32話 ヒーローと元ヒーロー
まずは一番先頭にいるゴブリンの集団に俺が突っ込むと、俺の体当たりで2匹のゴブリンが吹っ飛んで後ろにいるゴブリン2匹を巻き添えにして木に激突する。
肩車しているルミアに「大丈夫か?」と俺が聞くと「おちゃのこさいさいなのじゃ」と勇ましく電撃ロッドを振るう。
するとその一撃で兜を被った戦闘員が、バチバチと電気ショックを受けて倒れ込んだ。
「ルミア、やるじゃないの」
俺の褒め言葉にルミアが悪代官のような笑顔で自慢する。
「ふははは、お主もじゃのお」
そうなると真っ先にゴブリン達が大混乱となった。
一瞬で4匹のゴブリンと戦闘員が1人戦闘不能にされたのだ。そうなるといくら集団でいるといえどもゴブリンは弱い。恐怖が伝染するのだ。
俺がさらに暴れるとついには逃げ出そうとするゴブリンが現れる。
こうなったら俺達の勝利確定だ。
怪人がいなければあとは雑魚。8人いる戦闘員の内5人はバッテリー切れか故障の様で、まともなのはたった3人。3人なら楽勝だな。
そう思ってまともな戦闘員3人へと向き合う。
しかし戦闘員3人は逃げようとしない。中々の根性を持ってるじゃねえか。
でもおかしいのは逃走したゴブリン達が戻って来た。
これは俺よりも怖い奴が後ろにいるってことか。
そして森の中からゆっくりと出て来たお馴染みの怪人。
「出たな毒蜘蛛男! 正義の刃がお前を絶つ!」
やった!
決まったな。
「出たのじゃ! 性癖でおったつのじゃ」
ルミア、いろいろ間違ってる……やめてくれ!
「赤色仮面よ、久しぶりだな。丁度良い、紹介したい奴がいるんだ」
毒蜘蛛男が合図をするとその後ろから1人の怪人に加えて多数のオークが出現した。
うげえ、怪人まだいたのかよ!
さらにオーク引き連れてるじゃねえかよ。オークっていったらDランク魔物じゃね。Fランクのゴブリンなんか目じゃない。
その新たな怪人はというと、メイドの恰好をしていた。
メイド喫茶の店員そのまんまだ。
ただ違うのはマスクを被っているのと、変なマジカルステッキみたいなのを持っていることだ。
「ほ~っほっほっほ。あら、赤色仮面久しぶりじゃないの」
あ、思い出した。あいつは確か元正義の味方。元々ヒーロー組合に所属していて正義の味方として活動していたのだが、ある日突然のこと悪の結社に寝返った。
何が原因かはわからんが正義の味方が悪に寝返る話はよく聞いた。
逆に悪の結社から正義の味方に寝返る話はほとんど聞かない。
それが女性だったこともあり、たしか元の世界での新聞やテレビでも有名になった。
しかも俺は正義の味方同士で一度戦闘を共にしたことがあった。
ナイスバディーだったんで正義でも悪でも結構人気があったと思う。
ま、スーツ補正があるから実際はどうか分からんがな。
「思い出したよ。久しぶりだね。メイド仮面、いや今じゃメイド怪人だね」
皮肉たっぷりで返答してやった。
「あなたもこの世界へ飛ばされて来たようね。でもなんであなたはそっち側なのかしら? この世界じゃ正義も悪もないわよね。そのくらい理解してるわよねえ」
「ああ、理解してるよ。だから俺が正しいと思う正義を貫くつもりだよ。少なくとも元の世界での悪はここでも悪だよね」
「まあ、そういうことならしょうがないわね。その娘さんと一緒に消えて、無くな~~れっ!」
メイド怪人がステッキをこちらに向けると、その先端から弾丸が飛び出した。
俺は即座に跳躍してそれを避ける。確かあれは爆裂段。至近弾でも破片でやられる。
案の定、俺がいたところに着弾して爆発。近くのゴブリンが巻き添えを喰らって破片を浴びて吹き飛んだ。
そこへルミアが肩車状態から魔法を放つ。
「エアカッターなのじゃ、喰らえぇぇなのじゃ」
すると小型のエアカッターが発動して飛んでいく。
小型な分速度は速い!
「あ、痛い!」
おお、ルミア当てやがったのか!
おお、揺れる!!
メイド怪人の胸に命中したのだが、スーツ装甲は抜けなかったようだ。
軽く胸を揺らしたにすぎん。
しかし揺れたのだ!
「うぬぬぬ、あのおっぱい姉ちゃん強いのじゃ」
ルミア、思った事すぐに口にしないの!
まあ、悪者だからいいけどね。
「大丈夫でしょうか? メイド怪人様」
あれ、毒蜘蛛男が敬語だな。
メイド怪人の方が目上らしいな。
「毒蜘蛛男よ、お前は魔物の手下を率いて街を攻めろ。ここは私と戦闘員が引き受ける」
「え、よろしいのですか?」
「構わん、すぐに行け」
「はっ、かしこまりました」
毒蜘蛛男とオークとゴブリンは街の方角へと行ってしまったが、メイド怪人と戦闘中の俺はそれを止めることが出来ない。
怪人がいる上に戦闘員がいる。せめてバッテリーが残っている戦闘員3人をなんとかしたい。
「ルミア、マスク付けてる戦闘員を狙えるか?」
「うむ、やってみるのじゃ」
ルミアがクロスボウを俺の頭の上に据えて射撃体勢を取るのだが、当然のことながら俺は戦闘中なので動き回ります。そうなるとルミアは狙いが定まらず、挙句に投げやりな感じで引き金を引いてしまったのだが。
「あ、当たったのじゃ!」
まさにラッキーヒットだった。
敵の数もそれほど少なくなかったのと、敵が重なって構えていたのもあって、戦闘員の1人の胸部分に命中した。
しかしちゃんとバッテリーが残っていて稼働しているスーツだったのと、装甲の厚い胸部分に命中してしまったので跳ね返されてしまった。
クロスボウじゃダメか。
さっきのエアカッターの攻撃を見る限り、もしかして魔法攻撃の方が有効なのかもしれない。
「ルミア、魔法攻撃の方が有効かも!」
「やっぱりそうなのじゃ。それでは大魔法使いルミア様の力を発揮しようなのじゃ」
いちいち言う事がでけえよ。たかがエアカッターだろ。
ま、俺は魔法使えんがな。
俺がメイド怪人の炸裂弾攻撃を回避している間にも、ルミアがエアカッターを発動させる。
ルミアは1回は外したものの、2回目の発射で戦闘員の脇腹にエアカッターが突き刺さった。
やった!
やっぱり魔法攻撃の方が効果あるみたいだ。
一方、メイド怪人の乱射のような攻撃は一向にかすりもしない。
逆に反射速度で劣る、兜を被る戦闘員に破片の被害がいっている。
さすがにイライラしてきたのか、メイド怪人がヒステリックに声を上げる。
「ええい、当たらないわね!」
「なんだ、へたくそかよ」
俺のその言葉でさらにイラついたのか射撃速度が速まる。
そして遂には弾を撃ち尽くしたのかメイド怪人が舌打ちをする。
「ちっ! こうなったら近接戦闘よ」
お、それは助かる。近接戦闘の方が俺は特異だからな。あ、でもルミアを肩車してんだっけ。これはちょっとまずいかな。
メイド怪人は持っているマジカルステッキを振るうと、わずかに形を変えた。ステッキの先から長い紐状のものが伸びていく。
それはどんどん長くなり、メイド怪人はその紐を空中でクルクルと回転させる。
それを見た俺は思わずそれを言葉に出してしまった。
「あ、それって新体操のやつ……」
俺の言葉に反応して再び舌打ちする。
「ちっ。いちいちうるさいわね。そうよ、元新体操部よ!」
いや、そういうの言わないでいいよ。最初に言葉にした俺も確かに悪いけどさ。
悪の結社の怪人が元新体操部だったとかって情報いらねえよ。一気にテンションさがるだろ。
だけど器用だよな。たぶんあの操作はスーツに頼ってないんだろうな。
器用にクルクルと空中で回転させている紐を俺の方に向けて伸ばしてくる。
確かあの紐は“リボン”って言うんだよな。
「あぶね!」
先ほどの爆裂弾攻撃とは大違いだ。
今のは本当に危なかった。
明らかに俺の脚を狙っていやがった。
ギリギリで俺はその紐を躱したのだが、直ぐに紐の軌道を変えてきやがった。たまたま近くにあった木の切り株で俺の脚は救われた。
「あらあ、良く避けられたわね。あとちょっとで切断だったのにねえ」
俺は横にあった切り株を見ると、それは紐によって見事に切断されていた。
やっべぇ、脚斬られるところじゃねえか。マジなやつじゃねえかよ。
爆裂弾が終ってやっと近接戦闘ができると思ったのに今度はこれかよ。
これはマジで命がけになりそうだな。
俺はルミアに注意を促す。
「ルミア、ちょっと動きが激しくなるからしっかり掴まってろよ」
するとルミアは俺の後頭部にしっかりと抱き着く。
「任せろなのじゃ。ルミアのおっぱいの感触、特と味わうがよいのじゃ」
いや、肋骨が当たる感触しかしねえし。それにそのセリフ10年早えから。
その頃、ベイルズの街へとたどり着いたリリーとジェシカは冒険者ギルドにはジェシカが、駐屯兵の詰所へはリリーが駆け込んだ。
こうして大急ぎで討伐隊というより、迎え撃つための迎撃隊が組まれるのであった。




