1話 ヒーロー草原に立つ
「ふはははは、行き止まりだな。観念しろ、毒蜘蛛男!――うわっ、なんだ、お前らは!」
追い詰めたはずが逆に怪人達にまわりを囲まれていた。
「観念するのは貴様の方だったようだな」
「あ、て、てめえ。卑怯だぞ」
「何をいってる。卑怯だから悪者やってんだぞ」
「まて、話会えば分る、な、まて、やめろぉぉお~~~~~」
ゴゴゴゴゴゴゴ……
「地震?」
怪人にボッコボコにされる夢を見たらしい。殺される寸前で飛び起きた。
「はぁ、はぁ、危なかった。死ぬところだったぜ――んん?」
様子がなんか変だぞ。
辺りを見回すとそこは草原だった。
「え? なんで俺草原に寝てたんだ」
全く分からない。軽くパニックに陥る。
とりあえず立ち上がるのだが、体のあちこちに激痛が走る。
「あ、思い出した!」
そういえば怪人達の待ち伏せをくって商店街の隅っこでボコられたんだっけ。
それがなんでこんなところにいるんだ。
俺はヒーローだ。
本名『世和井 甲斐人』
30歳
ヒーロー組合所属
ヒーローID E‐401‐1160
名称 『赤色仮面』
ヒーロー名称を登録するときレッドマスクって恰好良く登録するつもりだったんだけどね、すでに登録済みってPCに表示されてしまって。色々やったんだけど全部登録済みなわけで、ほとんどやけくそで登録しちまいました。
今は後悔している。
赤色仮面を名乗って8年の中堅ヒーローです。
そうです、TVに出てくるような正義の味方のヒーロー。
まあ、実際のヒーローってのはあんなに強くて恰好よくないんだけどね。
いや、強くて恰好いいヒーローもいるよ。でもそれはねヒーローのなかでも頂点の一握りだけなんだよね。
大多数は俺みたいなヒーローの底辺でそこまで強くない。弱い怪人なら1人でも倒せるが、大抵は他のヒーローと連携して倒す。
俺はそこまで強いヒーローではないんだ。
そりゃ怪人に待ち伏せされればボコられるわな。油断したよ。
でもなんでこんな草原にいるのかがわからん。
とりあえず人のいるとこと行って怪我の治療と怪人待ち伏せの報告しなくちゃな。
歩き出して気が付くのだが、自分がヒーローの恰好のままだった。
さすがにこの格好は目立つので、人目がない事を一応確認したうえでヒーロースーツを脱ぎかけるのだが、脱いだスーツをしまうバックがない。それに着替えがない。
通常は専用のケースがあるのだが、戦闘に向かう時は邪魔なので持っていかない。着替えもそのケースの中だ。
着替えがないってのはまずいぞ。
あ、ということは財布もスマホもないってことだ。タクシーも拾えないな。
若干絶望を感じながらも歩き出す。
今持っているのは武器である特殊鋼製の刀とヒーロー登録証だ。
しばらく歩くと丘を越えたところで見慣れない恰好をした人達が、緑色をしたスーツの戦闘員5人に襲われているのが見えた。
相手が戦闘員といえども俺みたいな底辺ヒーローにとって5人はきついのだが、襲われているのが若い女性が2人となれば放っては置けない。
女性2人は勇敢にも手に持ったナイフを必死に振り回している。
ここは少し気合入れて恰好よく参上しましょうか。
俺は草むらの中を姿勢を低くして大きく迂回する。緑の戦闘員のちょうど真横から登場しようと考えたからだ。
気づかれずに奴らの横からさっそうと躍り出ていきましたよ。
「そこまでだ! か弱き女性を襲うとは俺がゆるさん!」
し~ん
そこは『誰だお前は!』っていうところだろ。
さては奴ら新人だな。
「お、俺の名は――」
名乗ろうとしたところで戦闘員の1人が棒切れで殴りかかってきやがった。
「――って、まだ俺名乗ってねえから!」
っていうかお前らのスーツすげ~作り良いし。戦闘員のくせになんでそんな凝った戦闘服着てんだよ。
嫉妬心も込めてまずは1人目の緑色戦闘員を回し蹴りで吹っ飛ばす。
続いて剣で切り込んできた2人目の戦闘員を投げ飛ばして、頭から地面に叩きつけてやる。
あれ、なんか弱っちいぞ。
こんな作り込んだスーツ着てやがるのにもったいない。
やっぱり新人戦闘員なんだな。
倒したらスーツもらっていこう。
3人目の戦闘員は石を投げてきた。
しかしそれもひょろひょろ弾だ。
軽く横に避けて、先に近くにいる4人目の戦闘員の顎に蹴りを叩き込む。
すると石を投げていた戦闘員が逃走を始めやがった。
そうはさせるかと腰に差した刀を投げつけてやる。
刀は見事そいつの足に刺さる……はずだったが鞘のまま投げちまった。しかも狙った箇所とは別の後頭部に命中して、戦闘員は前のめりに倒れて動かなくなった。結果オーライだな。
最後の1人、そいつは盾と剣を持っているうえに革の胴鎧も着ていて、少しは強そうだ。
「ちょっとは強そうだな、来い!」
「ぎぎゃ~」
剣を引き抜こうと腰に手を回すが、そういえばさっき投げてしまったな。
しょうがねえか。
「赤色キ~ックっ」
俺の決め技のうちのひとつであるキックをお見舞いする。
まあ、飛び蹴りなんだが充填式なんで使用制限のあるキック。別に名前を叫びながらでなくても使えるんだけどね。
ヒーローは自分の名前を売る為にわざわざ名前を叫びながら技を出すんだよね。
それと女の子の前だしね、一応。
充填率30%しかなかったけどキックは確実に戦闘員に顔面を捉えて吹っ飛ばしましたよ。
そして俺は決めポーズを取ると、くるっと振り返ってテンプレのセリフだ。
「お嬢さん、お怪我はありま――ってどこいったの!」
お嬢さんの2人は遥か彼方を走っているのが見えますね。
お礼くらい言ってもバチは当たらないと思うけど。
しょうがない。俺、全然有名でないしね。このヒーロースーツだって安物であんまり恰好良くないしね。
背だって俺ちっさいしね。
ん? ちっさい……そういえばこいつ等の背って120㎝くらいじゃね。
倒れた5人とも背がちっさい。しかもなんか見たことあるような気もするな。
身長120㎝と小さくて緑色の肌で醜悪な顔。
ゲームに出てくるゴブリンそのまんまじゃねえの。
すげえ凝ってるスーツだなと思いながらチャックを探す。
チャックがない!
マスク被ってないじゃんこいつら!
こいつら本物のゴブリンじゃねえの!
ここでやっと自分がどういう状況下にいるのか理解してきましたよ。
これってもしかして転移ってやつですか。
せめてスマホ返して!
読んで頂きありがとうございました。
以前書いた小説でお蔵入りしていたものを掘り起こしました。
テンプレです。
エタりそうな気もしますがちょっと努力してみます。
よろしくお願いします。