口の利き方に気を付けて
俺はつい先ほど死んでしまったようだ。
原因は覚えてないけど、たぶん交通事故だ。
俺は真っ黒い空間にいた。
前後左右上下も分からない。
自分が今立っているのか、座っているのか、横になっているのかも分からない。
声が聞こえてきた。
『ごめん、人違いだったわ』
お?なんだなんだ?
「人違い?」
『いやあ、あんたが今日死にゆく肉体だと思ってたんだが…』
「今日死ぬはずの人間の代わりに俺が死んだということか?」
『そういうこと』
なんだこいつ!
俺は人違いで殺されたということか。
「そんなことあるのか」
『似てたんだよ、顔が』
「俺に似てるやつとか…」
『あんたの弟だよ』
「なぬ?」
これは意外だ。
確かに俺たち兄弟は顔がそっくりだと、巷では話題だった。
双子ではないのだが、顔が似ているのだ。
下手したら、似てない双子よりは似ているかもしれない。
「弟の代わりに死ぬとは…俺もデカい人間になったなぁ」
『こっちのミスだっつーの』
「分かってるよ、ってか…」
こいつはなんでこんなに反省してないんだ?
間違えて人を殺しておいて、口の利き方がなっていない。
こいつの正体が何かなんてどうでもいい。
どうせ神とかだろうし。
「どうしてくれんだ。俺はまだ死にたくなかったぞ」
『すまんねえ、異例だけど、あんたを生き返らせようと思う』
「お、そうか、では頼む」
そんなあっさり生き返っていいのか?
生き返った頃には、俺のあだ名はキリストになっていそうな気もする。
だがまあ、それも悪くない。
『分かってると思うが、元の世界は無理だぜ?』
「は?なんで」
『そう都合の良いようには出来てねえってことだ。ちなみに、あんたが生き返るのは”世界4-CF”だよ』
ロボットみたいな名前の世界だが、要は異世界と言うやつか。
異世界転生には多少なりの興味がある。
「ただ生き返らせるつもりじゃねえだろうな?」
『ん?どういうことだ?』
「詫びだよ詫び。詫びとして俺になんかスキルを付与してくれ」
『はぁ?俺にはそんな力ないんだな~悪いけど』
くっ、なんだこいつ。
神(予想)のくせにそんなことも出来ないのか…
いや、そんなことすら出来ないとしても、この口の利き方はおかしい。
まずは謝るのが先だろう…。
まあここで俺がキレても利益はない。
『だがまあ、素質というのは付与できるかも』
「素質?才能ってことか?」
『まあ平たく言えばな。だがどんな素質が行き渡るかは俺にも分からんが、それでもいいか?』
「素質って例えばどんな?」
『魔法の素質、剣術の素質、料理の素質、話術の素質…色々あるぜ』
ん?待てよ?
「え?俺が行く世界ってまさか……」
『あんたらの世界の言葉を借りて言うなら、剣と魔法の世界…所謂ファンタジー世界だな』
これはちょっと…うん、面倒くさそうだ。
勇者とか英雄に多少の憧れはあるが、痛いのは嫌だ。
痛いのは一番嫌だ。
自分が痛いのも嫌だが、人が痛がっているのを見るのも嫌だ。
俺は心がクリアだからな。
「もうなんでもいいや」
『じゃ、素質付与で世界4-CFな』
「口の利き方どうにかしろって」
『じゃ、第二の人生エンジョイして来いよ~』
どうやら話の通じない奴らしい。
俺は、そのまま意識を失った。