを一瞥しただけで、何も答えてくれなかった。
誰なんだ。下半身が無いとかどういう状況だよ。生きてる時点でおかしいよね。
「そうかー。失敗しちゃったんだね。撤退するよメリーちゃん」
「帰りたいんだけど!帰りたいんだけど!この変態が離してくれないの!」
「変態!?私は変態じゃ無いわ!ただ可愛いものが好きなの!」
「うっさいわ!変態!」
必死になって引き剥がそうとするメリーさんだったが、シラメはハアハアと息を荒げながらその華奢な身体を抱きしめる。
「わ、わかった。今助けるよメリーちゃん」
上半身のみの女の子がそう言って、シラメに飛びかかった。
上半身のみの女の子の腕が、シラメの下半身にめり込んだ。
「私のスキルはね。敵の下半身を奪うスキルなんだよ。だからお姉さんの下半身貰うね!スキル下半身強奪!」
上半身のみの理由はそれなのか。と言いたかったのだが、それ以前にスキルがひでぇ。下半身を奪うスキルってなんだよ。
上半身のみの女の子の腕が青く光り、シラメの下半身を断ち切ろうと手を抜こうとした。
「え?」
「テケちゃん!早く助けて!」
「えっと。手が......抜けない」
「どゅふ」
シラメの口から変な笑いが漏れた。
シラメの下半身が鉄のように固くなり、それと一体化していたテケちゃんって子の腕は抜けなくなっていた。
「やった!私のご馳走が増えた〜。というかこの子も可愛いし!下半身なくてもいいよね!テケちゃんっていうのね。メリーちゃんと遊んでるから待っててね〜」
「テケちゃぁああああああん!」
「い、い、い、いゃあああああああああああ」
シラメに抱きしめられ、ハアハア言われるメリーさん。そのシラメの下半身に手をめり込ませたまま膝を床に落として項垂れる上半身のみの女の子。
「酷い絵面じゃな」
ルーファスはそれを白い目で見ていた。
トントン
「失礼するわね」
すると再びドアがノックされて、部屋のドアが開けられた。
さっきからこの家に来る客は、誰として中からの返事を聞かないのだ。
それもう不法侵入と同じですよ。
つーか俺は多分だが、今から入って来る人も知らない。
「うちの子たち。あーいたいた。その子達を連れ帰りにきました」
そう言って入ってきたのは、朱色のワンピースを着た女性だ。
背の高さは俺と同じくらい。でも靴を見るとヒールを履いているようで、背丈が高く見えるのだ。
髪は茶髪を茶髪のセミロングで、目は少しつり目気味だが、とても綺麗な黄色い瞳をしていた。
そしてその口元を隠すように白色のマスクをつけていた。
「ええと、保護者の方ですか?」
俺は少し不気味だったが、早くこの場を収集させたい思いで話しかけた。
「そうなりますね。というかうちのリーダーの命令ですし」
「リーダー?」
「あ、すみません。申し遅れました。私は魔王軍 幽霊支部のクチと言います。以後お見知り置きを弱き人間様方」
クチと名乗った女性は聞き捨てならないことを言っていた。
「弱き人間様方って妾達の事かの?」
ルーファス。絶対聞くべきところはそこじゃない。
「あら?違うのですか?それはまた面白いご冗談を」
クチはくすくすと手を口元に当てて笑った。
マスクがあるから普通に笑えばいいのに、何というかお嬢様みたいな人なのだろうな。
美人だし。礼儀もなっていて素晴らしいと思う。
「ほう?ならば妾の真の力を見るが良い!」
アァン?この子今何つった?
真の力を見るが良い?頭でも湧いたのかな?お前自爆しかできねーだろ。
「なんじゃマコト心配しとるのか?安心せい。部屋の中だから対象を攻撃する魔法を使うからの」
「あら。野蛮ですね。まあいいですよ。受けてあげます」
「雷鳴よ轟け、獄炎の如き雷で妾の魂を焼き焦がせ。さあ!裁きの時だ。ミョルニルよ。その真価を我に見せよ!」
ルーファスがそう唱えると、壁に立てかけられてあったあの金槌が突然雷を発した。
「へぇ。神具を持っているのね。でもそれは貴方には過ぎた物じゃないかしら」
「なんとでも言うが良い!後は妾が投げればお前は死ぬ!ぬあああああ!ぬかったな間抜けが」
ルーファスは笑いながら、壁際まで歩いて行き、その金槌を手に取った。
この子敵の前で平気に背中を見せて、武器を投げる宣言までして取りに行ったけど、クチさんの機嫌次第で死んでたよな。
「さあ今日は握れるか......な。ぬぉ!握れたぞ!握れるなんて50回に1回くらいしかないんのじゃ!勝った!勝ったぞ!」
普段はその金槌握れなくないのか。こいつよくそれでその魔法使ったな。
「さあ!最後に言い残すことはあるかの?聞いてやるから話すが良い!」
勝利を確信したルーファスは余裕の笑みで、クチに問いかけた。
「そうね。じゃ最後なら一つ聞いてもいいかしら」
「許すぞ!何でも聞け!」
「私は美人かしら?」
え?
その問いに俺の脳裏に前の世界で読んだ、怪談を思い出す。
マスクを付けた背の高い女性。
その女性が聞いてくる。
「私、美人?」とそれに答えてしまうと。
「え、今なんて」
やはりシラメも気がついたようだ。
「やばい、ルーファ」
ルーファスを止めようとしたのだが、俺の口が動かなかった。
何......だと?
「お兄さん。私に背を向けると私のスキルは少しなら使えるの。動きの制限くらいならだけど」
「メリー!」
メリーのスキルにより俺の身体は蛇に睨まれた蛙の様に動けなくなっていた。
「うむ。最後にその問いとはお主も愛い奴よのぉ。よかろうまあ少しマスクを付けているので、何とも言えんがお主は美人じゃと思うぞ!」
そう答えた瞬間。部屋を悍ましい何かが支配した。
「な、なんじゃ!ま、まずいの行け!ミョル二ッ」
瞬間ルーファスが金槌を振り抜こうとしたルーファスが、壁をぶち破り隣の部屋まで飛ばされた。
「これでも?」
そう言って、ルーファスを殴り飛ばした女性......クチはマスクを取り、耳元近くまで裂けた大きな口を露わにした。
「な、まっずいわね」
シラメはメリーを開放して、下半身にめり込むテケちゃんを引き離して、クチに向かい投げると、手を硬化させ警戒態勢を取った。
「あら。殺る気はあるようね。これを見て戦意喪失してなくて安心したわ。さあ戦いま......じょぁな」
何かを言おうとしたクチの顔面が横に歪み、そのままクチは別の方向の壁をぶち破り隣の部屋へ飛んで行った。
「痛いわ!この戯けめが!」
クチをぶち飛ばしたのは、ルーファスの飛び蹴りだった。床に着地したルーファスは、なんとも満足そうだった。
「見たか!マコトよ!これこそ妾のオデュッセウスの靴の力を!」
ルーファスは自分の履いている靴を指差しながら言った。
金槌はどこに捨ててきたんですかね。
「この靴はの!神速を出せる靴なんじゃ!まあその代わり何かに当たらんと止まれんのがネックなんじゃがな」
クソ性能じゃねぇか!
「まあ何はともあれ、これにて一件落ち」
目の前で話していたルーファスの姿が消し飛び、そこには別の女性が立っていた。
先程まで綺麗な朱色だったワンピースは所々汚れており、血などもついている。
顔からは傷が消えており、回復したのだとわかった。
だって神速で顔面蹴り飛ばされたんですよこの人。
回復してなかったら今頃みるも耐えない顔になっていただろう。
「クソガキァッ!女性の顔面を蹴るとはどんな教育を受けて来たのか知りたいものね」
「さて帰りま」
ドゴーン。
黒煙を撒き散らし、そいつは現れた。
『ええと。何これ。急に呼び出されてあれを倒せと言われたはいいが、悪しかいないのだが』
『こっちは終わっ......ええ。悪しかいねー』
ルーファスの飛んでいって方から出てきたそいつも、俺の部屋を見てそう言った。
そう現れたのは2匹の黒山羊さん達だ。
これは以前ルーファスが召喚したので、覚えているというかこいつらは悪を倒すために呼ばれる召喚獣であり、悪であれば主人でも倒すのだ。
多分ルーファスが意気揚々と戻ってこないあたり始末されたんだろうなあ。
「ここであったが百年目!ぶっ殺す!」
『なんだお前!生きていたのか』
『ゾンビか!ゾンビなのだな!このぉ!』
シラメが黒山羊に突然飛びかかり、黒山羊達はそれに応戦しはじめた。
シラメがこいつに殺されかけたことを、根に持っていたのは知っていたが、今やるべきことじゃない。
「邪魔すんな獣風情が!」
黒山羊の1匹が床に叩きつけられた。
その勢いでその黒山羊の下に魔法陣が展開され、強制帰還となった。
『我が同胞を倒したのか!貴様何や......つ』
もう1匹の黒山羊も突然倒れ、その下に魔法陣が展開され強制帰還となり、これにて黒山羊さんはいなくなった。
「よそ見するとかありえないから死ね!」
「私に獣が触れるとかありえないから死ね!」
シラメは前から頭はおかしいのは知っている。
クチさんはあれだろうな。回復できるからルーファスより復帰が早いんだろうな。
というかルーファスは今鎧つけてないから、回復させてあげないと死ぬな。
「クチ怖い」
正直メリーちゃんと同じ意見。
既にメリーちゃんもテケちゃんも、俺もシラメもひいていた。
こいつら器物破損って言葉......知ってるよな。
宿の部屋がドンドン繋がっていってるぞ。
「クチ目的は何?なんで来たの?」
「あ、そうだったわ。帰るわよあなた達」
メリーちゃんにそう問われ、クチさんは本来の目的を思い出したようだ。
そういえば連れ帰りに来たんでしたね。
「はーい」
「はーい」
そう言ってクチさんはマスクを付けた。
その途端部屋に充満していた悍ましい物は消えた。
「だから人間に変に関わるなって言ったのよ。菊に怒られても知らないわよ」
「クチー。菊に言わないで」
「私は菊に言われたから来たの。さ、説教が始まるだろうから頑張んなさいな」
そう言って3人は帰って行った。




