39話 ヒーローが生身で突入
お待たせいたしました。
俺は丸1日気を失っていたようで、冒険者ギルドの医療室のベットで寝かされていたみたいだ。
治癒魔法により傷は治ってはいるが、心身疲労によりダウンしたってことだろう。
話を聞くと、俺が毒蜘蛛怪人を倒したことで街に攻め入った魔物達は総崩れとなって退却。後は局所でまだ退却できずに抗戦している盗賊がいるだけのようで、それも時間の問題で鎮圧できるだろうと言っている。
リリーとジェシカにだいたいの話を聞いた後、俺は医療室から出て1階の受付に報告に行く。
報告と言ってもだいたいの手続きはジェシカがやってくれているとのことで、俺の報告は「今目が覚めました、無事です」という報告だ。
それと今回の戦いで冒険者ギルドから報奨金がでるらしいのでそれも受け取る。
それとは別に、領主からも特別報酬が出るだろう言われた。
つまりリリーの親父さんからの報酬か。
そういえばリリーのお迎えが来る頃でもあるんだよね。
この分だとリリーのお迎えと領主の討伐隊はほぼ同時に来るんじゃないかな。
まあ、討伐はほとんど終わってるんだが。
治癒魔法のせいか、俺はまだ体中が重い感じで気怠い。しかしまだ街の各所で盗賊の生き残りがいるらしいので、それの討伐くらいならできるだろう。
相手はゴブリンばかりってことなので俺も討伐に加わる意志を伝えた。
俺は受付で綺麗に洗われた装備一式を返してもらった。
それは愛用の刀と荷物、そして所々破けてしまった赤いヒーロースーツだ。
そこで思い出したよ。
スーツのバッテリー切れてるじゃん!
でも相手はゴブリンだっていうからそれなら大丈夫だろう。リリーやジェシカもいるしね。そうそう、ゴブリン相手ならばちゃんと戦力になるルミアもいるしね。
俺達は早速ギルドを出た。街の中でも一番抵抗が激しいと言われた場所へ向かって。
その交戦中という場所に到着すると、商店内部に立て籠もるホネホネ団の生き残りが目に入る。
ゴブリン数匹と人間が1人いる。
ホネホネ団に入った人間がまだいたのか、それともバッテリーが切れた戦闘スーツを脱いだ戦闘員なのか、とにかく俺達はその商店に近づく。
元々パン屋だったところらしい。
パンの絵が描かれた看板が今にも落ちそうな感じでかろうじて掛かっている。
その看板は時折風に吹かれて嫌な音を発する。
その元パン屋の建物の周りはすべて街の一般人である民兵で囲まれていた。
急遽組織した街で暮らす普通の人々からなる民兵隊だ。
職業軍人である兵士の生き残りはほとんどいない。その数少ない生き残りの中で戦えるほど体力が残っている兵士はさらに少ない。辛うじてこの場所には2人の兵士が民兵の指揮をとるためにいるだけだ。
冒険者の生き残りを探したのだがここにはいないようだ。
もしかしてほとんどの冒険者は盗賊にやられてしまったのだろうか。
俺達が到着した時にはちょうどパン屋である建物に突入するところだった。
バリケードが張られた正面出入り口に、大きな丸太を持った数人の民兵が突撃した。
バリケード内部には数匹のゴブリンが槍を構えていたのだが、勢いをつけて突進して来た民兵の丸太にバリケードごと吹っ飛ばされた。
丸太でゴブリンを蹴散らした民兵は、勢いのまま建物内部へと突入した。
正面入り口のバリケードを破壊した途端、入り口の両サイドに控えていた民兵数人が丸太を持った民兵の後を追う様にして突入していく。
民兵らを良く見てみれば結構な年配のおばさんにおじさん。鎧などは全くなしで武器もお手製の槍や中にはシャベルや棒切れで戦う者もいる。
そんな民兵の動きはどう見てもぎこちなさが目立つレベルなのだが、相手がゴブリンならいけるのかな。
反対にかなり若い小僧もいる。ルミアと同じ位の年だろうか。
そんな素人丸出しレベルの民兵だ。突撃したのはいいが、建物内部から激しい金属のぶつかる音と怒号や悲鳴が聞こえたかと思うと、突入した半数の民兵が血相を変えてパラパラと逃げ出てきた。
逃げ出て来た者達は出血する腕を押さえる者、びっこを引く者、明らかに発狂してしまった者など様々だが、無傷な者は1人もいない。
俺は見るに見かねて言葉を言い残してパン屋の建物に走り寄る。
「リリーとジェシカは怪我人を頼みます。ルミアはクロスボウで援護よろしく」
俺の言葉に3人は黙って頷くとそれぞれが役割をこなし始める。
俺は走りながら思った。
体が重い。
スーツのバッテリー切れてるんだった……。
スーツを着てるとついそんなことは忘れてしまう。
でも今更もう遅い、俺は建物に突入していた。
入り口をくぐると建物内部は昼間だというのに薄暗く、鼻を突く嫌な臭いが漂っている。
目をこらすと薄っすらとその内部が見えてくる。辺りには無残な死体の数々。突入した民兵、そして倒されたゴブリンだ。
壁際にはゴブリン達が槍を突き出した状態で固まっていた。そして俺に向かって槍を構えて威嚇する。
一気に攻めてこないところをみると俺が誰だかわかっている様だな。
そこで俺はふと冷静に考える。
単なるボディーアーマーと化したこのスーツで、俺はゴブリンと互角に戦えるのだろうか。ゴブリンは魔物ランクでは最下位のFランクだ。俺はBランク冒険者ではあるがスーツ無しだとそこら辺の冒険者と変わらない。いや、それ以下かもしれない。
1対1ならまだしも、1対多数である。勝てる自信など全くない。
バッテリーが切れたといっても今着ているスーツは、一応この世界レベルだとかなり効果的な鎧という水準だ。ただし視界が悪いのでマスクは着けていないので、頭は無防備だ。
装備である愛用の刀も同様、バッテリー切れでも頑丈な武器という位置づけだ。
これでいけるのか?
今まで雑魚相手という思いで蹴散らしてきたゴブリンなのだが、今や行く手を阻む強敵なモンスターの群れに見えてくる。
見たところ戦闘できそうなゴブリンは6匹だけだ。あとは怪我をしているのか床に座っていたり壁に寄り掛かっていて、とても戦闘に参加できそうにない。
これならいけるんじゃね。
俺は左手で腰の刀の鞘を支え、右手を刀の柄を握りながらすり足で近づく。
いつでも抜刀できる体制だ。
一番前にいたゴブリンが必死の形相で俺に向かって槍の穂先を突き出してきた。
バッテリー充填されたスーツを着ていれば、ゴブリンごときの槍の突きなどスローモーションレベルなのだが、バッテリーが切れてしまった以上今は生身の体の俺だ。
「うおっ! あっぶねっ」
槍の穂先が俺の頬をかすめた。
ギリギリで首を傾げることに成功してなんとか直撃は避けられたのだが、頬がひりひりして熱く感じる。
俺は慌てて前進をやめて頬に手を当てると、ぬるりとしたものを手の平に感じた。
驚いて手の平を見る。
「血が……」
なんと今の槍の突きで頬が切られたのだ。
自分が今、生身の人間であり普通に怪我をするという事を改めて思い知る。
俺が頬に傷を付けられて動揺しているのをゴブリンも感じ取ったのか、急に勝ち誇ったように6匹のゴブリンがまとまって俺に向かってきた。
それはまるでいじめられっ子を見つけた悪ガキ達のようだった。
俺の中で恐怖という感情が一気に膨れ上がる。
その恐怖という感情は自己の防衛感情へと変化、つまり持っていた武器である刀を振り回す行動へと移行した。
「うわあぁぁぁぁあ」
俺は自然と大声を発しながら刀を振りぬいた。
通常ならまだ居合い抜きでの間合いには遠い距離だ。
それでも恐怖の感情を抑えられずに刀を振り回す俺。
数回振り回したところで少し落ち着いて我に返る。
肩で息を切らしながら俺は目の前の光景に驚く。
ゴブリン達の半数が壁際に寄り添う様に下がっていたからだ。
そして俺とゴブリン達の間には滅多切りにされたゴブリンが数匹横たわっていた。
あれ?
俺ってもしかして凄くねえ?
そんな時、俺の後ろから声がかかる。
「カイト、あんた鎧の魔力が切れると酷い剣裁きね」
おお、救世主!
リリーさんじゃないですか。
ジェシカさんやルミアまで応援に来てくれたのか。
それは心強い。
ささ、魔法でこいつらをゴリゴリにやっつけちゃって。
「ふん、まあいいわ。あなたの力量を見届けてあげるわ。好きなだけ暴れなさい」
えええ?!
リリーさん、それは待って下さいな。
リリーのその言葉でジェシカとルミアも見物体制のようだ。
「カイト、カッコいい所をみせるのじゃ」
「カイトさん頑張ってください。治癒の用意は任せてください」
いやいやいや、わざわざリスクを取る意味がありませんから。安全簡単に3人で準滅すればよくね?
どうやらそんなことを口にする空気じゃないようだ。
ルミアなど仁王立ちで腕を組んで偉そうに眺めていやがるし。
俺は1人諦めムードでゴブリン達を見据えたままつぶやく。
「はいはい、わかりましたよ。俺1人でやりますから。危なくなったら絶対助けてくださいよ」
こうなったらカッコいい所を見せて俺に惚れさせてやる!
「い、いやっ」
どうした?
突然後ろから女性の悲鳴?
振り向くとさっきまで偉そうにしていたリリーが、背後から何者かに抑えられて首に小剣を突きつけられていた。
またこの展開かよ!
次回最終回予定です。
たぶんですけど。
ちょっと時間空くかもしれませんが、しばらくお待ちください。




