武器と魔法書を物色して
町に戻り、俺はまず武器屋に入った。
腹が減ったから最初に飯を食おうとも考えたが、先に武器屋を見つけたので入った。
もちろん今すぐに武器を買うつもりはない。
まずは腹を満たし、それからの兼ね合いだ。
「お、兄ちゃん見ない顔だな」
「まあ、この町は初めてだからな」
「見ていきなよ」
やや暗めの店内は、雰囲気が醸し出ていた。
壁にはズラーっと多種多様な武器が並べられていた。
剣に槍、斧、棍棒、弓、鞭…本当に色々ある。
試しに見た目がシンプルな剣を見てみる。
”ショートソード 300ゴル”。
ぬっ…これは…。
「足りないかぁ…」
「兄ちゃん、何をお探しで?」
「いや、別に何が欲しいってわけじゃないんだが…この店で一番安いのはなんだ?」
「80ゴルでブロンズダガーが買えるが、あまりお勧めはしないねえ」
「なんでだ?」
「銅は錆びやすいし脆い、それに短剣じゃ魔物とは戦い辛いぜ」
なるほど、全くだ。
「次に安いのは?」
「120ゴルのシルバダガーだな。次は兄ちゃんが見てたショートソードだ」
短剣を避けたとして、最低300ゴルか。
あとリスを5,6匹倒せれば稼げないこともないが、飯のこともある。
「ちなみに一番高いのは?」
「値段で言えば奥の部屋に飾ってあるカンブリアソードだ。だがあれは普通の客には売れねえな」
「そうなのか、値段は?」
「一応、300万ゴルだ」
うん、聞こえない。
「あ、そうだ」
俺は持っていた魔法書のことを思い出した。
いっそこれを売ってしまうというのも一つの手かもしれない。
「これは売れない?」
「魔法書か?年季入ってんなー…悪いがうちじゃ扱ってない。魔法書の店に行ってくれ」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
俺はとりあえず武器屋を出て、飯を食いに行った。
飲食店に入ってみたが、どれもこれも100ゴルを超えていて、ちょっと手が出しづらかった。
だから俺は、食品店に行って、100ゴルを払って燻製肉と果物を買った。
暫くサバイバル生活が続きそうだし、これであれば保存が効く。
燻製肉を齧りながら街を歩き、魔法書店を探す。
燻製肉は意外と美味で、病みつきになる。
お酒が進みそうだ。
しばらく歩いていると、魔法書店を発見した。
青を基調とした如何にも魔法が絡んでそうな店だ。
こっちの世界は、割とお洒落なものが多い。
燻製肉の入ったパッケージだったり、俺が着ている服だったり。
はたまた、魔法書の表紙のデザインだったり。
「あら、あなた見ない顔ねぇ」
お前ら店員はそれしか言えないのかと突っ込みたくなったが、事実なので抑えた。
50行くか行かないかくらいのおばさんが対応してくれた。
俺はおばさんに魔法書を無言で見せつける。
まずは反応を見て、この魔法書の価値をはかってやる。
「あら魔法書かい?随分古びてるね~」
「やっぱ古いのかこれ」
武器屋のおっさんにも年季が入っていると言われた。
確かに見た目はだいぶ使い古された感があって、ページも色がくすんでいる。
もともとこんなものだと思っていたが、店に並べられた魔法書と比べると、明らかに違っていた。
新品はもっと色が綺麗だ。
「これ、普通の魔法書?」
「そうねえ、ランクも一番下だね」
「え?」
俺は驚きのあまり表紙を確認する。
使い古されてる割にランクが一番下とは、拍子抜けもいいところだ。
「ランクなんてあるのか?」
「ええ。まず大きく、魔法書、大魔法書、超魔法書、神魔法書に分けられるねぇ。まあ超魔法書と神魔法書に関しては、この店では取り扱ってないけどね~」
「そこからまた分かれるのか?」
「ええ。魔法書にもランクがAからDまであるわ。お客様が持っているのはD魔法書だね~」
マジで一番下なのか。
言わせてもらえば、下の下ってことだな。
「じゃあこれは持っててもしょうがない感じ?」
「お客様がそれなりの魔法を習得しているのであれば、必要はないわ」
悪いが魔法は一切使えない。
「それに、魔法書のランクを上げれば上げる程、文法事項も増えていくから、大変だわ」
「文法?」
「魔法書には普通の文字とは違う魔法文字というのもがあるのよ。知らないの?」
あーまたやってしまった。
要するに日本語と英語ってことだろ?
英語は文法事項が多いからな、世の高校生を唸らせる。
まあ俺もその一人だったわけだが。
「い、いや、魔法書に興味がなかったからな~」
「てことはあなた、魔法文字が読めないってこと?」
待てよ?
俺はこの古い魔法書に書かれた文字をさっき普通に読めていなかったか?
これはまさかと思うが、やっぱり俺の素質って…文字が読めること?
「いや、そのまあ、読めないね…確かに」
ここで読めると言ってしまえば矛盾が生じてしまう。
適当に話を合わせておこう。
「だったら文法書から先に買った方が――――」
「アーいやそれも持ってるから大丈夫。とりあえずこの魔法書売りたいんだけど」
「魔法書の取引は行ってないわ」
「は?なんで?」
「本当に何も知らないのね。いい?魔法書っていうのは店で誰かに買われて初めて、その人を”持ち主”だと認識するの。そうすると、魔法書は持ち主の魔力を感じ取って、その魔力が魔法書に刻まれるの。だから、その魔法書はその瞬間にその人だけのものになる。取引をしたいと言っても、お金じゃ解決できないのよ」
俺はその後、店を出た。
ちょっとしつこい店員のおかげで色々なことが判明した。
第一に、魔法書には種類があること。
第二に、俺が拾った魔法書はランクが一番下だったこと。
第三に、魔法文字という存在。
そして第四に、魔法書には持ち主が決まっていること。
どれもこれも俺にとっては知りたくなかった事実ばかりだ。