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勇者クジャンの恋物語 3日目

夜目が効くようになったからと言って光が必要無いわけでは無い。クジャンは「炎よ」と、つぶやき、ロウソクに火を灯す。つぶやくだけで炎が発生する。それも勇者の恩恵とクジャンは理解していた。

クジャンは日記をつけていた。昨日、あれだけたくさん会えたリズに今日は出会えなかった事を。

「おかしいよな。昨日はあれだけよく会えたのに」と、クジャンは天井を見上げる。

別に何か思い浮かぶわけでも無い。

もう一杯コーヒーでも飲もううか。

そう思って、立ち上がった時、オオカミの鳴き声が聞こえてくる。それも1匹じゃない。5匹、いや10匹だろうか。

「いくら何でもこれは・・・」と、クジャンは外へ出る。最初にいつもならまだ明かりをつけている果物屋へ足を運んだ。2、3匹の狼がクジャンの横を通りすぎていく。

果物屋の中に入ると喉を噛みちぎられた店主と、その奥さん、子どもたちの姿があった。

「ひでぇ」誰だ?こんな事しでかした奴は・・・。

リズは何て言っていた?魔王が2人いるから起こる現象・・・。魔王が2人?その魔王がとうとう動き出したとでも言うのか。

次の家へ行く。また狼がクジャンの横を通りすぎる。口は赤く染まっていた。

クジャンは追いかけた。狼たちを。どういうわけかクジャンの速度に合わせて狼は走ってくれている。

クジャンは見失う事無く狼を追った。

狼たちが1つの場所へ集まっている。それは否応なしにわかった。

リズに紹介した旅路たびじに狼たちは集まっている。

リズが襲われている。クジャンはスピード上げて走った。

リズの部屋に行く途中、店主の死体を見つけた。「リズ!生きていてくれー」と、クジャンは叫ぶ。

<住民の不安と魂が揃ったので魔王リリスとの上位契約が成立しました。リリスは鼻を求めています。リリスの魔力を使用すると鼻が消えます。よろしいですか?我が君><クジャンも使用すると鼻が消えるの?><いいえ、魔王の書を持たぬ者には使用する権利そのものが存在しません。奴らはわれら魔王の魔力を持って戦えるだけです。かつ不死の呪いを受けているのです><そう>


理解できない会話だった。いや、理解したくなかった。オレっちは魔王?それに話しているのはリズと誰か。リズの部屋のドアは壊れていた。

不思議とリズが襲われているとはもう思えなかった。

リズの部屋へ足を踏み入れる。

少女の元へ狼たちは集まっている。少女リズは両腕を無くしていた。

「魂が集まったわ・・・私の両腕よ」と、リズの両腕が生える。

「リズ・・・・・・なのか」と、クジャンは言う。

「来てしまったのね、クジャン・・・いいえ。私が呼んだのよ」と、リズは言う。

「オレっちはクジャン・ドルアード。君は誰?」

「リスティア・ウィズ・クライン。新しい魔王よ、クジャン・ドルアード。」

「嘘だ!」と、クジャンは叫ぶ。

目を見開き、身体はガタガタと震えている。

「私はあなたになりたかったわ。勇者と呼ばれて楽しく暮らせているあなたに」と、リズは笑う。

リズの背中の肩甲骨は変形して、4枚の黒い翼に。そして否応なしに伝わる絶大な魔力。

「冗談だろ?」クジャンは震えがまだ止まらない。クジャンは理解できた自分よりもはるか上の存在だと。

「クジャン・・・よく聞いて。母だけが私をリズと呼んだの。父と兄はリースと呼んでくれた。親しみをこめてあなたにもリースと呼ばせてあげる」と、リズは言う。

「リース・・・オレっちになりたい?どうして?」

「会話が通じたわね。この宿だってそう。クジャンの紹介で来たと言えば宿屋の家族はとてもよくしてくれたわ。勇者様の連れならって」と、リズは笑う。

「分からない。関係あるの?」と、クジャンはリズを見つめる。

「あるわ。あなたは人間との絆を持っている。私は持っていない・・・私は、私は兄さんとの絆を取り戻したいの。だからあなたを食べさせて」と、リズはクジャンに1歩近づく。

「リース、いや、リズ。よくわからない」と、クジャンは頭を左右に振って後ろへ下がる。

「私の嫉妬はあなたを食べると完成するのよ、クジャン!これで全部の魔王が揃うのよ。あなたのおかげで!愛しているわ」と、リズはクジャンに2歩近づく。

「宿屋の人もステアの人々を君は狼に食べさせてしまったんだね」と、クジャンはさらに後ろへ下がる。

「ええ。私は魔王だもの。勇者とは違うの」と、リズは3歩近づく。

「うん。さよなら」と、クジャンは背を向けて走り出した。旅路たびじの階段を降りていく。階段の途中にある窓ガラスを突き破る。オレっちは勇者だから君と戦うよ・・・とは言えなかった。

無様に転がって地面で起き上がる。自分を導いてくれていた?狼たちが今度は襲いかかってくる。それも不規則に動いてくる。右腕を食べられた。まだだ。まだ逃げれる。丘の上に行けば。ゴーレムを狩ってきたあの丘まで逃げる事が出来れば。

坂を駆け上がっていく。希望を持って。大丈夫だ。逃げられる。

狼たちは追いついてこない。

いや、追いつく必要が無い。クジャンの進んでいる方向には1000体のゴーレムがいるのだから。

坂を上ったところでクジャンは目を疑った。数え切れないゴーレムがいる。それも道を塞いでいる。

「あ・・・」何かが折れた。

クジャンの中で何かが。

狼が後ろから迫っている。右腕からは血が流れている。不死の呪い?そうだ・・・どうして腕は回復しないんだ。

<魔王の書のあるじは元々魔王よりも上位。それが答え>

後ろにリズが来ていた。

クジャンはリズを見つめる。

「キス・・・してくれてありがとう。嘘でも嬉しかったよ。いや、これがリズの愛し方なのかな。あはは・・・だとしたら過激すぎるよ・・・リズ、オレっち、死ぬんだね」

「ええ」と、リズは短く答える。

「血の涙・・・初めて見た。君は不器用だね、リズ。最後の最後になるから信じてもらえないかもしれないけど、オレっちも愛している」と、クジャンは目をつぶった。

「・・・食べて、フェンリル」


それだけ言うとリズは口を押さえて、クジャンに背を向けた。フェンリルがクジャンを食べて行く。

その後にはもう、何も残らない。

メフィストフェレスの声がする。リズは聞き流していた。

「クジャン、これほどまでに罪深い私でも救ってもらえるかしら」そうつぶやいて天を仰ぎ見る。

リズは目をつぶり、目と鼻の無い執事、メフィストフェレスと向き合う。

<我が君、リヴァイアサンは耳を求めています。それでよろしいでしょうか>

<いいわ>

<上位契約は全て成立しました。黒き扉が開きます>


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