20話 そこにある魔族の気配
「この街の近くに魔族がいる」
ピュートの放った一言は、それを聞いていた冒険者や受付嬢らギルドにいた全ての者の耳にしっかりと入った。
「魔族?」「魔族だって!?」「嘘だろ!」「逃げた方がいいんじゃないか!?」「でもどこにいるんだよ!街の近くなら街にいた方が安全なんじゃ」
ギルドから聞こえる声は悲鳴に近い。皆が自分の身を守ろうと必死になっているのがわかる。
魔族というのはそれほど恐ろしい存在なのだろう。
「ウッセェェッ!」
バンッという壁を叩く音がギルドに響き、全ての者を黙らせた。
「五月蝿え。いいかよく聞け。このSランクがいるんだ任せておけばいいんだよ。お前らはいつも通り働け!それとピュート!何でそんなことを皆の前で言うんだ!不安を煽っても意味はねぇだろ!ブッ殺すぞ」
シャニィさんが怖いです。俺の知ってるシャニィさんじゃない。
いつものシャニィさんはまとめる力があまりないと感じていたが、今は全然違うむしろ頼りになる感じがする。
姐御と呼びたくなるね。
「マコト。ちょっとどうする。魔族とか言ってるけど街の外出るのは危険じゃない?」
シラメが俺のところまで来てそんなことを言うが、こいつは何もわかっていない。
「無理だ。金がない。働くしかない。働き手は冒険者稼業しかない。understand?」
「うざ。ま、そーよね。働くしかないかそれに魔族も貫いちゃえば終わりよね」
シラメはやはり頭がおかしいのか。
魔族がどんな見た目かもわからない、貫けるかもわからない。もしかしたら近く事すら出来ないかもしれない。
そんな奴が出て来たらさ。
「逃げるだろ普通」
「え?」
「賛成じゃ。魔族とは何度か戦ったことはあるが、アレとお主らじゃ手も足も出ぬぞ」
何言ってんのこいつ?みたいな顔でこちらを見られたところへルーファスも俺の味方で入ってくれた。
いや〜仲間が俺とシラメの時なら出来なかったこの、2対1での対話ができるのは助かるな。
うちのアホは俺の言うこと何も聞いてくれないからな。
「戦ったことあるんだ。どんな奴?」
「うーん。妾が戦ったのは魔族言うても骨じゃからのぉ。アレを魔族に含めて良いのかわからぬな」
「骨?」
「そうじゃ。冥界の王ハーデスじゃ。このフード付きマントの持ち主じゃ」
「うん?待て待て。おいまさかそのフードってさ。倒して奪ったんじゃねーよな?」
「そんなわけないじゃろ」
「だよな安心した」
「取って逃げた」
安心した俺がバカでした。
盗んだってことじゃねーか。
こいつの装備品まさか全部そんな感じじゃないだろうな。
「ま、どーでもいいけど。とりあえず逃してもらえるかすらわからないから。逃げれたら逃げるけど、無理なら戦うしかないし覚悟はしておいていいと思うけど」
珍しくシラメがまともな事を言うので、反応に困ってしまった。
「そうだな。とりあえず今日は帰ろうか。なんかギルド五月蝿いし、これ以上このシャニィさんの姿は俺の目には入れたくないからな」
「そーね。別に用事はないし帰りましょ」
「そうじゃの」
俺とシラメは宿へ、ルーファスは......こいつ何処に住んでるんだ?
「ルーファスって何処に住んでるんだ?」
「ぬ?お主らと同じところに住むに決まっとるじゃろ」
「は?2人部屋だから無理」
「どちらかのベッドに2人寝れば良いだけではないか」
「なら私は1人がいい」
「ぬ?なら妾とマコトかえ?......まあ良いか」
何を言ってんだこの子は。
常識的に考えて、俺は1人で女の子2人がひとつのベッドで寝るべきだろう。
「そもそもさ、何で同じ宿にする必要があるんだよ」
「安いから」
「あー。そゆことね」
確かあの宿、初心者は安くなるんだったな。
「シャニィさん。帰りますね」
「マコト!居てくれても......いいんだ、ぞ///」
シャニィさんはモジモジしながら、そんな事を言って来た。
何この人ぉ。かわいいぞ。ものすごくかわいいぞ。でも服装は怖いぞ。
「い、いえ。あの、色々と話し合わないといけないので」
「そうか。。。残念だ。また飲もう!」
そう言ってシャニィさんに抱きつかれた。
俺はシャニィさんを無理矢理引き離し、そのままギルドを出た。
「シャニィと仲が良いのじゃな」
「うーん。どうなんだろうな」
「良いと思うぞ。シャニィは気を許したものにしかあの状態の時に素直に話さんからの」
そういえばルーファスはシャニィと昔ながらの知り合いっぽい感じだったな。
「ねえ、ルーファス。ギルマスってさ前はどんな人だったの?あのヤンキーが全盛期なんだよね?」
「そうじゃな。元は王国の冒険者でチームを組んで戦っとったぞ。ランクはAで妾もよく話しておった」
ルーファスが懐かしそうに話すのだが、ルーファスも王国にいたって事だよな。
シラメとの会話をしているので横槍を入れにくいのだが、一応聞いておいた。
「ルーファスは何で王国からこっちに来たんだ?」
質問のラリーを一つ減らして、王国にいたであろう事もこの答えで分かるように、質問をした。
「誰も組んでくれなくなったからじゃ」
「まーそーよな」
「そーよなとはなんじゃ!」
ルーファスか俺の腹をバンと殴った。少し痛いが冗談なのだとわかる痛さでありヒールは必要ない。
まあこんな恐ろしい爪がついた籠手で殴られたら、怖いんだけどね。
「ギルマスも王国にいたのになんでこっち来たん?」
「ムンタウンにはヤバイ奴らが多いとかでな。シャニィは王国ではそう言う奴らの頭じゃった故に白羽の矢が立ったのじゃ」
「それであんな感じなのね。まー大変」
シラメがそう言うが、そのヤバイ奴の1人にお前も入ってるんだけどな。
それにしてもシャニィさんって王国から、ヤバイ奴らをまとめるためにムンタウンに来たのか。
大変だな。
「総会の時の達成リストにAランクが1つクリアされとったじゃろ?」
「あ、確かあったな。この街でAクリアできる人がいるのかとは少し思った」
「アレはシャニィがやったんじゃろうな。ストレス発散のために」
シャニィさんお疲れの時にそんな方法で、ストレスを発散していたのか。
「ねえマコト。服買う?」
シラメに言われて、俺は無くなった物を思い出した。
先のアージの爆破により俺の上半氏の服は完全に吹き飛んだため、現在俺は上半身裸で歩いているのだ。
「買う」
「だよねー。流石にそれはキモいわ」
俺達は帰りに服屋へ行き、絶賛もらったばかりの報酬で俺の服を買った。
買った服は返り血無効のスキルがついた、黒のTシャツだ。
下のスーツの黒いズボンなので、全身が黒くなってしまった。
剣を携えていたり、カバンを背負っていたりするので、まあ変なわけではないがやはり気になってしまう。
変なこと言って赤に染められるのは嫌なので、何も言わないが。
「似合ってるわよ」
「お世辞でも嬉しいよ。ありがとう」
「普通にしとると仲が良いのになぁ」
「仲良いわよ。ね、マコト」
「お、おうそうだな」
俺は引き攣った笑顔で返した。
仲が良いなんてありえないと心の中では、叫び尽くしていた。
ーーーーーー
とある女性Dランク冒険者
「うわ、また来てる」
女性冒険者の手に持つ紙には
ーー
私メリー。
今あなたの街の前にいるわ。
ーー
「変な悪戯。やめてほしいわね」
女性はそう言ってその紙をゴミ箱に投げ捨てた。
この女冒険者は、2日後この世から去ることになった。




