幻想のポエム
恋する二人の男女の心の擦れ違う様を美しい満月の心に託します。
橙色の満月が丸い雲を涙の遮光のように悲しげに見下ろす公園。
ブランコが風に揺れ、その満月の悲しみを軋む音として鳴らす。
キーコ、キーコという音に交じってベンチに座り若い男女が別れ話しを交わしている。
青年がすがりつくように言った。
「何故お前は別れると言うのだ。別れる理由なんか俺達には無いじゃないか。俺はお前を愛しているんだ!」
少女が満月を見上げ、そのおぼろげな遮光の水の冷たさにまるで許しをこうかのようにため息をつき答える。
「貴方は私なんか愛してはいないわ。あなたの言葉は皆嘘なのよ」
青年が怒鳴る。
「俺はお前を愛している。愛しているからこそ、こうやって別れたくないと叫び、縋り付いているのじゃないか。違うのか?!」
少女が涙を溜めるが、それを吹っ切るように言った。
「私には分かるの。あなたの心の隅々が、それはまるであの高い空に浮かぶ満月の青いインクの遮光が、私の心を果てしなく包んで行くように、貴方のさよならが私の心に伝わって来るの。だからもう悲しくなるだけだし、私達は別れるしか無いのよ。御免ね」
青年が満月を見上げ喚いた。
「あの満月の遮光が水色のインクになって、お前はあの悲しげに鳴るブランコの軋む音と同じく空一杯の悲しみとなって俺と別れると言うのならば、俺にはそんな別れは絶対理解なんか出来ないし、俺は認めないぞ!」
少女が恋をそむくように満月から視線を外し静かに言った。
「私には分かるの。この空一杯に広がる水色のインクの悲しみは私達の別離の広がりなのよ。だからそのインクの悲しみは私の心一杯にも広がっている悲しでもあるのよ。だから、分かって?」
青年が首を振り答える。
「嫌だ俺にはこの空と満月とブランコの軋む別れなんな認めやしないぞ。絶対にな!」
「もう私達はおしまいなのよ。御免ね」
「嫌だ、俺は別れない。絶対に別れない。頼むから、俺と別れないと言ってくれないか、頼む!」
「もうおしまいなのよ、御免ね」
「嫌だ、俺はお前を愛している!」
「愛してなんかいないわ」
「嫌だ、俺は別れないぞ。俺はお前を愛している!」
「愛してなんかいないわ。御免ね」
「嫌だ、俺はお前を愛している!」
「愛してなんかいないわ」
「俺は別れたくなんか無いんだ。お前を愛しているんだ!」
「愛してなんかいないわ」
そんな二人の悲しみを包むように、満月が水色のインクの遮光をブランコの軋む音のように丸く広げて行き、どこまでも、どこまでも広がって行った。
情熱に燃えた恋と別離を水色のインクで描いた風景画のような文章にしました。よろしくお願いします。