27話 ヒーローが遂に活躍
大変お待たせしました!
周りを見ると一緒に来た冒険者達は、半数以上が怪我をしているか倒されてしまっている。
怪我人を中心に集めて円陣を組んで戦っているが、防戦一方で押されまくっている。
力量の差がハッキリしているのが見てわかる。
許せないのが女冒険者に対しての戦闘員の行動だ。
1人の女性冒険者に対して複数の戦闘員が当たっており、隙を見つけては体を障りまくっている。
なんて羨ま――ひどい奴らなんだ!
だが、俺はそんなこと言ってる場合でもない事は知っている。
カラス怪人のくちばし攻撃喰らってしまったからだ。
まずは目の前の敵を倒さない事には。人の心配よりも自分の心配をしなくてはいけない。
「カーカッカッカッカ! どうした赤色仮面。手も足もでないカー?」
「調子に乗りやがって!」
半分やけくそ状態で全力疾走する。
「おおおわわわわ!」
油断したのかカラス怪人が海老ぞり状態でのけぞった。
これはチャンス!
「赤色パーンチ!」
別に声に出さなくてもいいのだが、一応声に出してみた。その決め台詞がこれだった。
我ながら失敗したと思う。
ちょっと恥ずかしい。
赤色パンチって!
俺のやけくそパンチが奴の腹にめり込む。
おおおっし!
当たったぜ。
「ふぎょっ!」
防御は考えてない、攻撃だけに特化したパンチだ。
威力は十分すぎるはず。
それが直撃したのだ。
ダメージが無いはずがない。
カラス怪人は両手を前に伸ばしてくの字の恰好ではるか後方の大木に向かって飛んで行き、物凄い衝撃音を発して背中から大木に激突すると「カー」と一言発したきり動かなくなった。
その衝撃音に驚いた皆が倒れて動かないカラス怪人を一斉に見る。そしてその後、そのカラス怪人をそんなにしてしまった張本人である俺を一斉に見る。
そして一瞬戦闘が止まった。
羽交い絞めにされた女性冒険者の胸を触ろうと、両手を鷲の手の様にする戦闘員の動きも止まる。
「お、女の子に手を出す奴はこうだ。さて、次はどいつかな」
何か言わないといけないと思い、急遽ひねり出したセリフがこれだ。はっきりいって何も言わない方が良かった。
どうにもこういった時のセリフは苦手だ。
しかし俺のセリフはある程度の効果はあったらしい。
女性冒険者を襲っていた2人の戦闘員は慌てて離れる。
その時、離れたところにいた毒蜘蛛男の目と合った。
毒蜘蛛男は神官服を着たCランクの女の子を、茂みの中へと強引に引きずって行く最中であった。
毒蜘蛛男はCランクの女の子から手を離すと、名残惜しそうに何度も震えるCランクの女の子を振り返りながらも俺の方に歩み寄って来る。
歩きながら毒蜘蛛男が俺に怒鳴った。
「赤色変態仮面! 俺の邪魔すんじゃねえ!」
「何言ってやがる! どう見ても変態はお前の方だろ?」
「頭きた! クモクモクモ~」
突如走り出した毒蜘蛛男の指先から蜘蛛の糸らしきものが伸び、どこへ伸びるのかと思うとそれは俺の足が狙いのようだ。
抜刀すれば足に糸が絡みつく前に切断できる。でもそれをやると奴が接近した時に攻撃としての刀が使えなくなる。
しかし他に手はない。
糸が足に絡みつく事を覚悟で奴を切りに行くか、防御優先で糸を切断して守りを固めるか。
俺は抜刀して伸びて来た糸を切断する。
毒蜘蛛男は舌打ちすると身を屈めて俺の懐に入る。
「やばい、接近された」と思った時には、俺の1mもない距離のところに毒蜘蛛男が身を屈めてニヤリと笑った。
そしてピョンッと跳躍したかと思うと、俺の喉元に咬み付こうと毒蜘蛛男の毒牙が迫る。
「ぐおおっ、させるか~~~!」
俺は気合いの声と共に左手で刀の鞘を奴の毒牙と俺の喉の間に差し入れた。
それはまさに間一髪だった。
コンマ1秒遅れていても鞘をねじ込めることは出来ずに、俺は奴の毒牙で喉を咬まれていただろう。
鞘をかじる「ガキン」という音が聞こえ、慌てて毒蜘蛛男は口を押えて後方に離れた。
「痛たたた、牙が欠けるじゃねえか!」
俺は刀を鞘に納めると、口を押えながら文句を垂れる毒蜘蛛男に身を低くして接近する。
そして今度は俺が奴の懐に潜り込む。
毒蜘蛛男は自分の折れかけた牙に気を取られて俺の接近に反応が遅れた。
奴が気が付いた時には「あ、てっめえ!」と一言文句を言うのが精一杯だったみたいで、不意打ちに近い攻撃を出せるチャンスを得た。
もらった!
俺は腰の刀の柄に右手を添える。
奴は回避は出来ないと悟って、刀に添えた俺の右手を両手で抑え込んできた。俺に刀を抜刀させない作戦に出たみたいだ。
こいつ以外に考えてるじゃねえか!
刀を抜けなくなった俺は、この時点で一番自由に動かせる自分の体の一部を思いつき、俺は自分の頭を思いっきり振った。つまり頭突き攻撃を毒蜘蛛男に喰らわせた。
さすがにその攻撃は予想外だったようで、俺の頭が奴の顎にクリーンヒット。
「がふっ、があぁぁぁっ! 牙が、牙がぁぁぁああああ」
「頭、痛ってぇぇぇ~」
クリーヒットした次の瞬間、毒蜘蛛男は顎と牙を抑えて、俺は頭を両手で押さえて2人でその場にしゃがみ込んだ。
俺は余りの痛さに両手で頭の頭頂部を撫でるのだが、その時わずか数十センチの目の前にしゃがむ毒蜘蛛男と目が合う。
ハッと我に返りその場から大きく後方へ飛びのき、毒蜘蛛男との距離をとる。奴も同じ考えのようで顎を抑えたまま慌てて後方へと移動する。
後方へ移動するな否や奴が俺に向かって怒鳴り散らしてきた。
「この石頭野郎がっ! 牙が折れたじゃねえか! どうしてくれんだよっ」
こいつは馬鹿か?
命を失うかもしれない戦いなのに何を言ってやがるんでしょうか。
「牙が折れたっていう情報アザッす! これで毒牙に気を付けなくて済むよ」
「あああ、しまった!」
やっぱり馬鹿だった。
毒蜘蛛男が突如かすれた口笛を吹く。
すると戦闘員とゴブリンどもが急に戦闘を止めて毒蜘蛛男のまわりに集まりだした。
これはもしかしてヤバイ展開じゃねえか。
一斉に攻撃されたら確実にやられる。
しかし奴らは攻めてこなかった。
退却したからだ。
助かった。
俺はホッとして近くの岩にゆっくりと腰を下ろした。
そして改めて周りを見回すと、まだ動ける冒険者達が傷ついた冒険者を介抱している。
そういえば倒したカラス怪人や戦闘員の姿もなくなっている。どうやらホネホネ団が運んでいったみたいだ。
残念、スーツのバッテリーだけでも回収したかったよ。
女性冒険者の被害はほとんどが精神的なものが多いみたいだけど、反対に男性冒険者のほとんどが重軽症を負っている。死者も2人出してしまったようだ。
このレベルの冒険者でホネホネ団を攻略しようとしたのが間違いだ。恐らく次はもっと高ランク冒険者での討伐となるだろうと思う。
壊滅的な被害を被ったと考えるのか、この程度の被害で済んだと考えるのか。冒険者ギルドが判断して対策を練る事だろう。
結局、現状では追撃は不可能ということで馬車まで戻って、街へと帰還することになった。当然の判断だと思う。
こうしてボロボロになった討伐隊は、暗い雰囲気で馬車を街へと走らせるのだった。
討伐隊の戦果といえば盗賊のアジトから敵を追い払った事くらいで、その代償は討伐隊の壊滅的打撃だった。
アジトに残っていたのは攫われていた人達の死体だけだ。
その戦果に見合うものでは決してない。
帰り道、まるで戦争に負けた敗残兵の様にほとんど会話することもなく、馬車でガタゴトと街道を行くのだった。
街へ到着すると無残な我々の姿を見た市民が驚きの表情で馬車のまわりを囲みだした。
そりゃあそうだろう。盗賊の討伐に向かった冒険者達が見るも無残な姿で帰還したのだ。誰もが盗賊が強力な一団ではないかと心配したことだろう。
取り囲んだ街の人達は怪我人を心配しながらも、口々に盗賊はどうなったかを聞いてくる。
「蹴散らした」とか「追い払った」とか返答はするのだが、このありさまじゃあ信用してもらえてない感じだ。
冒険者ギルドに到着すると、あのCランクの神官の恰好した女性が一早く報告の為にギルド内へと入って行った。
俺も怪我人を馬車から降ろしてギルド内の医務室へと運ぶ手伝いをした。
あらかた運び終わると1人でまだ歩ける冒険者は、カウンターで報奨金を受け取り次々と帰って行く。
俺も同じように報奨金を受け取ってさあ、帰ろうという時に待ったが掛かるのだった。
その待ったを掛けたのはカウンターの奥にある別室の扉の前に立つ、1人の初老の男性とCランクの神官姿の女性冒険者だった。




