3話 ヒーロー森へ行く
裏門の方から街を出た。
何故かというと、裏門から出た近くの森っていうのがよく初心者が行く場所だと聞いたからだ。正義の味方としてはまずは弱者である初心者を悪の手から守ろうと思う。決して俺が初心者の冒険者だからではない。断じてない。
裏門をでると畑が広がっている、それを抜けて歩くこと30分。その名も『初心者の森』に到着。
森の回りでは薬草採取らしい女性が目につくな。森の奥へは入らないでもできる薬草採取は、子供や女性の冒険者の人気の仕事みたいだ。薬草以外にも食用の植物やキノコ類も採取できるみたいだ。
とりあえず森の中へ入ってみようか。
森に入るとすぐに人目を避けて、バックに入れてきたヒーロースーツに着替える。
森の中で赤色のスーツは非常に目立つので黒色に変更する。あまり高いスーツではないんで色は赤と黒の2色だけしか変更できません。
でも戦闘モードになると赤色に戻っちゃうんですよね。ヒーロー組合の取り決めで悪者とヒーローの区別をつけるために、戦闘中は組合が決めた色しか認められていない。ちょっと不便だがしょうがない。その中で選んだ色が赤。やはり主役は赤でしょって単純に決めましたよ。
今は戦闘中ではないんで黒スーツ状態で森の中を移動。
それでも全身黒色の姿、それはそれで目立つ気がする。
結構な数の冒険者がいるらしく、何組かのグループとすれ違うのだが、そのたびに奇異な目で見られるね。
なんか恥ずかしい気持ちになるね。前の世界の時とはまるっきり違う。
この世界に正義の味方はいないのか。
そして本日初めての悪者を発見しました。
凶悪そうな赤い目ををしていて、まわりに殺気を振りまいている。俺と目が合うと猛突進してきた。
すぐに戦闘モードに移行。
腰から刀を抜きゲージを確認すると、エネルギーは満タン。キックのゲージを確認すると、こちらも満タン。
「よし、正義の刃を思い知れ!」
突進してくる魔物をひらりと横に避ける。
すると魔物は後ろの太い木に激突して、その鋭い牙で木をへし折ってしまった。
そいつをよく見ると猪に似ている。
でも俺の知っている猪とはパワーが桁違い。この牙で突撃されたらスーツ着てても大ダメージじゃねえか。
そう思ったら先に攻撃を当てるしかないと思い、猪が助走をつける前にこちらから接近する。
やばい、奴が走り出したか。いけるか!
俺は走りながら刀を大きく上段に振りかぶる。
しかしその時、足元の木の根っこにつまずいてしまう。
思わず「うわっ」を声を上げて前のめりに倒れ込む。
ちょうどその時に猪が目の前に……
うつ伏せに倒れ込んだ俺の背中の上を猪が走り抜けていく。
ちょっと肩を踏まれた……痛い。
恰好悪っ、と思いながらも慌てて飛び起きて猪へと振り向く。
そこで俺の目に入ったのは腹から血を流している猪だった。
どうやら俺の上を走り抜けるときに刀の刃に触れていたようだな。これはラッキー。ヘッドスライディングアタックと名付けよう。
刀のパーワースイッチいれときゃ今ので勝負ついたんだが残念。
この刀、スイッチいれなけりゃちょっと切れる刀でしかないからね。
でも猪は瀕死だしな。
お、そんだけ瀕死のくせにまだ突撃しようってか。
猪はヨロヨロのくせに、まだ突撃をしようと鼻を下に向け牙を見せる。
そこへ俺はジャンプ一番、キックを放つ。
キックパワー50%の力でのキック。
誰も見てないからキック名は叫ばないよ。
刀傷を負った猪はもはや避ける気力はなく、顔面に俺のキックが直撃した。
1発で昇天です。
キックパワー50%もいらなかったかもと思いながらも猪に近づいたその時。
「ちょっとあなた」
「ふへっ!?」
突然の声に変な声を上げてしまいましたよ。
慌てて見回すと、女の子が岩の影から顔を覗かせている。
よかった、猪じゃなくて。
俺は視線が合ったまま声が出せない。見られた? でも初めからスーツ着てたし。 などと思考をぐるぐると巡らしていると、女の子が岩影から姿を現しました。
18歳くらいですかね。
茶色の髪で冒険者っぽい恰好をしているのだが、持っているのは薬草らしく草がたくさん詰まったバスケットだ。
なんか変わった革の帽子をかぶっている。
耳が付いた帽子。
アミューズメントパークによくあるキャラクター帽子。
「助かったわ、ありがとうね」
「え、助け……ああ、どういたしまして――悪はこの世に栄えない!」
言ってやりましたよ、決め台詞を!
「悪? あ、ビックボアの魔物ね」
ビックボアっていうんだね、この悪者。
「この魔物、どの部位が素材になるか分るかな?」
「そんなことも知らないんだ。ギルドに牙を持っていけばお金になるし、買取所へ行けば肉や毛皮も換金できるわ」
「ふ~ん、そうなんだ。情報ありがと」
「自己紹介がまだだったわね。私リリー、Eランク冒険者よ」
「そうか。俺はカイ――赤色仮面、正義の味方をしている」
「は? 冒険者じゃないの?」
「いや、その……冒険者というか、仮の姿としては、レッド。Fランクです」
思わずレッドって名のっちまいました。
「仮の姿? ま、それはいいとして、こんなところにビックボアって出没しないから私も油断したのよ。お礼はちゃんと言っておくわね、あなたは良くやったわよ」
なんか上から目線だな。せっかくかわいいのにもったいない。
「いや、たまたま通りかかっただけだから」
「でもFランクのくせにビックボア倒すなんて優秀すぎよね。冒険者の前は何をやってたのかしら?」
「ん? 見ての通り正義の味方だよ」
「正義の味方って職業は聞いたことないわね。それにその鎧、初めて見るわね」
そうか、この世界では正義の味方はいないみたいだな。
「せ、正義の味方っていう傭兵グループにいたんだよ。この鎧もその時のだよ。き、君こそ変わった帽子だし」
「変わった帽子? この革製兜?」
リリーが不思議そうに帽子を脱ぐと、帽子についていた獣耳が頭に残ったままになっている。
へ?
獣耳が付いた帽子じゃない?
キャラクター帽子じゃないのか。
ネスミーランドの帽子とかとちゃうんか?
「もしかして獣人ってやつか……」
「あら、この耳ね。私は獣人よ。あなたの生まれた地域は知らないけど、この辺じゃ獣人は普通よ」
よくよく見ると背後の尻尾がピョコピョコと見え隠れしている。
キター、モフモフは正義!
「そうなんだ、ごめん。俺の育った地域には獣人はいなかったんでね、別に差別をしてるわけじゃないから」
いや、差別というより崇拝してますから。
大事な事なんでもう一度言っておきますね、モフモフは正義。
「ふん、別にそれはいいわよ。慣れてるしね。そろそろ私は戻るわね」
「そう、気を付けて」
「冒険者ギルドで合ったら声かけて、先輩が色々教えてあげるわ」
なんだったんですかね、あのリリーとかいう少女。独特の性格っていうか強烈なキャラといいますか。
ま、とりあえずこのビックボアとかいう魔物を持って帰ってお金にしないと。
「よいしょっ!」
スーツのまま肩にビックボアを担ぎ上げたら、スーツが戦闘モードになってしまった。
ということは相当重いんだなこれ。
街に近づいてスーツ脱いだ後どうしよう。
「ん、あれ?」
横たわっていたビックボアの下に札を発見。
拾い上げて確認すると、それはリリーの冒険者証でした。
読んで頂きありがとうございました。
4話もたぶん本日中には投稿できそうです。
よろしくお願いします。