24話 前乗りメリーさん
何か......いるじゃねぇか。
俺はシラメに聞こえたらまずいと思い、心の中で叫ぶだけで留めた。
しかし現在俺の中で溢れかえりそうな感情は、恐怖でしかない訳で。
「どしたん?なんか震えてるけど」
シラメに怪しまれるが、ここは誤魔化すしかないと強硬策に出る。
「シラメが震えてるんじゃないのか?」
「あーそれわんちゃんあるわ。と言うかそれかも。ほんっとに怖いんよねお化け」
よし!シラメが謎に気弱になってくれているおかげで、俺が不審な行動を取っていることに気づかなかったようだ。
俺はシラメから目をそらし、俺の足元。ルーファスとその手を見る。
ルーファスはブルブル震えながら、手を必死に剥がそうとするも、その手は必死にルーファスを抑え込んでいるのかドンドンとルーファスの顔が青くなっていく。
最初こそ怖いのはルーファスといえど、当たり前かと思っていたが実際のところは違っていた。
窒息死しそうなのだ。
「んんん!んんんんんん!」
ルーファスが必死に俺のズボンを引っ張り助けを求めてくる。
まあ状況はかなりまずい。
幽霊とか触りたくないし。変に関わって取り憑かれたら最悪だ。
だが仕方ない。ルーファスを失えば最近分裂しつつあるシラメの矛先は、全て俺に向かってくる。
「はぁ」
俺はひとつ深呼吸をして、蕪を引き抜く童話の様にルーファスの腰を掴むとそれを引き抜いた。
「ぬやぁ!?」
「キャアッ」
ルーファスのアホっぽい「ぬや」と言う声ともう一つ。金髪の少女がベッドの下から出て来た。
少女は整った顔つきでフランス人形の様だった。
服装はひらひらの装飾が施されたドレスを着ておりお嬢様というに差し支えないだろう。
背丈はルーファスより低く、小学校低学年くらいだ。
「な、何をするんじゃお主!」
ルーファスは開口一番にその女の子を、怒鳴りつけた。
「何々!?誰その子!可愛い〜」
何も知らないであろうシラメが、金髪少女を抱きしめて自分の頰を少女の頰にスリスリと擦りつけ始めた。
俺の感が正しければ、この子はシラメが恐れていた張本人......張本霊とうべきか。そうそのメリーさんのはずなんだけど。
「や、やめてください!わ、わたし部屋をま、間違えてしまって!」
「ええーそーなのー。ごめんね!隠れる羽目になっちゃったよね〜。いいのよ!お姉さん怒らないからね〜」
絶対嘘だろ!こいつ最初ルーファスを窒息死させようとしてましたけど!?
「シ、シラメよ!騙されるでない!そ、そやつ......は」
ルーファスがその真実を伝えようとしたのだが、二つの殺気がルーファスを襲う。
ひとつは金髪少女の。
シラメに抱きつかれながらも、その可愛い大きな目を鋭くしルーファスを睨みつけてきたのだ。
確信犯ですね。
そしてもうひとつは少女を奪われると思ったのか、より一層強く抱きしめるシラメが少女には見えない様に手を硬化させ、ルーファスに中指を立てる。
「ま、マコト〜!ひどいんじゃぁ!」
「ああ。分かってるって。よしよし」
抱きついてくるルーファスの頭を撫でてあげ、俺もこのままではまずいと思い、女の子を少し問い詰める事にした。
「名前は何て言うのか教えてもらってもいいかな?」
俺はできるだけ笑顔でその子に質問をすると、女の子は一瞬ビクッとなったが直ぐに平然として答えた。
「マリーです」
怪しいね。
マリー メリーなんか怪しいねぇ。
「マリーちゃんって言うんだぁ。可愛い名前だねぇ」
よしよしとシラメがマリーの頭を撫でるが、俺からは和むどころか怖くて仕方がない。
「ええと、部屋を間違えたって言ったけど、どこの部屋かわかる?」
二つ目の攻撃だ。
名前はまあ確かめる術はないが、ここは冒険者しか宿泊できないのだ。
この子が冒険者には見えないが、さあどうする?
「ええと、覚えてないです。お母さんを探してて。お母さんはぼうけんしゃってのなの」
うわコイツ平然と嘘付きながら、俺達の心を奪おうとして来やがった。
なんて奴だ。
ほら見てみなさいよ。シラメの目がハートになってるし。
「一緒に探してあげましょうか?」
「んん。だいじょうぶ。ひとりでも」
「んん!そんなこと言わないでいいのよ!私が連れて行ってあげるから」
「ええと、じゃお願いしてもいいですか?」
「ええ!もちろんよ!」
そういうとシラメとマリーは部屋を手を繋ぎ出て行こうとした。
ルーファスはそれを止めようとするが、再び発せられる二つの殺気に動きを止められてしまった。
そして俺はそれを見逃さなかった。
部屋を出て行こうとするマリーの口から、言葉が紡がれていた。
「私メリー。今あなたの隣にいるわ」
ヒンギャアアアアアアアアアアアア!
何なんだ!こいつ前乗りで来てんじゃねーよ!シラメの警戒心が0じゃねーか。それプラス気弱になっていた事もあって、マリー......メリーの事を心安寧とでも言うように扱ってやがる。
「おい!ルーファス跡をつけるぞ。つーかそんなに離れやがったら俺も呪いの効果で死にかけるしな」
「呪い......とは何じゃ。いやそれよりもじゃ!ああ、あ、あ、あ、あやつ!最後!言いやがったぞ!ほ、ほら手紙の!」
ルーファスがシラメのベッドに置いてある、手紙を指差して必死に伝えようとしてくるのでルーファスも気がついたのだと把握して、話が早くて助かる思いだった。
「よし尾行だ」
「もちろんじゃ!まさか敵がベッドの下から前乗りしてくるとはのぉ。なるほどお主らが怖いと言うておった理由がわかったわ」
「そうか?」
「うむ。ずっといた部屋のベッドの下におったら怖いわな。それも見つけたとしても平然としており、それでいて平気で取り入ろうとしてくる。恐ろしい魔族じゃよ」
何となくメリーさんの怖さの表現が違う気もするが、ルーファスもあれを敵として見てくれる様になったので動きやすくなった。
「はあ。シラメよ頼むから変な事にならないでくれよ」
「シラメじゃからの。既に始末しているかもしれんぞ?」
「あのロリコン具合を見れば、それはないだろ」
そうあってくれれば正解なんだがな。敵だからいつも通り狂気染みていてくれればいいのだがそれはないよなあ。
「それもそうじゃな」
俺とルーファスはシラメ達の後を追いながら、部屋を出た。




