14話 神域魔法使い(笑)ルーファス
「コボルトなんぞ妾の手にかかれば余裕よ」
森の道を歩きながら、胸を張って主張するルーファスと、だらだらと歩くシラメ。それに後ろから付いていく俺はルーファスに少し期待しているのかもしれない。
なんとなくだが、俺にかかる負担は軽減されたように思える。
シラメの相手が俺1人じゃなくなったからだろうか。
ああそれだけで心の負担が軽くなるなら、ルーファスの加入はあるかもしれない。
それにルーファスは神域魔法使いだ。後方支援でシラメをサポートしてくれれば、俺が盾役を務める必要性は少なくなるだろう。
もしかしたら、案外アリなのではないだろうか。
と思っていたさっきまでの俺はもういない。
目の前の惨状は俺とシラメで戦っていた時より、悲惨だ。
丸焦げになっているシラメ。
8匹のコボルトに追いかけ回されて、ミョルニルを放り投げ全力疾走で逃げるルーファス。
何が起きたのかというと。
「いたわね。んじゃいつも通りマコト足止めお願い」
「いんや、今回はルーファスの実力も見たいし、俺はその役じゃなくていいんじゃないか?」
コボルトを見つけ、いつも通りという命令をしてきたシラメに対して俺はルーファスの実力を見ようと提案をした。
「うむ。その方が良いじゃろうな!妾の実力を見て慄くが良いわ!」
そうして、ルーファスは金槌を構えて、走り出した。
「え?」
「はい?」
俺とシラメは同じ反応をしてしまった。
「金槌を持っていたけど、アレはあくまで接近された時の対策かと思っていたが」
「ええ。まさかよね。あの子本当に魔法使いなの?」
「オリャアアアアアアアア」
振り回される金槌は、木々を打ち倒しコボルトに避けられていた。
「ぬぁ!?当たらんじゃと!小賢しい奴め!」
「おんりゃああああ」「せりやぁあああああ」
空振り、空振り、空振り
何度振り回すも金槌は地や木々を叩き、しまいにはコボルトに反撃をされていた。
「いったいわッ」
ルーファスにコボルトの振り抜いた剣が掠り、ルーファスの頰から血が流れた。
ルーファスは反射的に金槌を振り抜くが、それは空を切る。
目の前の、武器を大振りで外す人間は、コボルトからすればしめたものでコボルトは剣を振り抜いた。
「なんじゃと!」
ルーファスは完全に隙だらけで、避けることはできないでいた。
「ナイス足止め」
シラメの声が聞こえたかと思うと、ルーファスと戦っていたコボルトが倒れた。
シラメが背後から一突して、刺し殺したのだ。
「ほ、ほぉ!やるではないか!」
ルーファスはビクビクと尻餅をつき、シラメを褒めた。
ホッと一安心してる場合じゃないんだけどな。魔法使いなら魔法を使って戦って貰いたいものだ。
「次やるわよ。なんでか知らないけど、すごくこっちに集まって来るのよね」
シラメがそう言ったので、俺も気がついたが付近に嫌な気配が複数ある。
以前の俺なら気がつかなかっただろうが、何度も何度も死の淵にたったり、もう既に一回死んでいたりするため、殺気に少しは敏感になっていた。
なんてカッコつけて見たが、実際は言われるまで全くわかりませんでした。
「ナ、ナンデジャローナー」
「ルーファスさんや?どうされたのですかな。そんなカタコトになって。何か心当たりでも?」
俺がルーファスの元にいき、話しかけるとルーファスはガクガクとこちら見て一言。
「コ、心当たりなどないわ!」
そこで俺は嫌な予感がした。
確かルーファスの履歴書にあったステータスに、回避と防御がとてつもなく強化されていた。
そして呪いや怒り。
武器が杖ではなく近接系であり、鎧や姿を隠すフード。
「おい。お前まさかモンスターを呼び寄せやすい体質だったりしないか?」
「ギクッ!な、な、な、な何のことじゃ?わーらーわーはーしーらーぬ」
はい確信犯ですね。ギクッなんて声に出して言う時点で動揺しすぎだろ。
「ああもう!無駄話はいいから!盾供ッ働け!」
シラメさんが怒るのはもっともだが、盾供って言った?
盾供って何?酷くないですか?
「盾じゃと!もうよいわ!妾の本気を見せてやるわ!神域魔法というやつをのぉ!」
「は?できるなら最初からやれよ」
「マコトよ。最初からクライマックスじゃとつまらんじゃろ」
「あーはいはい。わかったからさっさとやってくれませんかね。シラメがそろそろキレてこっちがターゲットになりそうなんで」
「わかったわかった!見ておれよ!」
「雷よ、妾は巨神の力を持つ者也、妾は巨神の武器を持つ者也、妾の巨神の防具を持つ者也、さあ応えよ!妾こそが真の強者であり、真の神である。ここに妾が神である事を証明せよ。敵陣を焼き払え!黒山羊の雷鳴走」
ルーファスが何やら詠唱を終えた途端、快晴だった空が、一瞬にして黒く染まった。
そして空を引き裂き、二頭の黒山羊が顔を出す。
その黒山羊は体に黒い雷を纏っており、この世のものでない事を理解させられる。
そしてその二匹は此方に向かい走り出す。
空を駆け数匹のコボルトが潜伏している森めがけて雷鳴の如き速度で移動し、視認できたのは光線となって見えた黒い雷の線だけだった。
「ヌハァアアアアアアアアアア」
「はっ?ふぎゃァアアアアアアア」
「はい?」
黒き雷鳴が突き刺さった先は、コボルトと戦闘をしていたシラメと発動者であるルーファス本人だった。
シラメは防御する暇もないまま、丸焦げになり地に倒れた。
ルーファスは焦げることなく、そのまま後方遠くまで、突き飛ばされシラメに開けられた穴からは黒い煙が出ていた。
穴の部分だけダメージを受けたのだろう。
それ以外は鎧で守られたと見える。
『 そこの人間よ。悪は討った。我らが使命はこれにて終了だ 』
シラメに攻撃した黒山羊がそう話した。
『 そこの人間よ。悪は滅んだ。これよりは悪に怯えて暮らすことは無いだろう 』
ルーファスに攻撃をした黒山羊が話した。
黒山羊達は、俺を見てそう言うと再び空を駆け、消えていった。
黒山羊が消えると、黒くなっていた空に青が戻った。
「まあとりあえずヒールは必要だよな」
まずは軽傷そうなルーファスの元へ行き、ヒールをかけた。
「ヒールヒールヒールヒールヒール」
ヒールは5回必要だった。それ程までに大ダメージだったと言うわけだ。
つまり、防御のないシラメは即死の可能性もあるわけだ。
目の前のルーファスは目を覚ますと、俺を見てこう言った。
「の?言ったじゃろ?妾の魔法は悪を討つ魔法なんじゃ。つまりの?妾自身が彼等には悪に見えるそうなのじゃ!ぬはははつまり妾の魔法は妾しか攻撃せぬ......はずだったのじゃがぁ......何でじゃろうな」
ルーファスは丸焦げになるシラメを見て、そう言った。
つまりだ。ルーファスは全く使えない無能で、シラメは悪である。という二つの事が判明したわけだな。
「よし、シラメが死ぬ前に回復させないといけない。ルーファスは別の場所に行ってくれ」
「うん?なんでじゃ?妾が一緒にいては都合が悪いのか?」
「まあな。だから頼んだぞ」
「うむ。承知した」
ルーファスはそう言うと、その場から離れて行った。コボルト達を連れて。
「謀ったな!マコトどおおおおおお」
間抜けめ。
さて、シラメを回復させないとな。まあ死んでたらそれはそれで......いや。魂の誓いの呪いの効果が道連れなら最悪だ。ここは素直に回復させよう。
俺はシラメの元まで歩いて行った。
シラメは丸焦げになっており、息をしているのかすら判断つかない。というかもう死んでいるのではないかとすら思えてしまう。
とりあえずやってみるか。
俺はヒールをかけた。11回のヒールでやっと回復することができた。
「あ、ありがと。死ぬかと思った」
シラメは直ぐに起き上がり、目の前で繰り広げられている鬼ごっこを見て、ジト目になった。
「というかアレは何?」
「知らん。あいつモンスターを寄せ付ける体質らしい。仲間にならないほうがよ」
「いいじゃない!向こうから寄ってきてくれるなんて、好都合じゃない!仲間に入ってくれてよかったわね!」
「あ、はーい」
シラメは気が狂ってることを忘れていた。
ルーファスという気狂いが増えたことにより、若干和らいだ感覚だったが、違うな。
ヤバイ奴が増えたことにより、感覚がより一層麻痺しただけだわこれ。
「さーて、私も鬼ごっこに加わろう〜」
シラメはそう言うと、手を硬化させて走りだした。
鬼の形相である。
後ろから追いかけてくるシラメを視認したコボルト達が、絶叫した。
「グギャアアアアアアアアアアアア」
ああ。怖かったんだろうな。
コボルトは武器を投げ捨て、その様はまさにマラソン選手のようだ。
腕を全力で振り、隣のコボルトよりも速く走ろうと必死の形相で腕を振り足を動かしていた。
ソレを見たルーファスは、武器を捨てて必死の形相で走ってくるコボルトを見て、絶叫した。
「なんでじゃぁあああああああああ!妾は美味しくないぞぉ」
コボルトが本気で追いかけてきたと勘違いしたのだろうな。
コボルトの顔は、鬼の様なシラメから逃げているから必死だし、マラソン選手の如く腕を振って走るコボルトはルーファスから見たら恐ろしく写った事だろう。
「やられたらやり返すのが私のポリシーよ」
「グギャアアアアアアアアアアアア」
「ぬぁあああああああああああああー」
獲物を追いかけるシラメ。
獲物を追いかけながら、狩人に追われるコボルト。
狩人に追われながら、さらに鬼に追われるルーファス。
悲惨すぎる。




