5話 ヒーローが魔法に興奮
なんであの娘っこがが俺の依頼表に仕事票吊るしてんだか。
まさかばれたのか?
いやいや、名前は偽名を伝えたしそんなはずない。
とりあえず吊るされた仕事票を見てみる。
仕事内容は薬草採取の護衛。護衛費用は相場なのだが、討伐した魔物はすべて護衛側の獲物としてよいとなっている。
そして備考欄には『なんで名前の嘘ついたのよ』と書かれている。
なぜばれた!?
これはヤバいな。この仕事受けなくちゃいけないような感じになってるし。
しょうがない、これしか仕事もないことだし。
諦めて仕事を受けることをギルドの受付に申告する。
翌日の朝早く、待ち合わせ場所の街の裏門へと行く。
いた、獣人娘のリリーだ。
黙って立ってりゃ可愛いのになどと思いながら「おはよっ」と声を掛けてみた。
すると「へっ?」って顔で返事がない。
「あれ? 俺だけど?」
「えっと、あなたがレッド? いえカイトなのかしら」
「そう、俺がカイト。でもなんで俺があの時の冒険者だってわかったの。顔は見られてないし、なまえ偽名だったのに」
「ばっかじゃないの、あなた。依頼表に正義の味方とか書く変わり者の冒険者が他にいるわけないじゃないの」
「そういうことか……」
「さあ、時間をつぶしてる暇ないからさっさといくわよ。でもあなた鎧は着なくていいの?」
歩きながらリリーと会話を交わす。
「それに関してお願いがあるんだけどさ、いいかな」
「なによお願いって。内容にもよるわね」
「俺がスーツ――鎧着て正義の味方って言ってるのは秘密にしてほしんだ。変な奴って思われたくないし。それと鎧着てるときはレッドって呼んでもらえると助かるよ」
「変なこだわりがあるのね、そんなことなら構わないわよ」
「いやあ、助かるよ。ありがと」
「ところであなた、カイトね。魔法は使えるの?」
「もしかして、リリーは使えるんだ?」
「ふん、当たり前じゃないの。こう見えても魔道士よ」
「へええ、すげ~~な。魔法があるんだ。でもなんで薬草?」
「ふん、素人ね。魔法を使うには触媒が必要なのよ」
「その触媒の薬草を採るってことなんだね」
魔法があるんだすげ~この世界!
触媒があれば魔法使えるってことは俺も……!
「そうよ、さあ、森に着いたわよ。ちょっと奥まで入るから、しっかり私を守りなさい」
俺は急いでスーツに着替える。
「赤色仮面参上!」
着替えてさっそうとリリーの前に現れてやりましたよ。
「バカじゃないの」
その一言で撃沈しました。
少し仲良くなってきたからって油断した。
その後しばらく何もしゃべらずに歩きました。
別に泣いたりなんかしてないから。
「今はレッドって呼べばいいのよね。あそこにゴブリンが2匹いるわ、倒しなさい」
非常に上から目線、雇い主ですから文句言えないんだけどね。
はいはい、倒しますよ。
ゆっくり近づいて行くと、途中気が付かれました。
逃げるかと思ったら向かって来たね。
俺は脚をやや大きめに広げて腰を十分に落とし、刀に手を掛けてゴブリンが接近するのを待つ。
ゴブリン2匹が木の棒を振りかざして走りだす。
ギリギリまで溜めて刀を抜く。
その瞬間ゴブリンの首が宙を舞う。
俺はすぐに刀を鞘にしまう。
その俺の直ぐ横を首のないゴブリンが走り抜けてドッと地面に倒れ込む。
俺はゴブリンの返り血を浴びるもだが、恰好良いところを見せる為に敢えてそれに動じない。本当はタオルか何かで拭いたい。
もう1匹のゴブリンは何が起こったか理解できないらしく、足を止めてキョロキョロしだす。
そこへ俺は歩を速めてそのゴブリンの目の前にあっという間にすり寄ると、再び刀を引き抜いてゴブリンの頸動脈を切り割く……はずだった。
返り血が刀の柄にかかっていたらしい。
刀を引き抜いた瞬間、すっぽ抜けました。
「あ」
そう声を出したのはリリーです。
一瞬ゴブリンと俺の目が合う。
猛ダッシュで刀を拾いに走りましたよ。
ゴブリンもなぜか飛んでった刀の方向へダッシュするんだが、スーツを着た俺の身体強化の前には成すすべもない。
俺はくるりと反転しながら拾った刀を鞘に収める。俺は居合切りが得意だったので、どうしてもこういう型での戦いになってしまう。
ゴブリンと正面から対峙する。
仕切り直しだな。
ゴブリンが木の棒を真上に振り上げて踏み込んできた。
そんなモーション遅い、遅すぎるぜ!
刀を抜いてすぐに収める。
それで勝負はついた。
はじめ何が起こったかゴブリン自体が解っていないようだったが、次の瞬間木の棒を手から放して自分の喉を抑えて苦しみ始める。
その抑える両手の隙間からは鮮血が溢れる。
そしてゴブリンは言葉にならない叫び声を上げながらその場に崩れ落ちて、次第に動かなくなっていった。
「あなた微妙ね」
リリーからは凄いと褒められるかと思ったらこれだった。やはり返り血で手から刀がすっぽ抜けたのがまずかったか。
安いスーツなので力加減が時々失敗するんだよね。
「正義は必ず勝つ!」
一応最後は決めないと。
リリーに言葉を挟まれたから決め台詞も台無しだ。折角ポーズもとったんだけどなぜか恥ずかしい。
「レッド、いちいちなんで変なポーズをするのかしら。さっさと進むわよ」
「あ、ちょっと待って。討伐部位を……」
少し歩くとリリーが薬草の群生を見つけたといって、採取でその辺をうろうろする。
薬草採取をしながらリリーが先ほどのゴブリンとの戦いの事を聞いてきた。
「さっきの戦闘なんだけ、剣で切る瞬間が見えなかったわよ。どうなってるわけ?」
スーツで身体能力がアップしてるからね、刀を抜くところと収めるところしか見えなかったんだろうね。
説明してわかるんだろうか。
「えっとあれはね、居合抜きって言う剣術の型なんだよ。剣を構えると相手に構え方で戦法がばれちゃうでしょ。だから剣はギリギリまで抜かないで戦う戦法みたいな感じかな」
「ふ~ん、難しいわね。どうでもいいけど」
どうでもいいんかい!
それじゃあ初めから聞くな!
「さ、ここはもういいわ。この先の池に群生地があるわ。そこへ行きましょうか。でも水場近くは魔物が現れる可能性が高いから、しっかり私を守りなさい」
はい、はい、守りますけどね。もうちっと言い方変えてもらえるとモチベーション上がるんですけど。
「あのリリーさん、もしよかったら魔法を見せてほしいんだけど」
魔法があるならぜひ見たい。ゲームの中でなく実際この目で!
「そうね、いいわよ。見せてあげるわ」
リリーがなんだかブツブツと小さな声でしゃべっている。
魔法の詠唱ってやつなのか?
「氷の礫」
リリーが右手の平を前にかざすと、手の平から拳くらいの大きさの氷が出現して、それが勢いよく前方に飛んでいく。
そして10mほど離れた樹木に命中して氷がそれにめり込んだ。
「すっげぇ、はじめて見たぜ」
やはりVRゲームの世界で見るのとは全然違うね。生はやっぱりすごかった。
「どうかしら、見直した?」
「リリーさん凄いです。それって他人に教えたりできるんですか」
もはや敬語です。
「私は無理だけど、ちゃんとしたところでそれ相応のお金出せば教えてもらえるわよ。でもレッド、あなたは魔法適正あるの?」
「魔法適正?」
俺は初めて聞くその言葉に興味深々となった。
読んで頂きありがとうございました。
不定期投稿ですがもう少しお付き合いよろしくお願いします。