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私の家族

今回も6000文字以上あります。少しずつ読む事をおススメします。

身体が回復したベイルはいつもより速いペースで林の中を走っていく。

その頃、指揮官マーテスたちは前方から巨大な魔素の持ち主が接近している事だけを警戒している。

「来ます」そう下位契約者の1人が叫ぶ。

林から出て来たのは血だらけの衣服を着たベイルだった。誰もそれが切り刻まれた跡だとは思っていないだろう。怪我をした元仲間に見える者はいなかった。おびただしい魔素がそれを現している。

本来、魔素を感じる事など無いはずのマーテスでさえも近づいている魔素に恐れを感じている。

それは他の兵士も一緒だった。皆、一様に恐れ、足が後ろに下がっている。下位契約者に至っては逃げ出している。声を上げながら。

軍は崩れた。ベイルを前に背を見せて逃げて行く。マーテスは腰を抜かしていた。地面に座り込んで動く事ができない。股間はあたたかい液で濡れている。

「マーテス様、マーテス様・・・どうかお助けください」と、ベイルは言う。

「・・・近づくな。ちかづぐなぁあああああああああああああああ」と、マーテスは叫ぶ。

「マーテス様・・・」<せめて人肌に抱きついて死になさい>脳裏にリースの声が響く。

「はい」それは短いつぶやきだった。ベイルはマーテスに抱き着く。

「うがぁああああああああああああああ」と、マーテスは白目を剥いて失神した。ベイルは死んだ。

魔力供給を停止させられて、そのまま死んだ。

リースは静かに側に立つ。(左手をあげる)と、左手を食べさせてから「喰らって」と、フェンリルは2人の人間を食べた。失神していたマーテスもベイルも消えていった。リースは自分の右手の5本指を食べている。右手が蜘蛛に変化して元へ戻って行く。そんな手を眺めながらじっとしていた。

フェンリルをワンピースに戻してただ時を感じるようにたたずむ。

何の音もしない静寂の時が流れる。それはリースにとってかもしれない。

叫ぶ声、逃げまどう声、馬車の駆け行く音。

リースは無人となった港町ベルナトスの門をくぐり抜けて町に入った。

露店が並ぶ街道だった。その露店はそのままあるものの、売り手も買い手もいない。

かつての賑やかさは消えている。

たまに人に出会っても港へ走っていく姿を見るだけだ。リースは噴水広場まで来て、腰を下ろした。

<リズ様、私の人形が近づいています。>

「そう」興味も無さげにリースは答える。

「リースちゃん?リースちゃんなの?」

「え?おばさん・・・」と、リースは声のした方を見た。

「リースちゃん、大変なの!娘が、娘が」

「おばさん、落ち着いて。ベレッカに何かあったのね」と、リースは聞く。

「娘が死にかけているのよ!」と、銀髪の髪を後ろでくくっている40代のおばさんは叫んだ。

「・・・ベレッカが・・・そう」と、リースは下を向く。

「リースちゃん、赤い扉開けてしまったのね。その赤い目・・・ねえ、リースちゃん。どうすれば娘は助かるのかしら」と、おばさんはリースの肩を静かにつかむ。

「おばさん・・・ベレッカを見せて。それとおばさんもメフィストフェレスの人形だったのね」

「そうよ・・・私の一族は随分前からそうやって生きて来ているのだから。それはベレッカも同じ」

「ベレッカも?」(メフィストフェレス・・・人形が死ぬのはどんな時?)

<肉体欠損によるか、魔力の消失です。前者なら私は魔力を提供する気はございません。後者なら私との魔力が合っていなかった。魔力調質の必要があります。それは私との上位契約者にしかできません>

「おばさん、ベレッカのところへ案内して」

「もちろんよ」

右手をつかまれてリースはおばさん、オーロラ・ボルテスについて行く。

ボルテス家に行くのは久しぶりだ。リースはそう思いながらも素直に懐かしいとは思えなかった。

トールハンマ。ボルテス家の表の顔、居酒屋としての看板が見えてくる。

「さあ、早く早く」と、オーロラおばさんは足を速める。

「うん」と、リースは少し嬉しかった。こんな自分を頼ってくれる人がいる事に。

ベレッカの部屋は2階だ。玄関をくぐり抜けて、奥にある階段を上がって、ベレッカの部屋のドアをオーロラおばさんが開けてくれた。リースは入る。

ベッドの上にはうなされているベレッカがいた。

「お母さん、苦しい。苦しいよ」と、ベレッカがつぶやいている。

「魔力が消えかかっている」と、リースはつぶやく。

「赤い扉を開いた・・・それでなお生き残っているという事は・・・上位契約者になれたんでしょ。リースちゃん、お願い。あなただけが頼りなの」

「・・・うん」(魔力調質、どうやるの?)

<まず私の魔力を吸い出すことです、リズ様。それからリズ様の魔力を与えてベレッカの魔力とリズ様の魔力を調整すればいいのです>と、脳に響く。

リースはベレッカの左側に座って、背中を持ち上げて首の右側に狙いを定めて、かんだ。

「ひゃ」と、ベレッカは声を上げる。

リースは息を吸うように血を吸い出す。ベレッカは徐々に意識を失っていく。リースにはメフィストフェレスの魔力が流れてくる。それを吸収した後にリースは自分の魔力を与える。するとリースの魔力に反発する小さな魔力があった。

(これがベレッカの魔力)

「今、助けるから」そう言って口を離す。右手をベレッカの心臓の部分においてリースは調整を始めた。

微弱な魔力が反発しないようにゆっくりと調整していく。

波長を合わせる。探りながらゆっくりとゆっくりと。繋がる。

いや、つながったと言うべきなのか。ベレッカの呼吸は深くゆったりしたモノへ変化していった。

「あ・・あああ」と、オーロラおばさんは口を手で抑える。

「魔力が戻っていく」と、リースもつぶやく。

<魔力調質が完了しました。リズ様、契約に基づいて私は目を。ルキフグスは心臓を。フェンリルにはどこを授けます?>

「フェンリルに左腕を・・はぐぅ、かはっ」リースは心臓を右手で押さえる。

<心臓は堪えるでしょう。くふふ、さらに上位契約を増やす。それがどれだけイカレタ事かお分かりですか、リズ様>

「黙りなさい。兄さんを生き返らせる・・・それが生きがいなのよ」

<では我が君・・・更なる上位契約を結ぶなら今逃げ惑うベルナトスの住民を1人残らず殺し、かつ、心臓を集める事をおススメします。それだけ集めるならサタンは喜んで上位契約を結んでくれるでしょう>

「わかったわ・・・私の目を今日という日が終わるまで再生される度に奪う事を許可します。メフィストフェレス・・・把握しているのでしょう。ベルナトスの住民たちを」と、リースは目をつぶったまま答えて右手をぎゅっと握りしめる。

<くふふふ。それでこそ、我が君です。申し付かりました>

「ちょっとリースちゃん?どうしたの?大丈夫?」

「おばさん・・・休ませて」

(人形は殺しの対象に入っていない・・・それでいいのかしら)

<はい、リズ様。人形は人形ですから>


リースたちから遠く離れた場所で避難を終えて船に乗り込んだコッホ・ペトロコライは客室で仲間であるビトロと一緒に腰を降ろした。

「いやぁ、コッホ。散々だったな・・・まあ、しかしあれだ。新しい魔王が現れたと言っても何か変わるわけじゃない。貿易先が1つ減った・・・それだけの話だ」と、ビトロは茶色の髭を触りながら話を始めた。

「その通りだ。それにわれわれは運がいい。真っ先に船に乗り込めて、これから出航するのだから」と、茶色の短く切り揃えた髪をかきむしりながらコッホも答える。

「ところでコッホ。ここべルドラがダメになったのなら次はどこへ行く?」

「そうだなぁ・・・大昔からいるナーガの魔族にでも会いに行ってみよう」

「大丈夫か?仮にも魔族だろ?」

「大丈夫さ。その魔族は金を見せれば何でもくれると有名だ。いい物々交換ができると思う」

「なるほどな。それなら行ってみてもいいかもな」

本当に怖いモノは静寂と共に訪れる。何の前ぶれも無く、まるでそこに初めからいたかのように。

ビトロは紅茶を2人分入れて港町が見えている事を確かめた。

「なあ、コッホ。おかしくないか?もう出発してもいいころだ。なのにいまだにベルナトスの町が見えている。これ何か起きているんじゃないのか?」

「そうだな・・・まあ、あせっても仕方ないさ。とりあえず紅茶が冷めないうちに飲もう」

「ああ、それもそうだな」2人は紅茶を飲んだ。

「ぶはっ」と、2人同時に吐き出す。

「何だこれは・・・」と、2人は紅茶を入れたティーカップを見る。

赤黒い血のような色をしている。そう、紅茶を入れたはずなのに。

「ひ。ひぃいいいいい」と、ビトロはティーカップを落とす。

コッホは何も言わず後ずさる。

「おい、扉を開けて出よう」と、ビトロは扉を開けた。黒い髪がビトロの首をしめる。

コッホは座り込んだ。尿を漏らしている。

ビトロの心臓が黒い手によって抜き取られる。

コッホは理解が追い付かない。音がしないのだ。ビトロはたしかに殺され、心臓を抜き取られ、首を折られて壁に投げ捨てられたのに。何も音がしないのだ。

白い冷たい霧がコッホのいる客室を足元から冷やしていく。

コッホは見た。物音も立てずに黒い手が自分の心臓を抜き取っていくのを。


時は遡り、ベルナトスの町中で金髪の男、サイ・ルバナは大声で叫んでいた。「さあ、急げ。この教会の地下なら安全だ。急ぐんだ!」手を大きく左右に振って次から次と人を集めて行く。

地下室では逃げて来た人々を修道女たちが椅子に座らせて紅茶とパンを一切れずつ渡していた。

サイ・ルバナは契約者では無い。この港町に流れ着いた旅人に過ぎない。もしも彼が魔王城へ足を踏み入れて下位契約者になっていたなら決して修道女たちに協力などしなかったに違いない。

ただそれでもサイ・ルバナの気持ちは高揚していた。自分は大勢の人間を救った英雄だと。慌ただしく逃げいていた人の姿が落ち着いて行く。サイの言う事を聞かずに船へ乗り込もうとする者もいた。サイはそんな人たちを見て(聖なる場所でなければ魔の手を退ける事などできぬと言うのに。)と、考えた。その考えは魔王と取引をして生活を成り立たせているこの世界では異質な考え方だった。サイは聖書が好きだった。悪を打ち倒す天使の軍勢。そういうストーリーが好きだった。べルドラの地には多くの聖書があると聞いて、港町ベルナトスにある大教会に宿泊していた。それがいつの間にか新たな魔王の到来を聞いてサイの中にある正義感からかサイは大教会に人を集める事を手伝った。それが間違いだと知らずに。

「サイ様・・・そろそろ下へ降りて来られてはどうですか?」と、修道女アンヌは声をかける。

「そうですね。日も暮れて来ましたから」と、サイは答えて大教会の中へ入って行く。大教会の赤い大扉は音も無く静かに2人・・・いや1人が入って行くのを確認するかのように閉まった。

サイの前と後ろには修道女がついている。1人を案内するのに2人で案内する様にサイは安心感を抱いていく。ここは安全だと。この聖なる場所にいれば魔王の魔の手から逃げられると。ああ、何という勘違い。

階段を降りて行くとまた赤い扉がある。赤い扉・・・上位契約者の扉を似せて赤いペンキで塗られた扉は開かれてサイが案内した300人以上の旅人たちが紅茶を飲み、パンを食べながらくつろいでいる。

その奥には教壇があって1人の修道女が立っている。

「自分もこの辺に座って紅茶をいただきたい。それにパンも」と、サイは案内してくれている修道女アンヌに話しかけた。

「いえいえ、サイ様にはいちばん前の席を用意しています。」と、修道女アンヌは答える。

「そうですか。そういう事なら」と、サイはいちばん前の席へ案内された。座ると紅茶とパンを与えられた。聞くとお代わりは自由だそうだ。

(いい町にこれた。やはり神はおられるのだ。魔王が支配する世だと絶望している場合じゃないな。故郷に帰ってこの事を伝えなくては)と、サイは胸に熱い想いを抱きながら食事を楽しんだ。

教壇で立っている銀髪の修道女は静かに口を開いた。

「お集まりの皆様、預言の時は来ました。さあ、銅像をこちらへ」と、銀髪の修道女は言う。

4人の修道女たちが黒く変色してしまった本を持った少女の銅像を持ち運んで来た。奇妙なところは少女の目にはルビーが埋め込まれていて赤く輝いている。銅像は銀髪の修道女が立っていた場所に置かれた。

「ご降臨ください・・・魔王の書の主よ」と、銀髪の修道女が言う。

「ご降臨ください・・・魔王の書の主よ」と、他の修道女たちも声を揃えて言う。

旅人たちはザワザワとざわつき出した。サイもそのうちの1人だ。

「ここから出せ」と、いちばん後ろの扉を開けようとする者もいた。黒い手が心臓を抜き取る。音も無く、声すら出せずに扉に近づいた者たちは死んで行った。

扉に近づけば死ぬ。それは出口が無くなった事を意味する。

「ふっふざけるなー」と、サイは叫んだ。

「ご降臨ください・・・魔王の書の主よ」と、修道女たちは唱えている。

「なっ」サイは動いた。リーダーと思われる銀髪の修道女に。

「いますぐこのふざけた儀式をやめろ」と、サイは銀髪の修道女の胸ぐらをつかんで叫ぶ。

変色した銅像にヒビが入る。音を立てて崩れて行く。

黒髪で左腕から下が無く、右手に魔王の書を持ち、赤く染まった目をした少女が現れた。

その目は黒く染まる。いや、無くなった?少女は目をつぶると瞼の間から蜘蛛が這い出して行く。

サイは右腕を切られた。あまりの痛さに左手で右腕を抑える。血は止まらない。一体何で切られたのか?誰も刃物は持っていない。少女の黒い髪が伸びてサイを縛って行く。

「あぎゃあああああ」と、サイは叫ぶ。今度は左手が切られた。髪の毛だ。髪の毛で切られている。

縛る力は強くなっていく。「メフィスト」と、少女はしゃべった。それがサイの聞いた最後の音だった。

心臓は抜き取られ、声も出す事はできず、サイの命は終わり告げた。

「われら下僕に名前を教えてください。」と、修道女たちは言う。

「リスティア・ウィズ・クライン。リズと呼びなさい」と、少女リースは言う。

「はい、リズ様」と、メフィストフェレスの人形である修道女たちは声を合わせて答える。

「おばさん・・・・・・ありがとう」と、リースは笑う。

「いいのよ、リースちゃん」と、銀髪修道女オーロラおばさんはリースを抱きしめた。

(私の家族・・・もう戻れない。私は悪魔の王になるの?それで兄さんは生き返るの?)

<リズ様、サタンとの上位契約を確認できました。>

<われはサタン・・・そなたをあるじと認める>

(姿を見せなさい)と、リースは念じる。

紫の髪をしていて赤い目、白いタキシード姿でサタンは跪く。

<見事な混沌を見せていただきました。リズ様・・・お力を使う時は舌をいただきます>

(わかったわ。好きにしなさい)

「リースちゃん・・・ぞくぞくするわ。あなたが魔王の書の主であることに。それと私はあなたの母親の居所を知っているの。どうする?」と、オーロラおばさんは聞いてくる。

「・・・母さんの居場所・・・」と、リースはつぶやく。

激しい鼓動が胸の奥で湧き上がる。

「おばさん・・・ベレッカが起きてから教えて。聞いてしまうと何かが壊れてしまいそうなの」

「ええ、わかったわ。今は祝いましょう。」と、オーロラの合図で修道女たちは席につく。

赤ワインが配られる。

ワインを片手に祝う。その足元には300人以上の死体と共に。

(これが私の家族・・・私の家族なのね。うふふ、あははは)

リースに莫大な魔力が集まって行く。300人の死体はリースに吸い込まれるように渦となりて左腕を形成する。リースの舌が千切れる。

口の中に蜘蛛が広がる。その蜘蛛ごとリースはワインを飲む。

赤く染まった目で修道女たちを呼び寄せ、首を噛み、血を吸い上げて、また自分の魔力と共に血を分け与える。施す度に指が一本ずつ消えて行く。目が奪われて行く。心臓は破裂する。舌は千切れて行く。それでも10人いた修道女、オーロラおばさんも含めて全員にそれを施した。

「あなたたちに与えるは不死の呪い・・・身体が壊れても死なせてあげないわ。」そう言うとリースは席に座りワインを飲み干した。

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