美醜逆転はいいけれど……
「はぁ……」
確かに俺は、望みどおりの世界に来ることが出来た。
でも、この現状に絶望してため息を吐く。
場所は放課後すぐの教室、まだ残ってる生徒がこちらを心配そうに見てくる。
最初は良かったんだ。
なろうテンプレ通りのトラック転生
女神様に拝謁してからのチート選択
選んだのは、美醜貞操逆転世界への顔が変わらない……いや更にブサイクにした「イケメン」としての転生
自分と同じように『顔で差別されてる』娘をたくさん救ってハーレムを築こう、と考えた。
男は中身だ、と言いながらスタートラインにすら立たせてくれないクソビッチ共と俺は違うと証明したかったのだ。
歪んだ考えなのは気づいてた。
だけどそれをしなければ自意識も保てなかったし、この考え自体は今も間違いだとは思っていない。
だが俺の周りにはハーレムはいない。
美醜が逆転しなかったわけではない、自分みたいな糞ブサイクが最高のイケメンとして持てはやされてる
告白だって3日に1回はされるし、わざわざ家に芸能事務所がスカウトに来る事もある
貞操が逆転しなかったわけではない、電車に乗ると女達が皆こっちをチラチラ見てくるしコンビニに並ぶのは男性の裸の本だ
脇や腹をすき見しようとする女性も多い……
無意識に見てしまう『女性』もいると前世の知識で知ってるので、他の男性ほど敏感にはならないし、いい気分ですらある
だが俺の周りにはハーレムはいない。
チラッと教室の奥にいる、この世界でのブサイク---つまり美少女の素質がある---である三上章子を見る。
顔はいい、スタイルもいい、声だって素晴らしい声をしている
だが……
「え~チ○コはでかいほうがいいでしょ~」
「出た~チ○コ星人」
「女は皆チ○コがでかい方がいいでしょ!」
「まぁそうだけどさぁ…ww」
教室の反対側から声が響く
糊付けもされていないヨレヨレの制服
食べ物のシミが付いたと思われる袖
ここからでも確認できるほどに爪アカがたまった爪
話してる相方のメガネは油でギトギトだ
「チ○コがでかいっていったら、隣のクラスの高梨って凄いよね?」
「ああ、体育の度にビッタビッタ揺れてるのがわかるww」
もう日常過ぎて無視されている状況ではあるが、不快なのには変わりない
はやく待ち人が来ないかと考えていると
「待った?タカシ?」
まあまあの美人…こちらの言い方でいうなら下の中クラスのブサイクが、教室前から声を掛けてくる
恋人である彼女ー「姫路」だが、この世界では珍しい化粧をしている
わざと一重であるような化粧をせず、二重であるような化粧をする
わざと顔の大きさをアピールするような髪型にせず、元から小さい顔がわかるような髪型にしている
もちろん制服はキチンとアイロンが掛けてあるし、髪も爪も両方の世界の常識の範囲で整えられてる
本来の彼女はもうちょっと『美人』だ
この世界の中では平均より下~下の上程度の素質であろうが、化粧によって下の中くらいに落とされている
彼女が何故こんなブサイクを強調する化粧をしてるかというと…
「ううん大丈夫だよ姫路、いこうか」
「うん、帰ろう」
二人で教室を出て歩き出す
「…何か不機嫌そうだけど…あ~中身が反転していてもああいうのは不愉快なんだ?」
「廊下まで聞こえてたのか、あの二人の声」
「そりゃそうだよ、男の子はドン引きしてたし、女の子でもちょっときついよアレは」
「それと同じだよ、中身が反転してる『男の子』でも同じくらい不愉快になる」
「あ~他の男と感性が逆のタカシでもきついのね」
「人間には最低限の常識ってものがあるからね」
少し戸惑う彼女に僕は伝える
「姫路には感謝してるよ」
「どうしたの突然?」
「美醜と貞操が逆転しているって言っても、引いたり馬鹿にせず化粧もあわせてくれるんだから」
「ちょっと、そりゃ自分だって」
『好きでいて貰いたいから…』顔が見えないように恥ずかしそうに向こうを向いてボソボソ喋る
とつぜん校内を揺るがした、美男野女カップル
未だに理由も知られていないが、本当の始まりは簡単だ
ヒトとして最低限の清潔さと常識を持った上で、俺の『逆転感性』を受け入れてくれるか
ただそれだけの話だった。
これに美醜逆転による美人かどうかの判断は入っていない
…いや、正確には入っているかもしれないが、それは第一印象であって最終的には『人間として好きになれるか』どうかだった。
前の世界で、『男は中身だ』と言いながらスタートラインにすら立たせてくれないクソビッチ共と俺は違う。それは間違いない。
だが、本当にそのクソビッチ共はスタートラインに立たせてくれない連中ばかりだったんだろうか?
勿論、顔でしか判断しないクソビッチはいた、でもあの世界での俺は自分からスタートラインを降りてたんじゃないだろうか?
「どうしたのタカシ?気分が悪いの?休もうか?」
数歩先に言ってる彼女の言葉にハッとする、いや考えるな、少なくとも今の自分には彼女がいる。
彼女と共にお互いの為に努力して歩んでいける自信と信頼がある。
「いや、なんでもないよ姫路、行こうか」
だから俺は間違っていない、ハーレムも必要を感じないだけで元の世界には信頼に足る女がいなかっただけだ。
そう信じて俺は彼女にむかって歩みだした。
これ主人公まだダメっぽいですが、実は気づいてる姫路さんが根気よく矯正してくれてます
捨てられないうちに頑張れ主人公