6 しっかりしてよ…
照花が、これからの予定を考えながら、廊下を1人で歩いている。その背後に、気配を消してゆっくりと近づく怪しい者がいた。その者が、照花の肩をトントンと叩く。
照花が、叩かれた肩の方を振り向くと、背後にいた人物の人差し指が、少し深く照花の頬に刺さった。
「引っかかったー、いぇい」
「マーリーアー」
「怒んないでぇー」
「やめてよー、そういうの。何度も何度もぉ」
「メンゴメンゴ。なにしてた?」
「ご飯食べてた。マリアは?」
「大体同じ」
「だったら声かけてくれればよかったのに」
「だってさぁ、声かけようと思ったら部屋にいなかったんだもん」
「あなたが起きるの遅かったんでしょ」
「はっはっは」
「は?」
「うそうそ。で、これからどうすんの? あたし達、ムタヘバの件、外されちゃったし」
「うーん……とりあえず、訓練?」
「訓練訓練って、レナードかよっ」
「と言っても、他にやることもないしねぇ」
「やだー飽きた。もはや飽き飽き飽き飽きアキちゃんじゃん」
「そうは言っても、訓練は怠っちゃ駄目でしょ。……ってかアキちゃんってなに?」
「アキちゃんをご存知ない!? あのアキちゃんだよ!? んんっ、オホン。『アキチャンダヨー。ヨロシクネー』」
「へぇー」
「いや、へぇーって……」
2人は、1-Aの部屋に戻る。会議室の方へ顔を出すが、そこには誰も居なかった。
「ありゃ。誰もいない。みんな寝てるか、ご飯食べに行ってるのかな」
「寝てるのは……ミヤカぐらい?」
「おっしゃ、起こしに行くか。起こして、トランプに付き合わせるっ!」
「えぇ……、ミヤカ、寝起き機嫌悪いからなぁ……」
「あ、確かに……。この前も、デスロック決められたからなぁ……」
「あれは見事だったわ……」
「……やめとこ。だったら……シノはどうかな?」
「篠前さん? 今色々と忙しいんじゃない? それに、篠前さんも寝起きの機嫌が悪い人だったらどうするの」
「そん時はそん時。甘んじて、技にかかりましょう。では、突撃ぃ……って、どこで寝てんの?」
「空いていた部屋のどこかでしょ」
「では、透視いたしましょう。むー……、ここだっ!」
「違うと思う。多分こっち」
「ほう……照花探偵、その根拠は?」
「この前まで使われていなかった部屋に、明かりがついているから」
「えーなにそれ。まぁいいや、突撃ぃ!」
マリアが、廻の部屋と思われる部屋に突入する。それに続いて、照花もゆっくりと部屋に入る。
「あ、テレビが点いてる……」
マリアが、テレビの音が聞こえる方へ進んで行くのを、照花が後ろから見ていると、マリアの背後に急に人影が現れた。照花が思わず声を出しそうになると、マリアの背後にいた人物が、照花の方を向き、「秘密」と、ジェスチャーを照花に送った。
マリアが、テレビの点いている部屋に入る。だが、そこにシノの姿はない。
「ありゃ、誰もいない。点けっぱなしかよ。しょうがないなぁ」
マリアが、テレビの電源を消そうと、部屋の奥に進もうとすると、マリアの背後にいた人物が、耳元でゆっくりと囁いた。
「俺が観てるから消さないで」
「ひっ!?」
聞こえてきたのは男性の声だった。前方に意識が集中したところに、耳元で照花ではない、それも男性の声が聞こえてきて、思わずびっくりした。
マリアが後ろをびっくりして振り向くと、そこにはルーカスがニヤニヤしながら立っていた。
「って、ルーカスじゃん! び、びっくりした……」
「いや、急に入ってくるもんだからつい……」
「って、照花! 気づいてたなら教えてよ!」
「いやー気づかなかったなーまったくなー」
「嘘つけっ!」
「……なに? なんでこんな騒がしいの……って、なんでここに居んの?」
3人の声で、半ば強制的に起こされた廻が、眠そうな顔を引っ提げて、3人のところへやって来た。
「あ……おはよう。えっと……トランプ、する?」
マリアと照花の2人は、マリアの部屋で暇をつぶすことになった。
「『廻はこれから用事がある。だから今度にしてくれ』……だってさ」
「言われた本人、え? そうなの? って感じだったけど……。っていうか……」
「ん? どした?」
「どした? じゃない! なんでまた散らかってるの! 1週間前に掃除したばっかりじゃない!」
「あ、あぁ……えっと~……その……まぁ……」
「今すぐ掃除しなさい!」
「すんませんお母さま……」
「まったくもう。なんで1週間でこうも汚く出来るのよ」
「いやまぁ……なんと言いますか……ねぇ」
「まったく……。もう、早く片付けるよ」
「ありがとうございます女神様!」
「本当にしょうがないわね。もう前からずっと一緒、全然直ってないじゃない」
「いやーだってさ……。あの時は環境が環境だったからさ……」
「環境のせいにすんな。まぁ、あの中じゃ荒むのも分かるけど……。もう大人なんだからね。ちゃんとしてよ」
「はーいママ」
「まったく。どうすんのさ。私がいなくなったりでもしたら」
「えー辞めないでー。1人にしちゃやーよー」
「もー……。本当に……」
「本当に?」
「って、もう! 手が止まってる!」
「ハイハイハイ。わかりましたわかりました……って、あっ」
「どうしたの?」
「BB弾見っけた」
マリアは拾ったBB弾を手にすると、ドレッサーの引き出しを開け、なにかを探し始める。そして、中から拳銃を取り出すと、それを照花に見せつける。
「じゃーん」
「……内ポケに入ってるやつ使えばいいじゃん」
「やだよ、弾もったいない。おもちゃで十分」
そう言って、おもちゃの拳銃にBB弾を装填して、離れた場所にある空き缶を指さす。
「ほいっ」
マリアは空き缶に銃口を向けて、じっくりと狙いを定めるわけでもなく、すぐに弾を撃った。すると空き缶にBB弾が命中し、金属音が甲高く響き、空き缶が床に転がった。
「どうよ」
「すごいね。早く片付けしよ」
「ぶー。もっと褒めてくれたっていいのにさ」
「すごいすごい」
「雑!」
「まったく……。そんな技術、もう必要ないでしょ?」
「そんな事は無いと思うけどなー。そのうち、射撃大会なんかに出ちゃったりして。ま、出ないけど」
「……今でも、思い出したりする? 過去の事」
「そりゃそうよ、忘れられるわけないじゃん。そんなんだから、いつまで経ってもこんなもの、肌身離さず持ち歩いてるわけだし」
「……それ、篠前さん見たらびっくりするんじゃない?」
「大丈夫大丈夫。知らない人から見たら、本物かどうかなんて区別つかないから」
「まぁねぇ。……って、また手止まってるじゃん!」
「照花もねー」
「誰の部屋を掃除してると思ってんのさ!」
「ハイハイハイハイ。すみませんすみませんすみません。早急に掃除いたしますっ」
「もう。ホントに……」
照花は、呆れた表情を浮かべるが、それとは裏腹に、その声色はそこはかとなく楽しそうであった。




