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勇者クジャンの恋物語 1日目

このお話を含み、あと4話で完結します

分からない事が起きた。

父が死んだ。

謎の言葉を残して。

「これで不死の呪いから解放される」と、父はオレっちの額に触りながら死んで行った。いや、消えて行った。父の遺体はどこを探しても見つからなかった。

母は病気で亡くなったと、ずっと前に聞かされている。

よく分からない。

分からない事は嫌いだ。


でも父が死んだ、消えた次の日からオレっちは喧嘩が強くなった。

いや、魔物に勝てるようになった。これまでなら魔物を見ただけで逃げていた。

それが魔物を見て、自分よりも強いか、弱いか判断できるようになった。

気づくとヴァールハイトという島の中ではオレっちに勝てる魔物はいなかった。

いつしかオレっちはヴァールハイトの勇者クジャンと呼ばれるようになった。

クジャン・ドルアード。それがオレっちの名前だ。

オレっちはがんばった。そう、がんばったからご褒美がもらえた。

町から北に少し行った岩場で、肩まである黒髪の少女がゴーレムに襲われている。黒髪の少女は目が赤い。そこが少し怖かったが、容姿はかわいく、オレっちの好みだった。

さあ、勇者クジャンのお出ましだ。今、助けるぞ。


ホントはおそわれていない。土から生み出された人形はリスティア・ウィズ・クラインが召喚したのだから。

フリをしている。おそわれているフリを。


クジャンはロングソードを上段に構えてからジャンプして振り下ろす。

<あなたの耐性を下げるわ。一度壊れて>と、リスティア・ウィズ・クラインこと、リズは魔導思念を送る。<おおせのままに>と、ゴーレムは答える。

「お、おおおおおおおおおおおおお」と、クジャンは調子に乗る。

あれ、思ったよりも弱いぞ。楽勝だな。


ゴーレムを一撃で壊したと勘違いさせられたクジャンはゴーレムの死を確認せずに黒髪の少女に話しかける。「オレっち、クジャン!勇者をやっているんだ」

黒髪の少女はにっこり微笑み「そう。探していたの・・・母さんの足跡を」

「え?母さん?」

「ううん。いずれ話すわ」と、黒髪の少女はクジャンから目を離して遠くを見る。

「そ、そうなんだ。あの初対面だよね」と、クジャンは聞く。

「ええ、そうね。私はリズ。そう呼んでくれると嬉しいわ」と、黒髪の少女、リズは答える。

「リズ。短い名だね・・・はは、新しい魔王と親戚だったりしないよね」と、クジャンは聞いた。

「新しい魔王?」

「そう、リスティア・ウィズ・クラインって言うらしいよ。何でもベルナトスの住民を全滅させたとか」

「そう」(私は魔王として世界に認識されてしまったのね)

「ごめん。冗談だよ」

「いいえ、いいのよ。よく言われるから」

「そうなのか。ところで町に行くなら案内するよ。町の名はステア。いい町なんだ」と、クジャンは言う。

「お願い」と、リズは頼む。

<そのままでいて>と、ゴーレムに命令を出してリズは何喰わぬ顔で町へ続く道へ入って行った。

クジャンが言ったように町の名はステア。以前、母、ヴァルスが訪れた土地だ。母はここで自分が死んだ時の保険に・・・魂分けをしていたのではとリズは推測していた。だが、出会って見ると違った。

母が訪れた事で、禁断の書である魔導の書の影響を受けて上位契約に成功した男性がいたと仮定する。おそらく不死の呪いの解き方も伝えたのだろう。上位契約を他者に譲るというやり方を。

メフィストフェレスが調べてくれたところによるとクジャンは不安を司るリリスと上位契約を結んでいる。

リリスはこのヴァールハイトの魔王だ。つまり、この島の魔物は魔力供給停止を命じるだけでクジャンは勝てるという事を知らずに戦って来た。どこにでもある武器を用いて。

まあそれもいい。おそらく魔王の書を持つ私が訪れた事でリリスとの上位契約を結ぶ条件が発生する。

男性は・・・成功したのではなく・・・母に押し付けられた?何が起きるのだろう?

「どうしたの?考え事?」と、クジャンは聞いてくる。

「え。ええ、それよりクジャン。この町に私と同じ髪の女性が来た日の事を覚えていないかしら?」と、リズは聞く。

「・・・えっと。分かんないよ。来たの?リズと同じ髪の人が?」

「私の母さんがね・・・そう。知らないならいいわ。じゃあ、何か異変があった事は無かったかしら」

「異変・・・ああ。あったよ。あれは父さんが青ざめた顔をして帰って来た日だった。それでその日、朝が終わったんだ」と、クジャンは言う。

「朝が終わった?」と、リズは聞き返す。

「ああ、うん。朝が来たら夜は終わるだろ?でも、その時は違っていたんだ。3日ぐらいだったかな。ずっと夜が続いたんだよ。朝が来なかったのさ」と、クジャンは言う。

「・・・宵闇のカーテン・・・そう。そんな事が。それでお父様が青ざめた顔をして帰って来たのね」と、リズは聞き返す。

「うん。まあ、そうかな。ほらほら、そんな話よりステアに着いたよ。まずは宿屋に案内するね」と、クジャンは右方向を指さして言う。右側に宿屋の看板が見えていた。

「宿を紹介してくれるの。ありがとう」と、リズは言う。

やっぱり、押し付けられていた。宵闇のカーテンで集まった負の感情と魔力をクジャンのお父様は押し付けられた。その結果、上位契約を結ぶはめになった。

「え?あの宿じゃ嫌なの?リズ」

「そ・・・そんな事は無いわ。急にどうしたの?」「だって嫌そうな顔をするから」

「ああ、そうなのね」顔に出ていたのかしら。母の事になるとつい。

「ほら、やっぱり嫌そうな顔をする」と、クジャンは言う。

「これは違うの。母の事を思ったり、考えたりするとこうなるのよ。私、母さんの事嫌いだったから。あなたにだってあるでしょ。」と、リズは言う。

「あるかな・・・。オレっちは母さんを知らない。それに父親だって知らないのと一緒だ。気づけば2人ともいなかったからさ。で、もう玄関だよ。ここに泊まるの?」と、クジャンは言う。

「泊まるわ」と、リズは初めて宿を見た。宿の名前は旅路たびじと書かれていた。

「クジャンは?」

「オレっちは自分の家に戻るよ」

「そう。また明日ね」と、リズはクジャンに手を振った。「ああ、うん。また明日」と、クジャンは坂を下りていく。下りながら、ちょっとオカシイ子だったけどかわいい子だったなと顔をにやけさせていた。右側に見えた果物屋でリンゴを買って家へ向かう。クジャンは空を見上げた。「何だか暗い・・・いや、黒いのかな。まるであの日と・・・いや。そんなはず無いよな。今日は祝福される日だもの」と、クジャンは頭を振って坂を下り続けて、左側に明かりをつけたままにしていた自宅に入って行った。



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