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終期超越 シドシワルワ  作者: 弥島真
第1章 始まりのエンドレスライフ
11/27

10 めんどうだな……

 ――3か月後――


 現在、俺たちは惑星ドールアに来ている。今日ここから、2隻目の大型宇宙船が宇宙へ飛び立つ。と言っても、本稼働はまだ先で、何日かに及ぶ、デモンストレーションらしいが。数か月前から、搭乗者を一般からも公募し、選ばれた男女各1000人が、実際に数日間、もしくはそれ以上、宇宙飛行を体験できるらしい。

 世間的には、人類の発展を更に推進させる、大きな武器がまた1つ増えたことによる、歓迎ムードが漂っていた。そのため、今回の式にも、すごい人数の見物客が集まった。普通の人たちからしたら、エンドレスのようなものが、もう1隻増えるのだから大抵は喜ばれる。しかし、全ての状況を知っている一部の人間たちからは、猜疑的な意見の方が多い。軍関係者たちだ。しかし、世間の人間はそんなことはどうでもいいため、今回のエンドレスの人間と、2隻目の大型宇宙船の管理者たち、つまり世界連合の人間との壮行式は、とても楽しみにされていた。「宇宙を共に開拓する者達」が、同じ舞台に並び立つからだ。

 そんなわけで、エンドレスからも、艦長や副長、チームリーダー等が、否が応にも参列させられている。もちろん、この男も。

「あーめんどくさい」

 式の準備をしている会場を待機場所から眺め、ルーカスがつまらなさそうにぼやいた。

「ルーカスって子供っぽいとこあるよな」

「童心を忘れていないだけさ」

「なんじゃそりゃ」

「廻は戻らなくていいのか? 俺は逃げないから安心しろ」

「今はその言葉は信用出来んな。ここまで連れてきたの誰だと思ってる」

「誰だっけ?」

「……」

「冗談だ」

「……」

「わかったわかった。ちゃんとやるから許して」

「ちゃんとやれよ。つーかどっちにしろ立ってるだけじゃん。楽じゃん」

「あいつらに敬礼しなきゃいけないってのが気に食わない」

「捨てちまえそんな安いプライド」

 ルーカスとくだらない話をしていると、背後から来た人物が声をかけてきた。

「相変わらずだな、ルーカス」

 振り向くと、白のジャケットを羽織った男性が、こちらもつまらなさそうに立っていた。

「アドか」

「あっアドリアンさん、どうも」

「よっ、お2人さん。廻、ルーカスと一緒だと大変だろう?」

「はい。ちょっと聞いてくださいよ! コイツ、さっきもここに来んのヤダヤダ言って、ユゼに代わりに来させようとしてたんっすから」

「ったく、お前は相変わらず……」

「いいじゃねぇかちょっとぐらい」

「どこがちょっとだよ……」

「ハイハイごめんごめん。で、最近どうだ? アド」

「最近? ムタヘバの事で手一杯だよ」

「しかもアドは、今回約500人を纏めるリーダーだしな」

「それに関しては、他のチームリーダーにも助力を仰ぐから、1人で気負い過ぎることは無いと思っている」

「アドリアンさんは、今度のムタヘバ調査に行くんすか」

「ああ。今回は、前回と違い少なくとも1か月以上はかかる見込みらしいから、今のうちにゆっくりしておきたいのだが、いかんせんそういうわけにもいかないんだよなぁ……」

「大変そうっすね。うちのチームリーダーとは大違いだ」

「俺だって最低限仕事しているよ!」

「最低限ねぇ……。ところでルーカス、お前のとこのチーム状況はどうなった?」

「進歩無し」

「そうか。でも少人数ってのも、家族感があっていいんじゃないか?」

「あれが家族だったら、相当濃いな」

「だったら、ルーカスはパパだな」

「そうかい。なら廻はおじいちゃんだな」

「俺、おじいちゃんなんだ……」

「フッ」

「少人数なのも、個人的には案外悪くはないが、やっぱり与えられる任務が限られるから、早いところ欠員を補充したいけどなぁ。今回だって、1-Aは外されて、他のチーム1はもれなくそっち行きだし」

「だから早く募集すればいいじゃん」

「やだよめんどくさい」

「ルーカスの気持ちも分かるけどなぁ。俺も、正直色々めんどくさかったし」

「チームリーダーがそんなこと言っていいんすか?」

「廻も、同じ立場になればなんとなく分かると思うぞ? 俺たちだって人間なんだし」

「そうだぞ廻。エンドレスの10人いるナンバーリーダーの中でも、1番優秀と噂されているチーム10リーダーのアドでさえ、実はめんどくさいことは全部やんないで部屋でゴロゴロしたいって思っているのだからな」

「いや、さすがにそこまでじゃねぇよ?」

「はあ、そうっすか……」

「というわけで、俺たちはこれから始まる長ったらしい式にすごく憂鬱な気分なのだ」

「ルーカスほどじゃないけど、俺もそうかな。5分で済むところを、1時間ぐらいに伸ばしやがるからな連中」

「まったくだ」

「ああ」

「……えぇ……」

 ルーカスとアドリアンさんは、うつろな目で空の方を向き、深くため息をついた。



「――私たち世界連合の、総力を挙げて完成させた、本日より広大な宇宙へと飛び立つこの巨大な宇宙船。私たちは『ノア』と命名いたしました。この『ノア』が、人類の更なる飛躍への大きな力になるよう、宇宙活動に誠心誠意努めていくとここに宣言いたします」

 大きな歓声が上がっている中、関係者エリアでボケーっと式の様子を見ていた俺は、なんとなくルーカスの様子を伺ってみた。……パッと見た感じちゃんとしているけど、頭ん中はどう思っているんだか。

「――私たちエンドレスと、この先共に手を取り合って、人類の発展に尽力いたしましょう」

 艦長が、世界連合のおっさんと握手を交わす。おうおうおうおう。会場はすごく盛り上がってんねぇー……。ホントにつまんねぇな……。


 一通りの挨拶を終え、ついにノアの船員となる人たちや、公募で選ばれた一般人がノアに乗り込む。旅行にでも行く気分なんだろうか。皆、ウキウキしているように見える。その人たちが乗り終わると、最後に世界連合の人たちが乗り込んだ。そしてノアは、宇宙へと幾日かのフライトをしに旅立った。


「ようルーカス。意外とちゃんとしてたじゃん」

 クソつまらない式が終わり、眠そうにあくびをこいているルーカスの元へと駆け寄る。

「ああ、あそこでちゃんとしないのはさすがにマズイからな」

「っつーか、お前とアドリアンさんと、あとは、阿縣さんとジュリアさんが、悪目立ちしてたぞ」

「どんな風に?」

「他のみんなは正装だったのに、4人はすごく私服感があった」

「それはいけないな。後で言っておくよ」

「もう遅ぇよ!」

「ははは。さ、帰るか」

「ッフ、だな」


 エンドレスに来て早3か月。すっかりこの生活にも慣れた。と言っても、ルーカスの言うでかい仕事ってのはまだしてないけど。


 1-Aの部屋に帰ってくると、マリアが会議室の椅子に座って、テレビを観ながらお菓子を食っていた。

「あっ。おかえりんこー」

「……ただいま」

「どだったーん?」

「飛び立つ時が迫力あって凄かった」

「ほー。ルーカスは?」

「俺? とくになにも」

「あー……。そういえばそうだった」

「ってかみんなは?」

「男連中は、レナードのトレーニングに付き合わされてる。女子たちは……お茶会? あたしはメシ食い過ぎて、1抜けしてきたけど」

「そうか。というか、レナードは流石トレーニング室の主だな」

「そう言ってないで、ルーカスもトレーニングしてきたら?」

「遠慮しておく」

「あーあ。あたしも行ってくりゃよかったかなードールア」

「つまんないから止めておけ」

「今のルーカスは、公平性に欠けるからその意見は却下。ねぇシノー」

「なに?」

「お土産なんか買ってきた?」

「ああ。はいこれ」

「なにこれ? せんべい?」

「『ドールア』って焼印が押されてる煎餅」

「なんじゃそりゃ。あ、でも煎餅って食べたことないかも」

「俺の住んでたとこじゃ、別に珍しくはなかったけどな」

「へぇー。いただきまーす。……うん、まぁ、普通においひい」

「それはよかった。ルーカスも食えば?」

「後でもらう。ちょっと手伝いに行ってくる」

「なんの?」

「ムタヘバに行く人たちの」

「ん。わかった」

「いっへら」


 1-Aのみんなとの距離も縮まり、日々をわりと楽しく過ごせている。エンドレスにきて良かったと思う。本当に……。


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