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35話 ヒーローが神官を守る




 


 どうやらジェシカは気を失っているだけらしく、大した怪我はないという。今は冒険者ギルドに立てもる人々に見守られて眠っている。


 リリーはどうやら魔力切れらしく、魔力が回復するまでここで籠城ろうじょうするという。


 俺は少し悩んだのだが毒蜘蛛怪人を探しに行く事にした。

 戦いの中心はどうやらこの街の代官所らしい。現在はそこで激しい戦闘が繰り広げられているらしく、怒号や火の手が冒険者ギルドの建物の上階から見えた。


「リリー、ルミア、ジェシカと街の人達を頼むぞ」


 俺は意を決して1人で代官所に行く事にした。

 毒蜘蛛怪人を倒さないとこの戦いは永遠に終わらないと思ったからだ。

 それにバッテリーの残量のこともある。

 エネルギー切れになる前に決着をつけたかった。


 そのことをリリーとルミアに打ち明けると、本当に理解したのかわからないが、なんとか納得してもらえた。


「わかったわ。ここは私達に任せて。でも絶対に無理はするんじゃないわよ。魔力さえ回復すれば……」


 とリリーは言うのだが、若干涙目なのは俺の気のせいだろうか。

 ルミアは着いて来ると駄々をこねたのだが、リリーがなんとか説得してくれた。

 ここにいる人たちは怪我人の手当が済み次第、隣街へ避難しに行くという。

 リリー達には隣町に到着するまで護衛をしてほしいのだが「レッドばかり活躍するなんてずるいじゃないの」と言って中々受け入れてもらえない。


 最終的にはこの街からある程度離れて安全が確保できるまでは護衛するという条件で納得してくれた。


 俺は「じゃあ行ってくる」と言葉を残して冒険者ギルドにいる全員から見送られて建物を出た。

 窮地から救った俺は英雄扱いで見送られている。


 ああ、なんか正義の味方っぽい。

 俺の憧れていたシュチュエーションだ。

 きっと今の俺の背中は格好よく皆の目には映っているんだろうなあ。


 そんなことを思いながら颯爽さっそうと道を歩いて行く。


「あっ! コケたのじゃ!」


 ルミアが叫んだのも当然だ。

 慣れないシュチュエーションで緊張のあまり足がもつれてしまったのだ。

 冒険者ギルドで見送る人々がざわめく。


 があああ!

 なんでだよ。

 ここはヒーローが期待を背負って戦いに行く一番恰好良いところじゃねえか。

 そこでコケる俺って……


 そこから俺は恥ずかしくて振り向くことも出来ず、早足で角を曲がって身を隠すのだった。


 誰も見えなくなると俺は立ち止まって深く深呼吸する。


 正直言って怖いんですよ。

 毒蜘蛛怪人って強いんですよ。

 たぶんメイド怪人よりも強いんじゃないかと思う。


 奴がバッテリー残量を気にせずにフルパワーで戦ったら俺は勝てないんじゃないだろうか。それにたいする恐怖が込み上げてくる。


 それなのになんで俺は奴と戦うために向かうんだろう。

 負けるかもしれないのになんで戦うんだろう。


 でも行かなきゃ。


 リリーやルミアやジェシカがに合わせる顔がない。

 これってプライドなのか?


 ヒーローとしてのプライドか。


 あ、なんか俺カッケー。


 俺は走り出した。


 毒蜘蛛怪人がいる代官所へ。








 その頃代官所では街の衛兵とオークやゴブリン達が激しい戦いを繰り広げていた。

 

 それを離れた3回建ての建物の屋上から腕を組んで傍観しているのは毒蜘蛛怪人である。


 両脇には配下のオークを連れている。


「思った以上に手間取ってやがるな」


 毒蜘蛛怪人の言葉に隣にいたオークが少しなまった言葉使いで答える。


「はっ、毒蜘蛛男様。敵の抵抗が思った以上に激しいようなんでゲス」


「う~ん、そうか。しょうがねえ。あれを使うか」


 そう言うと毒蜘蛛男は背中に背負っていた細長い包みを手に持つ。

 そして包まれていた布をゆっくりと解いていく。


 毒蜘蛛男はほどいた布をパッと空中に投げ捨てる。

 すると包みの中からは1本の杖のようなものが現れる。


 長さは1.5mほど。槍に似た形をしていいるのだが穂先部分には刃らしいものは付いていない。穂先の形は槍の穂先そのものなのだが、先端は丸みを帯びていてしかも模様まで描かれていた。


 毒蜘蛛男はその槍の様な杖を握りしめると天高くその穂先を掲げる。


 そして杖の真ん中あたりにあるスイッチらしきものを声を出して押した。


「ポチっとな」


 すると穂先部分だけが炎を吐きながら勢いよく真上に飛んでいく。

 そして空中で大きく弧を描いて衛兵が密集している上空までくると、そこでパッ四方に白い糸を張り巡らした。


 衛兵達は戦闘中であるのに何事かと上空に顔を上げる。


 すると白い糸は一瞬で衛兵と一部のゴブリンとオークをも取り巻いて緑色に光る。それが光った途端、その糸に取り巻かれた者は苦しそうに悶え始め、数秒後には息絶えたのだった。


 その光景を満足そうに眺めていた毒蜘蛛怪人は笑う。


「ふっははははは。“闇糸”の威力思い知ったか。元の世界だとこの武器を使うと一大事だからな。この世界はその辺は良いな。はははは」


 少なくない人数の味方まで巻き添えにしても、毒蜘蛛怪人の両脇のオークは平然としている。オークやゴブリンの間では味方撃ちなどは日常茶飯事らしい。


 毒蜘蛛怪人はなくなった杖の先に新しい穂先を装着させながらぼやく。


「でもあと1発しか残弾がねえんだよな。この“闇糸”の弾。強力なんだけど使い処にも困るぜ」


 代官所では闇糸の範囲から逃れた生き残りの衛兵が逃げ惑う。


 一部のパニックに陥ったゴブリンも逃げ惑う。


 オークだけはしっかりと隊列を組みなおし、生き残りの衛兵を殲滅していいく。


 その中で一ヶ所だけ空間が生じていた。


 正確に言うと1人の人間の男のまわりだけ空間が出来ていたのだった。


 その男とは金髪にド派手な革製鎧を身に纏い、2振りのサーベルを巧みに使いこなすイケメンの貴公子。その名はシュミット。彼の凄まじいい戦いの様子から、人々は彼の事を“滅多切りのシュミット”と呼ぶ。


 冒険者ランクBを誇るこの街では有名な冒険者である。


 Bランク冒険者にとってDランク魔物のオークなど、2ランクも格下相手とあっては敵にならない。しかしオークは数で圧倒的に上回る。


 それに“滅多切りのシュミット”といえども所詮は人間である。疲れを知らないわけではない。恐らく相当な数の敵を倒しているのだろう、大きく肩で息をしている。体力的にも限界なのであろうことは見てとれる。


 そこで毒蜘蛛怪人が後方に手で合図を送りながら命令する。


「奴の出番だ。行かせろ」


 毒蜘蛛怪人の少し離れた後方からは「ギギャ」とゴブリンの返事が聞える。


 返事をしたゴブリンは屋上の片隅に横たわる一際大きな魔物を揺り起こす。


 するとゆっくりとその巨体を起こして立ち上がる。

 身長は4mはあろうかという巨人であるが、その巨人から放たれる悪臭が凄まじく、誰もが鼻を覆う。臭いだけではなくその外見もおぞましい見てくれをしており、人間がみたら吐き気をもよおすほどである。


「いやあ、この世界は面白い。あんな怪物までいるんだからな。はははは」


 そう言って笑う毒蜘蛛怪人であった。


 巨人はのっそりとした動きで3階建ての屋上から隣の2階建ての建物へと飛び移る。そしてその隣の平屋建ての建物に飛び移ると、その重さで建物が崩れ落ちる。


 しかし土煙の舞う中から平然と巨人が立ち上がると、その瓦礫の中から武器になりそうな太い木材を手に取ると、それを肩に担いで代官所へと歩き出すのだった。






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